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干渉

伊勢編、後編になります。


前回は「見えているのに、正しく認識できない」違和感でしたが、

今回はそのズレが、少しだけ“こちら側”に影響してきます。


とはいえ、大きな何かが起きるわけではありません。

ただ、確実に“関わってきている”——そんな回です。


しばらく、そのズレた風景を見ていたが、元に戻る気配はなかった。

ただ、そこから何か出てくるわけでも、ズレが広がっていくわけでもなかった。

同じズレ方のまま、それを維持していた。


「何やねん、これ…」


そこから、何か霊的なものが湧いてくるのかと警戒してみたがそうでもなかった。

一旦退いてから、別のところを見てみることも考えたが、目が離せない。

金縛りというわけではないが、意識をそらすことを拒絶されていた。


「陽向さん、あの隙間から何か見える気がします…」

「私も、見えはしないけど、何か気持ち悪いものが近づいてくる感じがするわ…」


女性陣がまたも体調不良を訴え始めた。

場所が場所なので、体を蝕むようなものはないと思っていたが甘かった。

梓ちゃんはまだ耐性があるのだろう、不安そうにしているだけだったが、姐さんはそうではない。

見る見る間に顔が青ざめていった。


「姐さん、一回退くで!」


そう言って、半ば抱えるようにしてその場を離れようとした。

が、姐さんの体が鉛のように重い。

上に何か乗っているというよりは、姐さん自身を下から引っ張っているような感じだった。


「何やねん!ええ加減に…」


前にオトンに習ったやり方で、姐さんを引っ張る何かを振り払おうとした。

と、その時、先ほどのズレのあったところの少し手前、皇大神宮のご神体があろう辺りから光が射した。

それと共に、姐さんの重みも解消し、顔色もよくなってきた。


「…今度は何や…?」

「陽向さん、ここに祀られているのって、もしかして。」

「有名やとは思うけど、天照大神やな…まさかとは思うけど…?」

「せやな、こんなとこやと、悪さすることはでけへんやろ。」


いつの間にかすぐ後ろに祖父が来ていた。

祖母は姐さんの様子を見ながら、何かを飲ませている。


「お神酒や。念のためやけども、こんなんなったからなぁ…」


祖母は姐さんの体調が、何か物理的なものではないということを理解していて、対処していたようだった。

しかし、うちの祖父母は何者なんだと、改めて思わされる。


「陽向よぅ、恒一に伝えとくから、もう一回ウチで勉強して帰るか?」

「流石に、姐さんがこうなるのは悔しいさかい、ちょっとお願いしたいわ…」


姐さんは、いつも俺たちの細かな世話を焼いてくれる人だ。

色々な面で助けてもらっているのに、こんな巻き込み方は納得がいかなかった。

少なくとも、俺は両親の影響でいろいろできたはずなのに、今回は全く何もできていない。


「よっしゃ、とりあえず、一通り用事が終わったらみんな連れてこい。」

「みんなて…」

「爺ちゃんが分からんと思ってるわけちゃうやろなぁ?」


いつもの祖父らしく、悪戯っぽく笑っていた。

気を遣われているのもあるが、こうやって若者の力になれるのはうれしいようだった。

そう言えば、若者の勉強とかに対しては、神社を開放したりもしていたのを思い出した。



お神酒の効果もあってか、しばらくして姐さんが目を覚ました。

気を失っていたというわけではないのだろうが、意識が虚ろな状態になっていたようだ。


「すいません、お世話になりました。」


祖父母に頭を下げる。

祖父は気にしないようにと、祖母は元気になってよかったと姐さんを気遣う。

そろそろ、空気を換えないと自責の念に耐えれそうになかった。


「なぁ、爺ちゃん、赤福本店行くやろ?」

「当たり前やがな!あそこに行かんで伊勢に来た意味ないやろ!」


結構いい勢いで祖父が返してきた。

祖父もこの空気が嫌だったようで、丁度良かったとばかりに乗っかってきた。


「本店って何があるんですか?」

「お土産だけやなくて、ここでだけ食べれるメニューがあるねん。」


やっぱり女子は甘いものが好きなようで、ここに梓ちゃんが反応する。

つい先ほどまで体調が良くなかった姐さんでさえ、こちらの話に聞き耳を立てていた。


「陽向くん、オ(・)ゴ(・)リ(・)よねぇ?」

「う…」


