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迷入

これまで積み重ねてきた違和感が、

少しずつ形を持ち始めています。


選んだ道の先にあったものは、

本当に“自分で選んだ結果”だったのか。


今回は、その境目に触れる回になります。


爺ちゃんと話をしながら帰ったら、女性陣が楽しそうに話していた。

姐さんも梓ちゃんもちゃんとリフレッシュできたようで一安心といったところだ。

祖母も話に混ざっているところを見ると、今日は実のある一日だったようだ。


「ただいま~」

「おかえり~」


間の抜けたやり取りを返してくれるのは姐さんくらいだった。

今日の出来事の報告会は明日の朝にすることにして、今日のところは早く休むことにした。

姐さんと梓ちゃんが客間という名の寝室に向かった後、祖父母と俺だけが居間に残っていた。


「婆ちゃん、今年はいつやったら暇ある?」

「おじいちゃんと話をしたんかい?」

「うん、せやねん。ちょっと勉強会しようかと思てんねんけど、いつ頃が良いかなと思て。」

「せやなぁ…夏休みくらいがええんちゃうか?」


この時期からだと一番近い長期休暇となると夏休みになるかと、妙に納得して頷いた。

祖母に、夏休み期間ならいつでも大丈夫か聞いて、何となくお盆ごろから半月くらいかと勝手に想像した。


「あんたの事やから、一人で来るつもりはないんやろ?」

「ようわかってるやん。」

「十人ちょっとくらいやったら、離も使ったらええわ。それまでには掃除しとくさかい。」


何となくイメージされているのだろう、全て先読みされている感じだった。

祖母のこういうところは、すごく有難いし、気持ちが軽くなる。

祖父も合いの手を入れながら、夏休みの計画を進めていた。

何だかんだ言っても、たくさんの人が集まるというだけで楽しい気分になるのだろう。


「明日は大台ケ原やろ?気合い入れんとあかんで。」

「爺ちゃんたちは、どうするん?」

「どうしたいか言うてみ?」


しばらく考え込んだ。

自分たちだけで行って、ちゃんと考えたり、経験するのも大事だと思った。

ただ、今回は場所を考えても、何かあったときのバックアップが欲しい。

背に腹は代えられないと思って、万一の時の備えをお願いすることにした。


「せやな、何かあってからやと遅いわな。」


祖父はその答えが分かっていたかのようだった。

そこまで決めてしまって、皆、休むことにした。



—— 翌朝、皆緊張していたのか、普段より早く居間に集まっていた。

一旦リフレッシュした分、緊張感はいいものになっている感じがした。

適度に緊張していて、疲弊している感じはなくなっていた。


今日も祖父母を伴っての移動になるので、車を借りていくことにした。

昨日、姐さんが乗ったらしいが、一昨日に借りた車よりも高級車になっていた…。

姐さんに先を越されたのが、ちょっとだけ悔しい気がした。


「さあ、今日はお弁当も持って…ってなんでやねん!?」

「婆ちゃんが作ったからや。ほれほれ、早く乗り込んでや~。」


祖父がさも当たり前と言った感じで、後部座席に女性陣を乗せていった。

当たり前のように弁当が準備されていたのがありがたかったのと同時に、いつの間に…といった感じになってしまった。


そこから目的地まで、午前中いっぱいくらいを使って移動した。

駐車場に到着してから、某峠のほうに歩いていく。

観光コースともなっているので、明らかに何かがあるという感じではないが、緊張からか少し肌寒さを感じた。


「陽向くん、ちょっと寒くなってない?」

「山の中やから、多少は寒いんちゃうかなぁ。」


自分と同じ疑問を持っていた姐さんをやり過ごすのに、山の標高のせいにした。

全くの嘘ではないので、ここは許してもらおう。


場所の影響だろうが、風が強く、こちらに向かってくるなと言われているんじゃないかと錯覚する。

普通に歩くよりは、やはり体力を消耗した。


「風は強いですけど、何か色々感じるものがある、いいところですよね。」

「昔はもっと茂っとったんやけどなぁ…、まぁ、色々あったからの。」

「あの説明のところに書いてあった内容、実際に見たことがあるんですか?」

「せやな、爺ちゃんたちがまだ若いころになぁ…」


祖父が少し遠くを見るような仕草をしていた。

若いころの思い出など、色々思うところがあるのだろう。


木道を過ぎ、少し荒れた山道になる。

全体的に整備されているので、歩きにくいような感じはしないのだが、着々と何かが近づいている気がしていた。

特に何かがあるわけではないが、何となく、虫の知らせというやつだ。


峠を過ぎ、しばらく歩くと大蛇嵓にたどり着いた。

思ったよりは早く着いたのだが、晴れているのに、何となく薄暗く感じた。

開けている場所が、まるで何かに囲まれたような感覚に陥る。


「陽向くん、やっぱり寒い気がするよ?」

「陽向さん、私も寒い気がします。」


女性陣が寒さを訴えてくる。

標高が影響していることは間違いないと思うが、それだけで説明できない感じだった。

状況が見えないので、祖父の方を窺ってみる。

案の定というか、腕組をしたまま、こちらを見ていた。


「何や、日差しのわりに寒いなぁ…」

「陽向さん、あちらって断崖でしたよね…?」


梓ちゃんが指差す先に、朱塗りの鳥居が複数ならんでいた。

その鳥居が見えるところ、“あそこは地面がない”場所だった。

鳥居は見えているのに、そこに「あるはずの地面」が、どこにも見えない。


それを認識した次の瞬間、

視界が一度、わずかに揺らいだ。

揺らぎが収まってあたりを見ると、武家屋敷の中に迷い込んだように、長い廊下が見えていた。


足元の感触が消え、

次に踏みしめたときには——

「何や?!」


急な場面転換だったので、思わず声が出てしまう。

周りを見回しても、暗い廊下に立っている状況だった。

不幸中の幸いは、女性陣、祖父母まで含めた状態だったことだ。


「慌てたらあかんで、陽向。」


祖父の声で一気に冷静になることができた。

落ち着いているその様子を見て、状況を聞いてみようかと思ったが、鳥居の方を見たらそれどころではなくなった。


「あ…、自分…」


廊下の奥から、足音もなく——それは現れた。

狐面をかぶった少女を二人引き連れ、まっすぐこちらに向かってきていた。

鳥居もたくさん並んでいるが、不思議と廊下の外に出そうになっているものがない状態だ。


「陽向くん…、今回こそは…」


姐さんの期待を背に受け、少女との対話を試みようとした。



—— 少女の瞳には拒絶の色はなかった。

「迷入」、いかがだったでしょうか。


気が付けば認識している場所と別の場所に立っている。


そんな感覚を、少しでも感じていただけていれば嬉しいです。


ここから先は、これまでの“違和感”とは少し違う形で、

より明確なものとして現れてきます。


次回、ついに対話に踏み込みます。


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