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侵蝕

分散して進む探索は、次の段階へ。


今回は静流たちの視点で、

新潟・弥彦山の奥にある祠を訪れます。


これまでの違和感とは少し違う、

“触れてしまったもの”が、

はっきりと形を持ち始める回です。


榛名山に行く時と同じように、新潟に入ってから目が覚めてしまった。

先輩に運転させているという申し訳なさが、じんわりと広がってくる。

その様子に気付いているのか、そうではないのか、静流さんは前を向いた静かに運転していた。


高速道路を降りる前にPAで休憩を摂る。

大きなPAではなかったけど、トイレと軽くお昼を食べるくらいはできたので満足だった。

高速を降りると一気に重みが増してきた。

気分的なものと天気の影響だと思うけど、それ以外に何かあるなら、ちゃんと見ておきたかった。


「ここからは休憩できるところがないから、気を引き締めてね。」


静流さんが、普段言いそうにない言葉をかけてきた。

私も野乃花さんも女性なので、いろいろ気を遣われているんだと思う。

ただ、静流さんがいつもより緊張しているように見えた気がした。


弥彦山の弥彦神社を通り過ぎて、ずっと奥まったところまで来ていた。

少し開けた所があったので、そこに車を停めると少し先に長い階段があった。


「また階段なのね~…」


野乃花さんが少し残念そうというか、うんざりしたような雰囲気で零した。

階段と言っても妙義山の石段とは違って、木の棒で土を固めた階段だった。

妙義山の石段で感じた違和感を思い出す…。


「結構長そうだけど、もう少しだから頑張ろう。」

「おぶってもらいたいところだけどねー…」


そう言いつつ、野乃花さんも静流さんについていく。

お約束というのだろうか、色々よくわかったコンビだなと羨ましく思った。


しばらく歩くと、少しだけ開けた所にたどり着いた。

その真ん中に大きな木があった。ご神木といった雰囲気だった。

その木に気を取られていたけど、よく見ると木に直接、祠が埋め込まれていた。


「直接彫り込んだのかも知れないね。」

「木を直接彫るんですか?」

「そうだね、くりぬいて別のところから持ってくるよりは、よっぽど現実的だと思うよ。」


大木に埋め込まれた祠を見ていると、その様子を見ていた静流さんから声をかけられた。

祠の形もきれいなものだったから、どこかほかのところで作って埋め込んだとばかり思っていた。

本当にきれいな祠で、扉の中も格子状のところから見えるようになっていて、奥にある鏡が見えていた。

その鏡の奥だけが、妙に遠く感じた。


「ここも龍神を奉っているんだね…」


格子状の扉の奥を見ながら静流さんが呟く。

その直後、静流さんの表情が曇った。

それとほぼ同時に振り返ってあたりを確認する。


「…無いよな……」


その言葉を聞いた次の瞬間だった、あたりの風景に違和感を感じた。

ハッキリと何が違うと明言できる感じではないんだけど、あたりの風景が、木々が少しずつおかしい気がした。

視界の端で、木々がずれた。

——遅れて、世界が追いついてくる。

そのズレが気持ち悪くなってきて、めまいのような感じで膝をついてしまった。



「どうしたんだ?!」

「大丈夫?」


静流さんと野乃花さん、二人から声をかけられて、ぼんやりしてきた意識を保つことができた。

遠くに聞こえるような声が、少しずつ近づいてきて、ようやく二人の姿をはっきり捉えることができるようになった。


「あ、はい、少しめまいのような…」

「…木の間に、灯篭のようなものを見たりしなかったかい…?」


静流さんが真剣な表情で聞いてきた。

さっきズレて見えた木々の事を思い出してみる。

確かに、ぼんやりした灯りが木の間から覗いていた気がした。

けれど、そこにあるはずのない高さだった。

ちゃんと声が出ていたか自信はないが、静流さんにイエスを伝える。


「…近づいたみたいだね……」


静流さんは何か思うところがあるようだった。

そう言えば、さっき祠の中を見て、急に振り返っていた。

今まで見たことがない、険しい表情で振り返っていたことを思い出した。

そっか、その時に何か見ていたんだ。そう確信した。


二人の肩を借りるような形で車まで戻り、少し休憩させてもらった。

さっきのめまいは収まったのだけど、まだ少しふらつく気がしたから、大事をとった感じだった。


「今日も旅館をとっておいたから、そこまで行ってゆっくりしようか。」

「はい…ありがとうございます。」


色々話を聞いているので、静流さんにすれば大したことは無いんだろうというのは分かるんだけど、気後れしてしまう。

野乃花さんは慣れたものらしく、次の旅館の事が楽しみな様子だった。

私も同じくらい楽しめるようになりたいなと、単純にそう思った。


「静流君、今日も温泉あるよねー?」

「そうだよ。そのあたりはわかってるから、大丈夫だよ。」


そう言ってさわやかに微笑む静流さんを見て、普通の女子なら一瞬で惚れちゃうなと思った。


そこから少し移動して、老舗の温泉旅館にたどり着いた。

自分のお小遣いではとても来ることはできない。

あまりのスケールの違いに、挙動不審になっていたんじゃないかと、後で自分が不安になった。


案内された部屋に荷物を置いて、今日も野乃花さんと一緒に温泉に浸かっていた。

先ほどの疲れもあり、思わず妙齢の女性のようなため息が出る。

野乃花さんは肩こりに効くと言って、しっかり首のあたりまで浸かっているが、私には肩こりになるほどのものがないので、寂しくなってしまった。


「野乃花さんは、何かスポーツとかされていたんですか?」

「ん?ラクロスとテニスは今もやってるよ~。」


ちょっと意外だった。

ピアノやフルートのような楽器が似合うなと、何となく思っていたので、そのアクティブさに少し驚いた。


「澄玲ちゃんは何かやってるの?」

「アーチェリーをやってます。親の影響でしょうか。」

「そうなんだー、すごく似合いそうだよね!」


この短期間で、私から野乃花さんへの憧れは急上昇している。

その野乃花さんに褒められて、ちょっと嬉しかった。

その後、スタイルの維持や、家の事などで盛り上がって長風呂になってしまった。

部屋の方に戻るころには、静流さんも浴衣に着替えていた。


「さてと、明日は今日ほどは移動しないよ。長野との県境あたりになる。」

「そうなんだね。じゃあ、朝は少し余裕があるのー?」

「そうだね、少しくらい寝坊しても大丈夫だよ。」


軽い冗談で笑いあった。

寝坊と言っても、子供のようにいつまでも寝ていることは無いと思うけど、少し安心した。

温泉で野乃花さんと盛り上がった雰囲気のまま、静流さんも巻き込んで少し夜更かしすることにした。

その夜は、祠での出来事は忘れて、会話を楽しんでいた。




——境目は、私たちを待っていた

第17話「侵蝕」をお読みいただき、ありがとうございました。


今回はこれまでの違和感が一歩進み、

“世界そのもののズレ”として描かれる段階となりました。


鏡に映る距離の違和感や、

視界と現実のわずかな不一致。

それらはまだ確定には至らないものの、

確実に“こちら側”へ入り込んできています。


静流の言う「近づいた」という言葉の意味も、

少しずつ輪郭を持ち始めました。


次回はさらにその先――

境界そのものへと踏み込んでいきます。


引き続きよろしくお願いいたします。


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