弛緩
神々との対話を終え、少しだけ日常へ。
温泉に食事、そして思わぬ寄り道へ向かいます。
事代主との対話した時に、暖かい緑茶を飲み続けていたせいか、今頃になって汗が流れてきた。
丁度帰りに立ち寄り温泉があるみたいなので、そこに寄ってから帰ろうと思う。
ちゃっかりというか、こういうこともあろうかと、全員分の着替えを車に積んである。
川や池に入ってしまうことや、ゲリラ豪雨で濡れてしまうことも想定してのことなのだが。
「静流、今日も帰りに温泉に寄っていいか?」
「俺は構わないけど、二人にも聞きなよ?」
静流はこういった急な流れになれているのだが、女性陣が必ずしもそうとは限らない。
なので、二人にも確認を取ったのだが、ちょうど汗をかいたのは二人も同じだったようで二つ返事だった。
帰路の途中にある立ち寄り温泉は、飲食の施設まで整っているらしく、夕食も摂って帰ろうということになった。
車で少し移動したところにある温泉まで車を移動させ、ラゲッジにある着替えを取り出す。
静流と女性陣にそれぞれ着替え袋を渡して温泉施設に入っていった。
決して広くない温泉ではあったが、知る人ぞ知るといった感じで、少しわくわくするところだった。
ちょうど、他の利用客がいなかったため、静流と二人、湯船でくつろぐ。
何となく、よくあるドラマの温泉シーンのように、頭の上にタオルを乗せてみた。
何か意味のあるものではないのだが、何となくそうしたかったのだ。
「今日も境には謎かけみたいになってたね。」
「そうだな、ここのところ毎回だから、いい加減慣れてきたけどな。」
人間も神様も、自分のことについては説明はせず、謎かけや次への案内になってしまう。
何かで、謎は深まるばかり、なんてセリフがあったが、それを思い出さずにはいられなかった。
「それにしても、近所のオッサンみたいな神様だったな。」
「そうだね、温泉につかってたら隣に居た、ってなっても驚かないよ。」
そんなことを言いながら二人で笑いあっていた。
諏訪で訪れようと思っていたスポットについては、この四宮で全制覇したことになる。
だから、少し緊張がほぐれて、どうでもいいような会話も弾んでいた。
そんな中、少し思い出したことがあったので、静流に確認を取っておく。
「朝に少し言ってた件だが、飯の後に寄って帰ってもいいか?」
「ああ、いいね。ただ、二人には言わずに何気なく寄ったほうがいいと思うよ。」
確かに、彼女らに話をすると、不要といわれかねないなと思ったので、静流の意見を採用することにした。
二人で貸し切り状態だったため、非常に満足度が高く、あがってしまうのが惜しかったが、この後の予定を考えて着替えて食事処に移動した。
当然と言えば当然なのだが、女性陣はまだ出てきていなかった。
二人ともロングヘアなので、髪を乾かすのにも時間がかかるだろうし、女性は色々と大変と聞く。
その間に、静流と二人で牛乳を飲み干していた。
「お待たせしました。」
澪が出てきながら、タオルで汗をぬぐっていた。
この二人で温泉なんてことは今まであまりなかったと思うので、話も盛り上がったのだろう。
第三者から見ると、二人とも同じ雰囲気をまとっているので、どんな会話になるのか想像がつかない。
食事処でメニューを見ていると、川魚らしきメニューが複数あったので、そちらを注文してみることにした。
海の魚は、普通に鮮魚店で買えるのだが、こういった淡水魚はあまり見かけない。
野乃花ちゃんも、珍しいメニューに目を輝かせていた。
「淡水魚を食べられるお店って、珍しいですよね。」
「そうだな、子供のころに食べさせてもらったのを思い出すよ。」
「うちの親なんかは渓流釣りに行くから、今度みんなも行こうか。」
「船釣りもいいよね~。」
メニューにある川魚を見て、みんなで釣りや魚を焼く方法など、魚について盛り上がった。
結果的には陽向と真琴さんを置いてけぼりで話を進めないようにしようという話になったのだが。
食事を済ませて、まだ夕方だったので、予定通り家電量販店に向かうことにした。
女性陣にはあえて目的地を言っていない。
澪のことだから、何を買おうとも文句を言ってくることはないだろうが、変な心配をされかねない。
そして、いつの間にかカード決済されかねない…。
