饗宴
今日は一日、休息日。
買い出しを済ませ、別荘の庭でBBQを楽しむことに。
……どうやら、参加者は四人だけではなかったようです。
商業施設にたどり着いたところで、男女で役割を分けて買い出しを行うことになった。
少し荷物は多いと思うので、事前に三列目のシートは倒してから店内に向かう。
今日は、澪もスペアキーを持っているので、どちらが先に戻っても問題ないことを確認してあった。
BBQコンロや照明類があることは確認していたのだが、炭などの消耗品は備蓄していなかった。
当然と言えば当然の話ではあるが、書き出してみると意外と買っていくものがあった。
炭、着火剤にライター、軍手に炭をくべる火ばさみ、防火シートと、意外とかさばりそうだ。
流石の男二人でも、全部を手で持つのは難しいかと思ったので、大型のカートを押していく。
男二人でカートを押して歩くというのも、少しシュールな光景だなと思って、少し笑ってしまった。
「さて、最近はキャンプ用品のコーナーで大体揃うと思うから、そっちに回ろうか。」
「わかった、カートは押していくから先導してくれ。」
静流が詳しそうだったので、細かいところは静流に任せてついていくことにする。
実際にキャンプ用品のコーナーに到着してみると、そこは魔の巣窟だった。
ありとあらゆる誘惑が、自分の目の前に代わる代わる現れては消えていく。
こういったガジェットは、自分のようなタイプの人間には抗いがたい誘惑でしかなかった。
「ランタンとかナイフにもこんなに種類があるんだな。」
「そうだね、もっと専門的なものもあるけど、それはもっと詳しい店に行かないとね。」
これよりも品ぞろえの良いところに行ってしまうと、財布に入っているお金が足りる範囲ギリギリまで使ってしまいそうだ。
そういった買い物の場合は、今後は静流に任せておこうと思った。
そうしないと、流石に財布がもたない…。
一時間もしないうちに、静流が必要なものをカートに入れてくれ、そのままレジに向かう。
ランタンもあったほうがいいだろうということで、ウッドデッキに置くためのものを複数購入していた。
自分が個人的に欲しかったモデルも購入してもらったのは澪たちには言えないが。
とはいえ、流石、こういう時の静流だ。
会計してみると思ったよりも随分リーズナブルな価格で一式が揃った。
購入した一式をラゲッジに積み込んでいる最中に、同じようにカートを押してくる野乃花ちゃんと澪が合流した。
「思ったよりたくさん買ったね。」
「え?、これくらい食べるよね~。」
確かにカートに乗っている食料の量を見ると、何日分なんだろうと思ってしまった。
だが、よくよく見てみると缶詰などの保存食も大量に購入していたので、何かの時の常備も買っているのだと理解した。
実は野乃花ちゃんが大食いだという話であれば分からないが、ここ数日を見ている限りそうではないと思う。
「一応、保存食も買っておいたんです。お肉が多いのは確かですけど、きっと大丈夫ですよね!」
澪の中でも、ちょっとやりすぎたかも、という心配があるのだろう、勢いで押し切りに来ていた。
自分も静流も、食べる時は結構な量を食べるので、食料を無駄にすることはないと思う。
別荘のキッチンのほうも、どんどん充実していっているので、料理の腕を振るうにもいいのではないかと思った。
事務所に来た時もそうだが、澪自身、料理が好きなのできっと問題ないはずだ。
格納した三列目シートのあたりにアウトドア用品を、その後ろに食材を積み込んでリアゲートを閉じる。
ちゃんと閉じるか少し心配だったが、杞憂だったようだ。
「さて、帰ったら早速準備を始めようか。」
静流自身もこういったアウトドア関係が好きなのだろう、いつもよりも少し張り切って見えた。
別荘に戻ると、静流はアウトドア用品を倉庫に収納する分と、今回使う分に仕分けてくれたので、倉庫への収納は自分が行った。
仕分け後の静流には、ウッドデッキのほうに必要な機材をセッティングしてもらう。