祖父母に救援の視線を向けるが、そりゃしゃあないわなと言わんがばかりの苦笑いを返された。


「はい…。」


結果、祖父母を含む全員分を奢ることになった…

赤福本店で、季節のメニューを頂いてご満悦、となってから近くの町並みなどを観光して車に戻った。

車に戻ったころには夕方になっていたので、そこそこの時間、観光していたことになる。


「陽向さん!松阪!!」


梓ちゃんが忘れずに言ってくる。

色々あったので、少し忘れかけていたが、意外に最もお肉を求める女子高生から催促された。

祖父母にもこちらに向かう道中、楽しみにしているという話をしていたので、全員で向かうことになった。

実は、姐さんも肉を食べる時は、その体のどこに入るのか疑問になる。



しばらく走ると、以前に友人とよく来ていた焼き肉店に到着した。

精肉店に併設しているところで、本場のお高い肉ではないが、ここでも十分美味しく頂ける。

しばらく来ていないので、システムが変わっていないか心配ではあったが、杞憂に終わった。


「わぁ~…」

「個人的には、こういうところは好きね~。」


女性陣の方が肉に感動しているという、ちょっと変わった構図になっているが、これはこれで楽しかった。

ビュッフェ形式なので、好き好きに食べながら、関東から見た関西の話で盛り上がった。


「帰ったらお姉ちゃんに自慢しますね!」

「あれ、澪ちゃんって肉食派だっけか?」

「何でもおいしく食べるタイプですけど、こういったのは言ったもの勝ちだと思います!」


よっぽど楽しかったのだろう、ひとしきり食べ終わった後、興奮気味に行っていた。

全員でこっちに来るタイミングがあれば、また寄ってみてもいいかなと、少しうれしくなった。


「陽向、家の風呂は準備してないから、帰りにどっか寄れるか?」

「あぁ、そりゃそうやわな。ちょっと見てみるわ。」


近くにちょうどいい温泉施設があるのを確認できたので、帰りはそちらに寄って帰ることにした。


温泉施設に入ると、男女に分かれてそれぞれの浴場に進んだ。

結構広いところなのだが、入っている客は祖父と自分の二人以外に居なかった。

ゆっくり話すのにちょうどいい。


「なぁ、爺ちゃん、今日のって何やったん?」

「今日のんか?まぁ、何か悪いやつが悪戯半分にお姉ちゃんの方を引っ張ろうとしたんやろな。」

「悪いやつって何よ?」


悪いやつというあいまいな表現をされたのが気になった。

霊的なものならそういう風に教えてほしい。


「せやなぁ、ちょっと説明が難しいわ。勉強の途中で分かるようになるとは思うけどな~。」

「うーん、ちょっとモヤるけど、まぁええわ。今やないってことやんな。」


祖父がこうやってはぐらかすときは、今、教えても意味がないと判断した場合だ。

ということは、どこかのタイミングでおのずと分かるようになるという事だと解釈した。


「陽向は、あのお月さんを見るのに、目に入る松の木分かるか?」

「ああ、なんや、風流に見えるレイアウトにしとるよなぁ。」

「松を見て何とも思わんか?」

「え?」


よくよく見てみると、少しだけズレている気がする。

昼に見たやつほどはっきりしたものではないが、確かに少しだけぼやけて見える部分がある。

針葉樹の葉が太ったり痩せたりしている部分があるようにも見えた。


「これは大丈夫やけども、理屈は同じはずやな。ちょっと時間かけて考えてみたらええわ。」


祖父は難しい課題を渡してきて、もう一度露天風呂でくつろぎ始めた。

折角なので、俺も一緒に楽しむことにした。


全員が風呂から上がり、一息ついたところで、車に戻った。

その後、家に戻るまでの道中は、俺しか起きていなかった。

ちょうどいいので、温泉での出来事を思い出す。


—— あのお月さんも、何やボヤっとしてたなぁ…

……気のせいやと、ええんやけど。



伊勢編、これにて一区切りです。


「錯視」から「干渉」へ。

見えているだけだったものが、ほんの少しだけ現実に触れてきました。


ただ、それが何なのか、どう対処すべきなのかは、まだはっきりしていません。

分かっているのは、“同じ構造のものが他にもある”ということくらいでしょうか。


陽向にとっても、一つの区切りになった回だと思います。


次回からは、少しずつ整理しながら、また別の場所へ向かいます。


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