流石にそこはカッコがつかないので、先を越されないほうがいいかなと思っていた。
何事もなかったかのように、車を家電量販店に滑り込ませる。
澪の“あれ?”という表情を見ながら、車を停めていると流石に確認されてしまった。
「境さん、何か買い忘れですか?」
「…実はな…。」
正直に澪に話をする。
折角のあのスペースなので、ホームシアターシステムを設置してしまいたいという話をした。
思いのほか、澪も乗り気だったので、少し安心していた。
「実は、倉庫の奥の方にレコードプレイヤーがあるらしいので、それも設置していただいていいですか?」
「ああ、構わないが、割と新しいタイプなのか?」
「私には分からないので、明日にでも見てもらえると嬉しいです…。」
そういえば、澪が機械音痴であることを忘れていた。
澪に聞いたレコードプレイヤーについては帰ってから確認するとして、色々な接続方法に対応できる商品を探し始める。
こういった快適装備は静流にとっても好物なので、二人で色々見て回った。
その中で、色々調べていると天井にスピーカーを埋め込むような方法もあるのだが、流石にと思って澪に視線を送る。
当然ではあるが首を横に振られてしまった。
「なぁ境、イネーブルドにしたら大丈夫なんじゃない?」
「あ、それがあったか。」
そんなことを言いつつ、スタッフの人に色々とかき集めてもらうと、見積もりの合計が七桁に届こうとしていた。
流石にどうしようと考えていると、澪が近寄ってきて見積もりを見てしまう。
「父にカードを渡されているので、経費で大丈夫ですよ。」
思わぬところからの援護射撃があった。
澪のお小遣いの中であれば抵抗があるところだが、別荘の持ち主で、整えておいてほしいという依頼をした本人であれば別だった。
そもそも、見積金額を見て驚かない澪も澪なのだが…。
ただ、折角なので、クラシック音楽を再生しても十分に感動できるレベルのものを選択できたつもりだ。
これで、澪が言うレコードを再生した時にも、満足がいくものになるに違いないと確信していた。
荷物の量としては結構なものになったが、三列目のシートを倒して荷物を載せると、意外と簡単に積み込めてしまった。
静流と二人、ニヤニヤ、ウキウキしながら別荘に戻った。
別荘に戻ってすぐに、荷物を降ろして設置を始める。
そもそも、別荘内の配線を見直す必要があると思っていたので、配線関連の部材はたくさんストックしていた。
「この配線、絶対に素人が適当にやってるな。」
「多分、買った時に自分でやったんじゃない?」
細かい配線には、持ち主が自分で手を入れたような跡が見える。
不要なモールなどを外したり、配線を隠すためにテレビ台の裏側に結束バンドで止めて行ったりとやり直しを続ける。
「これ、結束だけだとキレイにならないな。」
「いっそのことダクトかモールでまとめたほうがいいんじゃない?」
「…近くの配線、全部見直すか。」
「そういうだろうと思ってたよ。」
そう言って静流は笑いながら作業に付き合ってくれる。
そんなやり取りも楽しい一コマになっていた。
静流と二人、二時間ほどかけて配線を整理して、ホームシアターが完成した。
「今日はお疲れ様会だね。」
静流がそう言って、持ってきた映画を色々と探していく。
その中で、自分も静流も好きなミステリーものがあったので、それを再生していく。
こだわって選択しただけに、流石の迫力だった。
ミステリーなので、澪が苦手じゃないか少し気にはなったのだが、そこはミステリー。
ホラーでなければ特に問題ない様子で、むしろ映画の世界に引き込まれてしまっている様子だった。
ソファなどに腰かけた状態で、みんな適当な姿のまま映画を見て過ごした。
どこか緊張が続いていたのだろう、何事もない、こんな日常に浸っていた。
—— 見えないところに蓄積したもの、それを溶かすには、何も考えない時間が必要なのだと、改めて思い知ることになった。
今回は、少し肩の力を抜いた日常回となりました。
神々との対話が続いていましたが、彼らもまだ大学生。
温泉に入り、美味しいものを食べ、好きなことに夢中になる。
そんな何でもない時間も、長い旅には必要なのかもしれません。
そして、別荘の設備が着々と充実していきます。
果たして十日後、ここはどこまで快適になっているのでしょうか。




