採訪
休息日を終え、今日からは諏訪湖周辺へ。
神々の言葉だけではなく、この土地に残る記憶を辿っていきます。
翌朝、ウッドデッキを確認してみると、お供えと称していた食べ物がきれいさっぱりなくなっていた。
蟻などでは運べないサイズだったので、野生動物や野鳥、もしくは本当に心霊的な何かが食べて行ったのだろう。
いずれにせよ、食料が無駄になったわけではなさそうだったので、それはそれで安心した。
今日明日は、諏訪湖周辺を観光しながら、昔から土地に住んでいる人たちに話を聞こうということになった。
ここしばらく、色々な異変が多くて、ろくに休んだ記憶がない。
リフレッシュするためにも、観光に近い調査をやっていく方がいいだろうという話になったのだ。
周遊するのには少し大きいなと思いながらも、レンタカーはどうかと思ったので、いつもの車を出すことにした。
昨日と同じく、助手席には静流を、二列目に女性陣を乗せる。
朝食は澪が準備してくれていたので、別荘の方で朝食を摂ってから出かけている。
「さて、どこからまわろうか。」
「個人的に、先に博物館で調べたいんだけど、いいかな?」
昨日の夜には聞いていなかったが、確かに博物館なら郷土に詳しいスタッフもいるだろう。
静流の趣味的にもいいと思ったので、その案を採用することにした。
丁度、諏訪湖の近くまで行く途中に博物館があるので、博物館で情報収集してから現地に向かえる。
車で十五分ほど走ると、目的地の博物館までたどり着いた。
少しわくわくしている雰囲気を隠せない静流を見て、少しほっこりした。
「調べものとかは任せていいか?」
静流に話しかける。
首を縦に振ると、待ちきれないとばかりに展示場に歩いて行った。
その後ろ姿を見送ってから、スタッフの居るカウンターを探す。
カウンターにいるスタッフを見つけるよりも先に、巡回しているスタッフを見つけたので、その人を捕まえることにした。
「すいません、ちょっとお聞きしたいのですが。」
スタッフは少しも面倒なそぶりを見せずに、にこやかにこちらに寄ってきた。
色々と聞かれなれているのだろう、こちらの質問に澱みなく答える人だった。
諏訪湖の周辺のことについて、伝奇などを含めて色々と教えてもらう。
話を聞いてくれたスタッフが、内線で他のスタッフにも情報を聞いてくれた。
まずは諏訪湖の南側から東周りで移動するのがおすすめだそうだ。
単純に左側が諏訪湖になるので見晴らしがいいこと、駐車場に入るのにも便利だということだった。
湖周辺には、昔からこの土地に住み、郷土史や伝承に詳しい知人が何人かいるそうだ。
スタッフも博物館で働くくらいなので、考古学や民俗学に詳しいようで、そういった話ができる相手だそうだ。
こういった話に凄く食いつくなと思っていたのだが、話を聞いていると納得できた。
それぞれの連絡先を聞き、こちらがお話を聞きたいと言っている旨を伝えておいてもらう。
突然、自分たちの方から連絡すると、非常に怪しい奴ということになりかねない。
なので、スタッフのほうから連絡してもらえるようにお願いしておいた。
「こうして、歴史を調べてる若い方がいるのは、私たちも嬉しいんですよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
スタッフの方と話し終わる時に、非常にうれしそうにしていたのが非常に印象的だった。
近頃は歴史探訪といった趣味の若者が非常に減っているらしい。
それが、博物館や民俗資料館といった施設に勤める人にしては非常に寂しいらしい。
そういった、人がいなくなる寂しさというのは、どこも同じなんだろうなと思った。
スタッフと別れて、静流を探しに行こうとしたところで、一通り堪能してきた静流と出会った。
「十分楽しめた~?」
野乃花ちゃんが、満足そうな静流を見てにこやかに言う。
普段は難しい顔や、さわやかさんといった表情をしている静流しか見ないので、今の少年のような笑顔は珍しいらしい。
後で、澪に野乃花ちゃんが言っていたことを聞いて納得したのだった。
博物館を後にして、周遊できる道路まで車を走らせる。
諏訪湖の南部に大きな公園があり、その近くに車を停めて諏訪湖自体を見て歩くことにした。
大きな川と諏訪湖が接続する辺りなので、見ているのが湖本体か支流の川かが分からないが、広い水場には違いなかった。
「こうしてみると大きな湖だな。」
「そうだね、でも日本全体では二十何位かくらいなんだよ。」
順位だけ聞くと大したことが無いように聞こえるのが怖いところだが、直接見ると大きな湖には違いなかった。
こうなってくると、琵琶湖とかはどんなサイズなんだろうと、少し考えてしまう。
関西のことは、帰ってから陽向に聞いてみようと心に留めて、もう一度諏訪湖を眺めなおした。
澪と野乃花ちゃんを見てみると、同じように湖を見ているのだが、野乃花ちゃんの様子が少しおかしい。
どうも、何かとコンタクトを取ろうとしているように見える。
亀でもいるのだろうかと思い、二人の近くまで歩み寄ってみる。
しかし、亀どころか、鯉の一匹も見当たらなかった。
「野乃花ちゃん、もしかして昨日のがいたのかな?」
「うん、そうだよ~。」
何もない空間と会話している野乃花ちゃんの図がそこにはあった。
昨日の、と言っているので、恐らくは昨日のBBQに釣られてきた動物霊か、土地神様がいたのだろう。
それらと話をしているようなのだが、向こうも姿を見せようとしているわけではなかったので、自分にも見えなかった。
うすぼんやりと、風景がずれて見え、それが輪郭をかたどっているのだということくらいしかわからない。
「なんて言ってるんだ?」
「昨日はごちそうさまって言ってるよ、何か聞きたいことがあるか気にしてるみたい。」
「土地神様はお供えに対して、何か返さないと嫌みたいですね。」
恐らく澪にも見えているのだろう、最初から話に混ざっておけばと、こんな時に思ってしまう。
澪と野乃花ちゃんで言葉はちゃんと聞き取れているだろうから、ロスになることはないと思うのだが、自分もという気持ちも残っていた。
「ああ、そこはもっと一緒にできればと思ってたんだけどな。」
一息入れて知りたいことについて考えてみる。
深く考えてもと思って、簡単に答えてみた。
「この辺りに、何か変わったことがないかを教えてほしい。ここ一年くらいの話でもいい。」
そう、最近の異変、結の存在など、細かく聞くことはいくらでもできそうに思う。
だが、ここに長く棲んでいるモノにとっては細かいよりも、ざっくりとしたことのほうが答えやすいだろうと思った。
だから、ざっくりとした質問を投げたのだ。
そうして、少し遠慮したつもりが、思ったよりも大量のデータを渡してきた。
もしかすると、この状況になることを知っていたモノは、思っていたよりも多いのかもしれない。
—— 実際に湖などに住めるモノに聞くことで、今まで情報整理に問題が出ることを、この時は考えていなかった。
諏訪大社を巡ったあとは、諏訪湖とその周辺へ。
まずは博物館で人から話を聞き、続いて湖に棲むモノから話を聞くことになりました。
昨夜のBBQに現れた存在とも、思わぬ形で再会。
お供えのお礼ということで聞いてみたところ、どうやら予想以上の情報を持っていたようです。
ただ、人と同じ感覚で話を整理できるかどうかは、また別の問題なのかもしれません。




