共鳴
少しだけ、違和感の種類が変わってきています。
これまでは「そこにあるかもしれない」という感覚でしたが、
今回は「何かに反応している」ようにも思えました。
まだはっきりとした形ではありませんが、
確実に、何かが重なり始めています。
そんな一日の記録です。
翌朝、すっきりと言い難い目覚めだった。
女性のスタイルに対する執着はもはや怨念と言ってもいいのではないかと思った。
朝食と土産物屋に寄ってから旅館を後にし、表磐梯、磐梯山に向かった。
磐梯山の登山道の途中に目的地があるらしい。
ただ、情報がざっくりしすぎていて、細かい場所はわからなかった。
「今日は登山だな。」
「任せてくださいっす!」
元気いっぱいの紬ちゃんに比べて、ちょっと自信なさげな澪が印象的だった。
澪も運動神経が悪いわけではないが、登山の経験はないと思う。
今どき趣味でもなければ登山の経験はあまりないだろう。
車で五色沼付近に取った宿から、磐梯山の登山道前まで車で移動した。
澪は運動靴を吐いてきていなかったので、どうしようと少し困っていたので、ラゲッジルームにある靴を取り出した。
雑誌を読んだ時に登山があるだろうことはわかっていたので、トレッキングシューズを準備していたのだ。
八方台側に車を停めて登山道を登り始める。
登山道というだけあって、整備されている道で、そこまで苦労せず中腹まで登ってくることができた。
「二人とも、大丈夫か?」
「だ、大丈夫っす!」
「はい…何とかまだ…」
二人とも息が上がっていたので、一旦路肩で休憩することにした。
路肩に座っていると、登山に慣れた人が次々に先に進んでいく。
普段の運動と、登山では勝手が違うのだなというのを、二人とも体感しているようだった。
自分は、ちょっとネジの外れた父親のおかげで、これくらいの登山であれば全く苦にならなかった。
何がどこで役に立つか、分かったものではないなと実感する日だ。
しばらく休憩をとってから、もう一度登り始めた。
その途中で、目的の分岐らしきものを見つけた。
整備された登山道と異なり、獣道とまではいわないが、古道といった雰囲気の道だった。
「目的地はこっちの方みたいだな。」
「私たちは後ろからついていく形で大丈夫ですか?」
澪が少し心配そうに、ただ、間違いない方法を提示してくる。
山に慣れている自分はいいが、慣れてない二人が同じペースで、引率なしに歩くと危ないだろう。
身振りでYESを伝えて、先に進んだ。
「やはり、ここも祠があるんだな…」
先日の祠と比べるといくらか綺麗な祠があった。
祠の扉は開かれており、中にご神体と思わしき円形の鏡が置かれている。
流石に屋根は緑のコケに覆われていたが、中の鏡はきれいなものだった。
「この鏡、何か映ってるっすか?」
紬ちゃんが不思議そうに鏡を覗き込む。
鏡には彼女の姿が映っているだけで、特別なものが映っているということは無かった。
「おかしいっすねぇ…」
「どういうことだ?」
「いえ、自分が覗いたら、もっと自分の顔って暗く映るもんじゃないっすか?」
言われてみて気が付いた。
彼女は比較的健康的に日焼けした感じではある。
だから、少し暗く映っても分かりにくいのかも知れないと気にしていなかったのだが、確かに明るく映っている。
そう、太陽が当たっている彼女を映しているかのような感じだ。
少なくとも、山の木々に囲まれたここで、彼女の顔に日の光が射しているということは無かった。
「境さん、指輪の方は変わりない感じですか?」
澪に言われて、指輪を取り出す。
そこに少女の姿や声はなかったが、少しだけ、指輪の蒼い輝きが強くなっているような気がした。
「今のところ、特に何も起こっていないな…」
「そうですね…、私の方にも何も聞こえてこないです。」
「私もっす、何となく不快感みたいなものはあるっすけど、何も見えない聞こえないーって感じっす。」
三人とも、確かな違和感はあるのだが、あの少女は姿を現さなかった。
見えない、聞こえない…紬ちゃんの言葉が少し引っかかった。
前回の少女の時もそうだったが、彼女の言葉は色々と引っかかることが多い。