力仕事はこっちで受け持ったが、細かいセッティングは詳しい人間に任せるべきだと考えたからだ。
一方の女性陣は、澪が食材の調理を行っている間に、食材を並べるための食器や、それぞれが食事をするための食器を野乃花ちゃんが準備していた。
炊飯のほうについても、野乃花ちゃんが準備しているようで、澪は買ってきた食材の調理に追われていた。
ウッドデッキのほうの準備については、準備が遅くなると虫よけなどの準備のタイミングが合わなくなると思ったので少し急いで準備していた。
そのせいで急いでいるのかもしれないが、声をかけるタイミングを逸してしまい、そのまま準備をしてもらうことになってしまった。
思ったより早く準備ができたので、食材を並べ始めてもらう。
日も沈んできていたので、虫などが気になるところだったが、静流が虫よけのアイテムを色々と購入してくれていたので、それで対処した。
いくつかは“業務用か?”と思うところもあったが、それのおかげで助かっているのも確かだったので、結果的に感謝することになっていた。
一通り並べ終わると、静流が焼き役になって食事が進み始めた。
「静流もちゃんと食べておけよ。」
「ああ、大丈夫、隙を見て食べるのは得意だから。」
普段から修さんの付き合いで、こういう場では焼き役に回ることが多いのだろう。
こちらが食べている間に、上手く自分の分を取っているようだった。
「明日から諏訪湖周りを回ろうと思うが、どこから回ったものだろうか?」
「案内施設とか、役所とかいろいろとあると思うけど、それ以外に気になる?」
「いや、どこから行くのが一番か悩むところでな。」
食事を摂りながらそんな話をしていると、庭の向こう側の茂みが揺れた気がした。
動物がいるにしては不自然な感じがしたので、辺りを窺ってみる。
やはり、動物の姿は見えないのだが、茂みが少し揺れているのを確認できた。
「…何かいるのか?」
そうつぶやくと、静流と澪が辺りを見回す。
それとは対照的に、ニコニコしながら肉を頬張る野乃花ちゃんが一息ついて声を出した。
「いるよー、そこの茂みの向こう側~。」
さも当然かのように野乃花ちゃんが口にする。
澪も静流もその姿を確認できておらず、少し挙動不審な動きをしていた。
認識できないものを当然のように居ると言われ、慌てていたのだろう。
「相手が何かわかるか?」
「動物霊とか、土地神様の類だと思うよ~。」
「何をしに来たかは?」
「うーん、多分だけど匂いに誘われたみたいだね~。」
匂いに誘われたということは、肉が焼ける匂いに誘われたということだろう。
そんなことで、と言いたい理由が分かったところで、全員が脱力していた。
土地神様たちも、BBQに参加したかったのだと思うと、少し親近感さえ湧いてくる。
「うん、それなら、お供えしておこうか。」
少し笑顔をのぞかせながら静流が何枚かの皿に焼き上げた具材を乗せていく。
たまたま、使っていないテーブルがあったので、そこに皿を並べておいた。
「皆さんも、食べて行ってくださいね~。」
澪が茂みの向こうに声をかける。
揺らぎは感じるが、実際に見えてはいない。
だが、その揺らぎから感じた雰囲気が、好意的にこちらに寄っていることを感じさせていた。
そうこうしているうちに、夜も更けてきたので、お供えしているもの以外を片付けてしまう。
お供えを置いたテーブルから少し離れた場所に虫よけだけを残し、自分たちは屋内へ撤収した。
そうして、今回の旅が始まってから、初めてのちゃんとした休日は過ぎていった。
—— いつの間にか、明日、会う予定のモノと接触していたことに、今はまだ気づいていなかった。
ようやく訪れた、何も予定のない一日。
買い出しをして、準備をして、庭でBBQ。
そんな普通の休日にも、この土地らしい存在はひょっこり顔を出してくるようです。
もっとも、目的は随分と俗っぽいものだったようですが。
明日からはいよいよ諏訪湖周辺へ。
探そうとしている相手には、もう出会っているのかもしれません。




