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接近

いつもお読みいただきありがとうございます。


少しずつ見えてきた「観測」という概念。

そして、その延長線上にあるもの。


今回は大きく動く前の、ほんの少しの変化のお話です。

日常の中にある違和感を、感じてもらえたら嬉しいです。


静流も思案を巡らせている様子だった。

『観測しないと確定しない』という話の通りであれば、あの少女は混ざり合った状態なのだろう。

そういった意味であれば、澪の表現が一番正しかったということになる。


「とりあえず、ブレイクタイムにしましょう。」


真琴さんが煮詰まっている様子を見て、緊張をほぐしに来てくれた。

たまたまではあるが、この6人全員がコーヒーが好きなので、コーヒーメーカーは非常に活躍している。

真琴さんと澪が飲み物を準備している間に、それぞれが指定席に移動した。


観測しないと確定しないというのが間違っていないとすると、この6人は観測者にならないということになる。

その観測者として成立するのがどういったモノなのか、ヒントが足りなかった。

まずはヒントを探すしかない状況になっていることに気が付いたが、取っ掛かりもなくて困った状態だった。


「ちわーす!」


突然事務所のドアが開いて、陽気な声が聞こえてきた。

高校の制服をきた少女が事務所の中に入ってくる。

相変わらず遠慮のない少女だ。

理由は分からないが、いつも通りのはずの少女が、少しだけ引っかかった。


「あら、紬ちゃん、どうしたの?」


澪が子供を相手するような雰囲気で話しかける。

確かに後輩ではある。とはいっても、一つしか違わないのだが、すごく年の差があるように見えてしまう。

この遠慮を知らない少女は朝比奈紬(あさひなつむぎ)、澪や野乃花ちゃんの後輩にあたる。

野乃花ちゃんも天然さんな雰囲気なので、少し幼く感じることがあるが、紬ちゃんは元気印なのに子供っぽく見える。

あえて装っている可能性もあるが…


「お届け物っす。うちの父さんから。」


鞄の中から何冊かの雑誌が取り出された。

どれもオカルト雑誌だった。紬ちゃんのところの父親はオカルトマニアで、布教活動に熱心なタイプなのだ。

表紙を見る限り、パワースポットを特集した雑誌ばかりのようだ。


「相変わらずやなぁ。」

「ははっ、全くだよね。」


陽向と静流が笑いながら雑誌を手に取った。

二人とも、なんだかんだ言ってこの手の雑誌が好きなので、布教用に持ってくるのを楽しみにしていた。

その様子につられて野乃花ちゃんと澪も雑誌を手に取る。

それを見ながら、紬ちゃんの鞄の容量と、これを軽く持ってくる膂力に驚いていた。


「流石に昨日のところは載ってへんなぁ…」


少し残念そうに陽向が呟く。

私有地にあるもので、不確かな情報が多いところだったので雑誌が取り上げるほどではなかったのだろう。

表紙を見た限りだと、この近辺には3か所のパワースポットがあるようだった。

ちゃんと読み込めば、細かいところがもっとたくさんあるのかも知れないが、そういうのは静流の役だろう。


「そういえば、全員そろってるのって珍しいっすね。」

「確かにそうね。特に私はあまり来ないからね。」


紬ちゃんの疑問に真琴さんが答える形になったが、紬ちゃんはどこか納得していなかった。

彼女が来るタイミングは、大抵、男3人衆だけが居る時が多い。

それだけ男衆だけで集まっているということになるのだが。

女性陣もそろっていることから、何か感じるものがあったのだろう。


「何かあったんじゃないっすか?」

「流石、新聞部のエースだね~。」


紬ちゃんの鋭い突っ込みに、野乃花ちゃんが合いの手を打つ。

彼女は野球部のマネージャの傍ら、新聞部にも所属しているのだが、その鋭さは学内でも有名だそうだ。

号外とか、校内の掲示板に貼られるような記事は、ほぼ全てが彼女の取材によるものという噂もある。


そんな彼女なら何か情報を知っているのではないかと思い、昨日の現象をかいつまんで話してみた。


「私も見たいっす!!」


案の定、興味を示してきた。それも予想通り連れて行けとリクエストされる形だ。

今日のところは遅くなったのもあり、明日からの3連休に一緒に行こうということになった。

何かあったときのために外泊許可を取ってくることと言うと、その場で電話をして許可を取り付けてしまった。

メンバーに澪と野乃花ちゃんが居るのが良かったそうだ。


事務所の上階に、仮眠室と称した大きな部屋が一つあるので、澪と真琴さんにはそちらを案内した。

流石に紬ちゃんをこのまま泊まらせるわけにはいかないので、野乃花ちゃんに送ってもらうことにした。

陽向と静流に関しては、事務所の横にある仮眠室と応接コーナーを利用し、明日からの話をすることにした。

と、言いながら、しばらくするとゲームをしたり、車の話をしたりと本題そっちのけになったのだが。


短い打ち合わせの中で決まったのは、明日の朝に集合してから昨日の祠に向かうこと。

今回は6人全員プラス紬ちゃんの7人が祠まで一緒に行くこと。

祠に全員がたどり着いてから、あの少女との対話を始めること。

その三つだけだった。

なし崩し的に、明日も真琴さんの車を借りることになってしまったので、燃料代はこちらで負担することにした。


丑三つ時になろうという頃に、全員が眠りについている中、トイレに起きてしまった。

電気が一瞬だけ遅れて点く。自分の事務所とはいえ、最近の出来事を考えると少し背筋に寒いものを感じた。

事務所の入り口付近に置いている姿見を見ると、件の少女が映っている気さえする。

そんな中、デスクに置いている指輪を見ると、祠に行く前と比べて少し(あお)みがかっている気がした。

それは確かなもので、気のせいではない気がした。


——少しずつ、確実に近づいている証拠に、気付いてているものはいなかった。



ここまでお読みいただきありがとうございました。


今回は「接近」というタイトルの通り、

まだ何も決まっていないけれど、確実に何かが近づいてきている——

そんな段階を描いています。


次話では、いよいよ「確定」に触れていきます。

ここまでの違和感がどう繋がるのか、見守っていただけたら嬉しいです。


引き続きよろしくお願いします。


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