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発心

【前書き】


陽向編、スタートです。


今回は視点が変わり、いつもの「境視点」とは少し違った空気感になっています。

どちらかというと、理屈よりも感覚寄り。

楽しい空気の中に、ほんの少しだけ“違和感”が混ざる、そんな入りです。


まずは関西へ。

……ただのドライブになるはずだったんですけどね。


新しい車で、両手に花という環境は、気分を高揚させるのに十分だった。

それも、古巣のある関西への遠征。

采配してくれた境に感謝を伝えたい気分だ。


「梓ちゃん、車酔いせえへんか?」

「はい、遊園地のコーヒーカップを全速力にしなければ、乗り物酔いはしないですよ。」

「いや、全速力はあかんやろ…」


あれを全速力にして動かす強者なんて、身の回りで聞いたことは無かった。

隣の姐さんも、想像しただけで気持ち悪かったらしい。


「姐さん、想像したらあかんて…」

「姐さんは…まぁ、いいわ…」


いくら指摘しても直らないので、諦めてくれたようだった。

こればっかりは、性格的に染みついたものなので諦めてもらわないと困ってしまう。


「目的地まで移動に一日かかるんじゃない?」

「せやなぁ、8時間はかかると思ってもうた方がええかな。」


関西へは時々行っているので、ナビの設定をしていなかったが、感覚的に到着は夕方から夜になると思う。

祖父母の家が大阪にあるのと、気楽に泊めてもらえるところが各府県に何か所かあるので、そのあたりは気にしていなかった。

幸か不幸か、祖父母も神主で、大きな屋敷のようになっているので、寝床には困らない。


「とすると、到着後はすぐに休むことになるかしら?」


言われる通り、到着後にどこかに行こうと思える時間にはならないと思うので、そのまま答える。


「せやね。今日は爺ちゃんとこに行こうと思ってるねん。」

「ご迷惑じゃない?」

「電話して、歓迎モードやったから大丈夫!」

「そう?ならお言葉に甘えようかしら。」


祖父母とも、神主っぽい威厳を感じないタイプで、関西の人間らしく賑やかなのが好きだった。

なので、友人が泊まりに来るとなると、オーバーなくらいの歓迎モードになる。

まぁ、年中お祭りみたいな人種が多い地域なので、そういった人種が多いのもあるだろう。


「私も一緒で大丈夫ですかね?」

「流石の爺ちゃんも、孫がハーレム連れてきたとは思わんて。」


隣で紅茶を飲んでいた姐さんが、盛大にむせていた。

こういう、狙っていない一言の方がウケるというのは、我ながら納得いかないものがある。


「陽向くん、タイミング悪い…」

「いや、狙ってへんかってんで。」


そんなくだらない話をしながら、はるか遠く、関西までの旅は進んでいった。



やはり、三分の一も進まないうちに、二人とも夢の中に行ってしまった。

殆ど高速道路で移動するので、そりゃあ眠いことだろう。

俺も慣れていなければ、途中で昼寝をしているところだったと思う。


途中、宗教都市ともいえる街にあるSAでトイレ休憩をとった。

トイレから出たとき、妙に静かな気がした。

人はいるのに、音が少ない。

——こんなもんやったっけ。

そんな錯覚を覚えた。


個人的には、ここのラーメン屋に寄っていきたいところだが、爺ちゃんが夕飯の準備をしてくれるといっていたので、トイレと飲み物だけの休憩にした。


「しっかし、相変わらずな街やなぁ…」


ここからは見えないが、前に下道を走っているときに色々なシンボルが見えて、衝撃を受けた覚えがある。

街並みを見ている限りでも、そういった雰囲気を感じてしまうのは、家系が影響しているのだろう。

こういった土地柄というのもあるが、先日までの事件類がここでも影響しているような居心地の悪さを感じ、早々とSAを後にした。


そこから祖父母の家までノンストップで走って、夕方、日暮れごろには到着することができた。