「ひとまず、祠を少し掃除して戻ろうか。」
「ハイっす!降りてからでいいからご飯が欲しいっす!」
「そうですね、もうすぐお昼でしょうし、丁度いいんじゃないかと思います。」
「わかったよ、車に戻ったら食事処を探そう。」
お腹が減るのは元気な証拠ということもある。
これはいい傾向だということにして、手早に祠の掃除を勧めた。
祠を掃除して、車に戻る道中は慣れなのか、食事への渇望からなのか、登りよりずいぶん早く戻ることができた。
紬ちゃんのリクエスト通り、昼食を調べるとソースカツ丼が有名だったようで、近くで食べてみることにした。
その時に「でかいっす、うまいっす」を連呼していたのは、今日一番の盛り上がりだったと思う。
そこから、次の目的地まで少し距離が遠いので、自分の強い希望で蔵王の温泉宿で一泊することになった。
有名どころということもあり、一度は行ってみたいという希望が口を突いて出た形だった…。
「静かなところっすね~。さぁ、澪さん!」
「あ、今日は浴衣を…」
と言っている間に、今日も温泉に連れ去られていった。
もう慣れたもので、フロントの人にお願いして、二人の着替えを持って行ってもらった。
自分も温泉に入ってみて気が付いたが、露天風呂は竹でできた仕切りがあるだけで、男女でつながっているようだった。
その仕切りの向こうで、紬ちゃんが澪に絡んでいる様子が声からも分かった。
「澪、そっちに居るのか?」
「あ、境さん、ここは仕切られているだけなんですね。」
「そうみたいだ。」
その声につられて、紬ちゃんも仕切りの近くまで来たようだ。
温泉に浸かった状態で会話できるので、自分としては非常にいい環境だった。
「先輩も近くにいたっすね~。」
「竹の仕切り一つしかないからな。」
「それもそうっすけど、なんだか距離感が分かんないんすよ~。」
女子高生の話なので、女子の恋愛談議的な話かと思った。
自分たちの時と大差がないなと思っていた。
「なんていうか、どこに居るかわかんなくなるんす。」
次の言葉を聞いて、自分の配慮のなさが情けなくなった。
紬ちゃんは、この温泉でさえ違和感があるという話をしていたのだ。
そう、よく考えてみると、紬ちゃんの声はすぐ横から聞こえた気がした。
仕切りを無視した方向から聞こえた気がしたのだ。
「何か聞こえたりとかいうのは?」
「そういうのはないっす!何となく迷子になったような…?」
「なるほど…。」
少し考えてみたが、すぐに答えが出そうにないので切り替えることにした。
ここにも“何か”を感じるものがあるということだけでも収穫だった。
「境さん、このあと少しだけ遊びませんか?」
「ん、どうした?」
「色々とあったので、気分転換にと。」
背中越しに澪の気遣いを感じた。
全く、自分以上に自分の事を理解しているように思えてくる。
「ああ、少し気分転換できればいいな。」
澪の提案を受け入れることにした。
紬ちゃんも、元気な感じではあるが疲れてはいるだろう。
気分転換も重要だと、澪は先に理解していたことに、少し感謝していた。
部屋に戻ると、澪がバッグから折り畳み式の人生ゲームを取り出した。
何処に入っていたのか疑問だったが、そのあたりは触れずに、今夜は遊ぶことにした。
遊び疲れたころに、みんな布団に倒れこむように眠りについた。
気分転換のあとに待ち受けるものに想いを馳せることもなく、泥のような眠りに落ちていった。
眠りに落ちる直前、ふと今日のことがよぎった。
—— 光は、どこから射していたのだろうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は「共鳴」というタイトルの通り、
現象が少しだけ“意味を持ち始めた”回になっています。
鏡や指輪、そして空間そのものが、
互いに影響し合っているような描写を意識しました。
ただ、それが何を意味するのかは、まだはっきりしていません。
あくまで、そう見えるだけの段階です。
次回は、この「共鳴」がどのような形で現れるのか、
もう少し踏み込んでいく予定です。
引き続き、お付き合いいただければ幸いです。




