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余響

少しだけ、遠くに来ています。


これまでの流れからすれば、何かが起きてもおかしくない場所ですが、

今回は少しだけ様子が違うようです。


見えていないはずのものが、

まだそこにある気がする——


そんな感覚のまま、物語は続いていきます。


久々に車を運転するのに、少し緊張していた。

普段は徒歩と公共交通機関だけで殆どが賄えるので、車を出すことは少なくなっていた。

誕生日に澪からもらったバイクの方が、よほど出番が多いくらいだ。


助手席には澪、後部座席には紬ちゃんが座っている。

紬ちゃんは座っているというか、横になっているというか、どちらが正しいかわからない体勢だ。


「境さん、疲れは大丈夫ですか?」

「ああ、最近は忙しいわけじゃないから大丈夫。」


澪は以前から仕事と学業の両立を心配するところがある。

仕事と言っても、半分趣味のようなもので生活が懸かっているタイプのものではない。

なので心配はないという話はしているのだが、どうも心配性のようで…。


「さて、後ろは盛大に寝こけているから、ノンストップでも大丈夫か?」

「はい、休憩が欲しい時は早めにお願いしますね。」


その言葉を聞いて、少し距離はあるが、高速を降りる最後のSAまで休憩なしで走りきることにした。

途中で休憩を始めてしまうと、どうも続けて何度も休憩をとってしまう気がしてならなかった。


今回の最初の目的地は五色沼、高速道路を降りる手前で某高原のSAで休憩をとった。

この後の詳しい街並みを調べていないので、寄れる店舗がない時のために少し気を遣うことにした。


「ここから見ると壮大だな…」

「ええ、色々なちからをもらえる気がします。」

「知ったものだろうが、俺は山の方が好きだしな。」


個人的には海と比べて、山の方が自然に囲まれている感じがするので好きだった。

それとは別に、ほとんど泳げないので、海は苦手というのもあるのだが。


「お食事は海のものが好きなのも、よく知ってますよ。」


澪が悪戯っぽく笑う。

普段はどうしても周りの目や、気遣いなどもあって、あまりこういった笑い方をしない。

その点だけでも、結果的にこういった企画になったことは良かったと思った。


その後、紬ちゃんを見て少し気になった。

一瞬だけ山の方を見ていた気がしたが、すぐにいつもの様子に戻っていた。


高速道路を降りてしばらく走ると、五色沼の近くにたどり着いた。

流石に観光地化しているのもあり、人気も多く、明るい雰囲気だった。

天候に恵まれたというのもあるだろう。


「ちょっとボートに乗ってみたいっす!」


紬ちゃんが無邪気にリクエストしてくる。

それに合わせて、少し遠慮気味に自分も乗りたそうな顔をしている澪がいた。

ボートを借りれるか確認したところ、丁度少し大きめのボートが空いているということで借りることができた。

二人で行ってもらっても良かったのだが、流石にそれはどうかと思って三人で乗れるように…。


「こうしてみると、不思議なところですよね。」

「そうっすよねー。五色というだけあって、色々不思議な感じっす。」


確かに、五色沼という名前がその体を表すということだろう。


「それに、なんか気持ち悪いっす。底なし沼って言うか、そこに何があるだって感じっすね…」


紬ちゃんが小さな違和感を訴えている気がした。

言葉だけをそのままとらえれば、ちょっと気になるというか、オカルトレベルの話かとも思う。

水面を覗いて、その言葉を発した紬ちゃんの様子からは、何かを感じているようにも思えた。


しばらくボートを漕いで、陸地に戻ってきたときの安堵感は格別だった。


そこから少し歩くと、沼の近くから獣道が伸びていて、その先に小さなさびれた祠があった。

ガイドには明記されていなかったが、調べた限りここがスポットになっていると思われた。


「すごく汚れた祠っすねー。」

「そうだな、ちょっと綺麗にしておくか。」


そう言ったが早いか、澪が祠の屋根などに積もったほこりを払っていた。

扉の部分や、台座の部分にも枯れた蔦などが絡みついていた。

ただ、扉に絡んだ蔦は比較的薄く、そのほかの部分は中が見えないくらいに絡みついている。

…開かれていたのか?と、一瞬だけ思った。

そのままでは全体像が分からなかったので、絡みついた蔦も綺麗にしておいた。


「綺麗になりましたね。」

「そうだな、何か理由があって建てられた感じだな。」


満足そうな澪がきれいにした祠を見て、思った通りの感想を呟いた。

恐らくだが、何らかの自然災害などへの祈りを込めたもののように思えた。

そう言ったものなので、何かを感じることができるかと思ったが、指輪も静かなものだった。


「ここは何もないっすね~。」


この場で何かあると期待した部分もあったのだろう、紬ちゃんが少し残念そうに声を出した。

そう、どこででも事件になると困るのだが、彼女にしてみれば残念なのだろう。

となると、次の目的地に行きたいところだが、流石にこの時間からの登山は無い。


「境さん、旅館の予約は取っておきましたよ。」

「…助かる。」


いつもながら、俺の落としたポイントは全て澪が拾ってくれる。

今回も澪が居なければ、普通に車中泊となっていたかも知れない。


そこから澪に教えられるまま、五色沼付近の旅館に向かった。



流石というべきだろう、ちゃんと温泉旅館を予約してくれていた。

少し大きめの部屋を取ってくれていたので、寝る時も男女間は少し離すことができそうだった。

こういった旅館のチョイスについても、澪や静流は非常に優秀だ。

高校生の頃から、俺と陽向、静流の三人は『温泉会』という集まりをするくらいの温泉好きだ。

そう言った経緯もあり、ちょっと出かけるとなると、必ず温泉に立ち寄るようになっていた。


「澪さん、温泉行くっすよ!」

「あ、ちょっと待って…」


紬ちゃんに引っ張られて澪が温泉に連れて行かれた。

着替えや浴衣を持つ暇もなかったので、どうやって戻ってくるのかと思いながら、浴衣などを女将にお願いした。

その足で、自分も浴衣を持って男湯の方に向かった。


「…静かだな…」


あまりに静かで、今までの慌ただしい日々を振り返っていた。

今日の祠も特に大きな動きはなかった。

指輪も沈黙していたので、あの祠には影響するものはなかったのだろう。

ただ、この風景も、虫の声すら聞こえない静けさも、違和感を覚えるには十分だった。


たっぷり温泉を満喫してから部屋に戻ると、澪に絡んでいる紬ちゃんがいた。


「どうしたんだ…?」

「あ、先輩、澪さんが羨ましいっす!」

「お、おう、唐突だな…」

「だって、あのメリハリがあるのにふんわりしたスタイルに、白い肌って反則っす!!」


想いきり力強く語られた。

あたふたしている澪を傍目に、そこから夜が更けるまで、不公平感を語られることになった。

気づけば、何を見たのかも分からないまま、あの沼のことを考えていた。


——そこに何かがあった気がした。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は「何も起きていないのに、どこかおかしい」回でした。


静流チームで起きたことが、

少しずつ別の場所にも影響し始めています。


ただし、それはまだ“はっきりした形”ではありません。

あくまで、残っているだけのものです。


次回は、その「残り方」に少しずつ意味が見えてくる予定です。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。


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