「陽向さん、ここがお祖父さんたちのお家なんですか…?」


驚くのも無理はない。

代々続く神主の家系というのもあり、祖父母のお屋敷は非常に大きいものだった。

それこそ、いつものメンバーに、梓ちゃんたちのグループまで一緒に来ても、全然部屋数には困らないと思う。

境や静流はこちらに来たことがあるので大丈夫だが、他の面々は驚いて当然だろうと思った。


「せやで、俺が鍵持ってるから、そのまま入るわ。」


駐車場の門扉については、少し前にリモコンシャッターに変えたらしく、郵送されてきていたリモコンが活躍した。

車を停めていると、奥の方から祖母が近づいてきた。

雰囲気のためだろうか、提灯の形をした電池式のランタンを持ってきていた。


「おかえり、陽向ちゃん。お友達も、いらっしゃい。」

「お邪魔します。」


フレンドリーな祖母に、姐さんが返す。

お互い、いいお付き合いができると思ったのか、ふわっと明るい雰囲気が漂った。


「私もお邪魔します。後輩の天原梓です。」

「あら、可愛いお客さんやねぇ。まぁ、みんな上がってや。」


梓ちゃんが姐さんに続いて挨拶する。

姐さんと比べるとやはり幼い雰囲気があるので、祖母には可愛く感じたようだった。

従兄弟連中が全員男なので、女の子が来るのが単純にうれしいといった感じもした。


「お、どっちや?!」


祖父がニヤニヤしながら言ってきた。

女性を連れてくることは初めてだったので、そこがうれしいというのもあるのだろう。

とはいえ、下世話だなと思ってしまった。それが祖父らしいところなのだが。


「まぁ、冗談はこれくらいにしよか。」

「爺ちゃんも、相変わらずやなぁ。」

「言うとけ。何や、今回も厄介ごと持って帰ってきたやろ?」


—— 一瞬、言葉に詰まってしまった。

いつも通りのやり取りかと思いきや、ちゃんと厄介ごとを持っていることに気が付いていた。

祖父の鋭さは昔から変わらない。

祖母もそれが分かっていて、みんなを同じ居間に上げたようだった。


「やっぱ分かる?」

「当たり前やがな。爺ちゃんの目はごまかせんで。」


主語がどこに行ったか分からないようなやり取りは、こちらの地方独特なのだろう。

少し、スピードについてこれなかった姐さんが話に入ってくる。


「初めまして、御影真琴です。お孫さんとは仲良くさせて頂いています。」

「こりゃご丁寧に…。」


姐さんの対応に思わず、丁寧に頭を下げてしまう。

そんなやり取りをしているところで祖母が入ってきた。


「お爺ちゃん、もう遅いから詳しい話は明日にしとき。」

「あぁ、せやな、とりあえず飯にしよか!」


そう言って、出前を取っていたのだろう、お祝い事のような寿司桶を持ってきた。

ここ最近は友達を連れてくることがなかったので、よほどうれしいのだろう。

普段は控えている酒も進み、夜は更けていった。


女性陣を婆ちゃんが案内していたので、祖父と二人で話をしていた。

まだこちらに住んでいたころの話、以前に連れてきた境と静流の話など、世間話に花が咲いた。

その中で、近頃また、お祓いの仕事が増えているという話をされた。

先日の少女は、お祓いの対象ではなさそうだったので関係ないと思うが、どこか引っかかった。

爺ちゃんの酒の相手をしながら、気が付くと二人とも眠ってしまっていた。


—— お祓いが増える、てどういうことやねん…。

【後書き】


思ったより長くなりましたが、無事に到着です。


今回はほぼ移動回ですが、陽向の雰囲気や関係性、

そして“安全圏”の空気をしっかり出すことを意識してみました。


……とはいえ、途中で少しだけ引っかかるものもあった気がします。

気のせいかもしれませんが。


次回から奈良パートに入ります。

静かな場所ほど、何も起きないとは限らないので――。


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