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顕現

分散して進めてきた探索は、

ひとつの“結果”に辿り着きます。


これまで感じてきた違和感が、

初めて“同じもの”として共有される回です。


そして――

それは、ただ見えただけでは終わりません。


翌朝は、みんなで寝過ごしてしまった。

次の目的地が近くだと分かって油断してしまった自覚はある。

なので、今日も開き直って、朝の温泉に浸かっていた。

相変わらずのスタイルな野乃花さんを見ながら、どうしたらそうなれるのかと悩む朝だった。


朝ご飯を頂いて、静流さんの車に乗り込む。

特別、何かがあるわけではないんだけど、何となく庭の木々が不自然な感じがした。


静流さんの運転で、一路、上越方面に進んでいく。

関東に住んでいると忘れがちだけど、日本にはまだまだたくさんの田畑があることを思い出した。

更に進んでいくと、徐々に山深いところに入ってきた。

その先にあった、少し観光名所になっていそうな峠の駐車場に車を停めて車を降りる。

構えていたというのもあるかもしれないけど、少し冷え込んでいる気がした。


「さぁ、ここからは歩くよ。」


静流さんはそう言って、脇にある小道を進み始めた。

歩いている感じからすると、谷の方に向かっているみたいだった。

道は細くて暗くて、少し怖かったので野乃花さんにくっつくようにして歩いて行った。


「……着いたみたいだね…」


ほぼ谷底じゃないかというくらい歩いた先に、小川に囲まれた祠があった。


「ここも龍神様みたいだね…」

「また鏡かなー?」


静流さんと野乃花さんが同時に祠の中を覗き込む。

よくよく考えるとマナー的に大丈夫なのかなと思ったけど、気にしないことにした。

二人が祠の前から離れたので、私も祠の中を見てみることにした。


「…あ、また……」


小川の流れがおかしい感じがした。

川の流れと、一緒に流れてくる木の葉のスピードがズレている感じがする。

木の葉の流れに追いつくようにして川の水が流れる。

言い知れない不快感のような違和感を感じていた。

気が付くと、遠くに、ぼんやりとした光が見えた。


最初は、ただの反射かと思った。

けれど、それはゆっくりとこちらに近づいてきていた。


「え?行燈って今どき見ないよね?」

「…ここだったんだ。」


慌てている野乃花さんに対して、静流さんは驚くほど冷静だった。

まるで、探し求めていたものに出会ったかのような言葉が、静流さんの口から零れていた。


近付いてくる行燈は、子供たちが持っているものだった。

子供たちは音を立てずにこちらに近付いてくる。

皆一様に狐のお面をかぶっていて、表情を窺うことはできなかった。

ただ、違和感はあるんだけど、敵意や忌避感は感じない。

だから、少しだけお話ができないかと思って、一人の少年に近付こうとした。


「ねぇ…」


声をかけようと近付いた次の瞬間、行燈を持った子供たちは弾けるように霧散した。

本当に霧になって消えてしまったようだった。

それと同時に、小川や木の葉の違和感は収まっていた。


「ようやく、一つ見つかったね。」


静流さんが振り返りながら満足そうに言った。

その様子からして、昨日の一件とは違って、今回はみんなで同じ現象に遭遇したみたいだった。

見えたというだけで、特に何か話したいことみたいな情報は手に入らなかったが、同じ現象を全員で見たのは収穫だと思った。


「そうだねー、これで、あの場所じゃなくてもいいってことはわかったね~。」

「だね、これで一先ず知りたいことはわかってよかったよ。」


静流さんと野乃花さんはこの現象に、何か心当たりのようなものがあるみたいだった。

聞けばちゃんと教えてくれるとは思うんだけど、今ここで聞く雰囲気でもなかったので後にしようと思った。


さっきの出来事は、昨日のと違ってめまいなどの気持ち悪さはなかった。

どちらかというと、少し気分がすっきりしたようにさえ思えた。

あの子供たちが何者かはわからなかったけど、友好的だったんだろと自分の中で結論付けた。


来た道を戻ろうと踵を返そうと思ったとき、視界の端に光が見えた。

光源を確認したら、祠の前に何か光を反射するものがあった。


「え…イヤリング…?」

「ほんとだねー…、境君の指輪みたいなものかな…?」


野乃花さんが、お兄さんの名前を出した。

お兄さんも、これに近い指輪を持っているということを言っているんだと思う。

持って帰っていいものか悩んでいたんだけど、今の一言で“持って帰らなきゃ”という責任感のようなものが湧いてきた。


「澄玲ちゃん、これは持って帰っていいと思うよ。」


私が躊躇しているのが分かったみたいで、静流さんが背中を押してくれた。


「はい、持って帰って、お兄さん達にも話をしようと思います。」

「そうだね、それが良いと思う。」


先ほどのイヤリングを祠の前から持ち上げ、私に渡された。

静流さんが持っていても良かったと思ったけど、何か意味があるのだと思って受け取った。

イヤリングが手に触れると、なぜか、自分のもののような気がした。


「俺の方から、境や陽向に話をする必要もあると思うから、それは任せるね。」

「そうねー。澄玲ちゃん、よろしくね~。」


このやり取りが、何だか仲間に入れてもらえた実感を感じてすごくうれしかった。

そんな明るい気持ちのまま、来た道を戻っていった。


静流さんは、今日も旅館を予約してくれていたらしく、そのまま旅館に向かった。

毎日の事で慣れてきてしまったけど、すごく自然にこういった気遣いができる人だなと思う。


「とりあえず、目的地は全部回ったから、明日、明後日は少し観光でもして帰ろうか。」


静流さんが大胆な提案をしてきた。

非常にうれしい提案だけど、色々な意味で大丈夫なのかなと思ってしまった。

少し心配な表情をしてしまっていたんだと思う。

私を見て、スマホの画面を見せてくれた。

そこには、明後日まで、旅館の予約がされていた。


「ありがとうございます。折角なので楽しませてもらいますね!」

「そうだよ~、楽しも!」


ようやく、緊張がほどけてきたのが伝わったのか、野乃花さんも後押ししてくれた。

今日も旅館ではっちゃけてしまったのは、三人だけの秘密ということにしてもらった。



——狐の面をした子供が、嬉しそうに手を振っていた。

第18話「顕現」をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、これまでの違和感が一歩進み、

“全員で同じものを観測する”という形で現れました。


さらに、それが消えるだけでなく、

現実に“残るもの”として現れたことも大きな変化です。


狐の面を被った子供たちの存在は、

敵意を持たないまま、こちらを認識しているようにも見えました。


この出来事によって、

物語は「観測する側」から「関わる側」へと移っていきます。


次回からは、境チームの動きに移る予定です。

引き続きよろしくお願いいたします。


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