歪曲
分散して進む、それぞれの探索。
今回は静流たちの視点で、
妙義山での出来事を描いています。
はっきりと何かが現れるわけではない。
けれど、確かに“触れてしまった違和感”。
それが確定しないまま残ることで、
世界はわずかに歪み始めていきます。
朝早くに目が覚めてしまったので、もう一度温泉に入っていた。
私の動く気配で野乃花さんも目が覚めてしまったらしく、今日も一緒に入ることになった。
「今日も神社だけど、何が出るかなー。」
今朝もマイペースなところを見て、少し安心する。
昨日の違和感は胸の中にしこりとなって残っていたけど、先輩方が居れば何とかなる気がした。
温泉から出て、朝食を摂ったらすぐに妙義山に向かうことになった。
宿を後にしてしばらくすると、すぐに妙義山にたどり着いた。
私が大黒様が好きだということを話したからか、先に中之嶽神社の方に寄ってもらえた。
「…大黒様だぁ…」
鳥居の外からも見えていた大黒様を見上げて、思わず口に出た。
女子高生としてはどうなのかと言われることが多いけど、私は大黒様や布袋様が好きだ。
恵比寿様も同じ理由で好きなんだけど、あの姿の愛らしさったらないと思う。
ここは誰が何と言おうと、反論は認めない。
「澄玲ちゃんはこういうのが好きなんだね。」
静流さんがお土産の小袋を渡してきた。
大黒様が付いているお守りだった。こういったところがやっぱり、と改めて思ってしまった。
色々と見たかったものも見ることができたので、少しにやけてしまっていたと思う。
その後で見た御神体に何か違和感を感じていたが、大黒様が居るなら大丈夫という、謎理論で自己解決してしまった。
一通り見て回ったけど、特に何も起こらなかったので、そのまま妙義神社の方に行くことになった。
そこからまた車で移動して、妙義神社までたどり着いた。
鳥居をくぐって石段を登っていく。
重要文化財になっているだけあって、すごいところだなと思った。
こういった場所に来るのは初めてなので、新鮮だけど少し怖いという気持ちもあった。
「石段、慣れてないと危ないから気を付けてね。」
静流さんが学校の階段でも上るかのように、軽々と登っていく。
私や野乃花さんは、石段の難しさを体感しているところだったので、単純にすごいなと思ってしまった。
「…あれ…?」
「ん?どしたのー?」
口を突いて出た言葉に、野乃花さんが反応した。
踏み込んだ瞬間、足が沈んだ気がした。
石段のはずなのに、
まるで柔らかい土を踏んだみたいに。
——一歩、遅れて
固い感触が返ってくる。
「ここ、石段ですよね…?」
「そうだよ?こけたら怪我しちゃうよね。」
間違いなく石段のようだった。私の気のせいだったのかなと思ったけど、もう一度踏み出すのが、少しだけ怖かった。
「今、何かあった?」
「はい、何かはわからないんですけど…」
静流さんが私の様子を見て声をかけに降りてきてくれた。
私自身も何が何だか分からずに混乱していたから、今の言葉が精いっぱいだった。
静流さんと野乃花さんは辺りを窺っている。
まるで、何かがそこに居ることを確認しようとしているように見えた。
「野乃花ちゃん、何か見える?」
「ううん、何もいないみたいだね。」
普段より少しだけ焦りの見える静流さんに対して、野乃花さんは普段よりも少ししっかりして見えた。
息が合うというのはこういうことなんだろうなと、こんなタイミングでそんなことを思った。
しばらく辺りを窺っていたと思ったら、急に糸が切れたように元の雰囲気に戻っていた。
二人とも少しだけ残念そうに見える。
静流さんがホッとしたようにも、落胆したようにも見えるため息をついていた。
「…ここも違うか。」
昨日の夜に見た雰囲気だった。その雰囲気も相まって、すごく綺麗だなと感心してしまった。
「さて、とりあえずお参りしてから戻ろうか。」
「はい、折角なので見て回ってもいいですか?」
「いいよ、野乃花ちゃんも一緒に見て回る?」
「うん、行くよー。」
少し子供っぽいかなと思いながらも、先輩方の先頭に立って一通りの施設を見て回った。
その子供っぽさが見えていたのか、ここでも静流さんに猫さんの入ったお守りを買ってもらってしまった。
帰りの石段では、さっき感じた違和感を感じずに降りていけたので、ちょっとだけ残念なような、ほっとしたような気分だった。
車まで戻って、静流さんがこの後の事を話してくれた。
「この後は新潟に行くんだけど、二人とも後席でゆっくりしてくれていいよ。」
「いえ、睡魔を呼び寄せるようなことは…」
「そこは大丈夫、5、600kmくらいなら一気に走り切れるからさ。」
寝ておいてほしいと言われているのか、気を遣ってもらっているのか少し微妙な気分だった。
確かに、ここから新潟まで行くと思うと、ずっと起きている自信はないけど。
静流さんが運転しているのに、女子二人寝こけるというのも申し訳ないというのも確かだった。
「弥彦山ってところに行くんだけど、実際の場所については有名なところじゃないらしいんだ。」
「そうなの?神社か何かがあるって書いてた気がするけどなぁ。」
野乃花さんが納得いかなさそうに返した。
確かに、紬の雑誌を見たときに弥彦神社というのを見たので、そこの事かと思ってた。
「確かに神社はあるんだけど、どうもそこじゃなくて、一部の人しか知らない祠があるらしいんだよ。」
「…祠ですか…?」
「そう、そこが色々いわくつきらしくて、境と陽向はそっちの方が気になるって言ってたんだ。」
お兄さんも少しそういったオカルトを感じることができる人だけど、陽向さんはもっと敏感だって聞いていた。
梓とお姉さんの二人とも同じことを言っていたから、そこは疑いようがないんだと思う。
どちらにしても、二人とも同じことを言うんだから、間違いなくそっちに何かあるんだ。
「とりあえず、向かおうか!」
静流さんに促されて車に乗り込んだ。
先ほどの申し訳なさをそっちのけで、車に乗ってすぐに睡魔に襲われた。
この車の乗り心地が良いせいだと言い訳をしながら、そのまま眠りに落ちてしまった。
隣にいた野乃花さんも同じように眠ってしまっていたのが救いだった…。
——空は、どこまでも重かった
第16話「歪曲」をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は榛名に続き、妙義での探索となりましたが、
“何も起きていないはずなのにおかしい”という状態を、
触覚の違和感として描いてみました。
見えるものではなく、触れた感覚がズレる。
それでも確定には至らない――そんな段階です。
静流の「ここも違う」という判断を経て、
次はいよいよ別の地点へと向かうことになります。
少しずつ、確実に“境界”が歪み始めています。




