第三章 【神の子】3.決断 パート10
歴戦の勇士バッカライ、戦場に降り立つ‼
戦況を変える事はできるのか?
斧の騎士は弾き飛ばされたことなど意に介さず、即座に体勢を立て直した。
大きく斧を振りかぶり、再びバッカライへ襲い掛かる。
バッカライは左手の剣をくるりと回して逆手に持ち替えると、その一撃を受け止めた。
そして、がら空きになった胴へ向けて右手の剣を一閃する。
だが、その刃は槍の騎士が放った鋭い突きによって弾かれ、軌道を逸らされた。
ギャンッ‼
火花が散る。
三者は反動でそれぞれ距離を取った。
バッカライは逆手にしていた左剣を順手へ戻し、二本の剣を構え直す。
息もつかせぬ攻防。
じりじりと間合いを詰めていくバッカライ。
そして――
一気に踏み込んだ。
狙いは槍の騎士。
槍の間合いを無視するように懐へ飛び込む。
『オラオラオラァ‼』
咆哮と共に強烈な連撃が叩き込まれた。
バッカライの剣はただの剣ではない。
剣というより鉈に近い。
分厚く、頑丈で、そして恐ろしく斬れる。
まるで持ち主そのものを映したような武器だった。
槍の騎士は嵐のような連撃を槍の柄で受け流しながら後退する。
槍最大の利点は長い間合い。
懐へ潜り込まれては、その優位を活かせない。
それこそがバッカライの狙いだった。
遠目からエリシアとフィンの戦いを観察していた。
そして実際に剣を交えて確信したのだ。
槍の騎士は間合いを乱されることを嫌っている――
最初の矢による牽制で後退したこと。
必ず斧の騎士の攻撃の後に突きを放ってくること。
僅かな情報から最大の戦果を導き出す。
まさに超一流の軍人の戦い方だった。
『弱みが分かりゃ攻めるだけだ‼』
なおも剣撃を浴びせ続ける。
斧の騎士が援護に入ろうとした――その時だった。
動きが止まる。
『よそ見してんじゃねぇよ。』
斧の騎士は太ももに突き刺さった矢を掴む。
視線を向けた先には、弓を構えたまま不敵に笑う少年の姿があった。
『変則的な槍のヤツと違って、アンタは動きは単調で分かりやすいんだよ。』
フィンは口元を吊り上げる。
『今のオレなら捉えられるぜ。』
そう言うと、再び弓を引き絞った。
ビシッ‼
鋭い破裂音。
放たれた矢が騎士の肩へ突き刺さる。
斧の騎士は膝をついた。
そこへエリシアが一気に踏み込む。
『せいっ‼』
渾身の一撃。
しかし――
ガインッ‼
エリシアの剣は、騎士が振り上げた斧によって弾かれた。
『くっ……しぶとい‼』
だが、戦況は明らかにこちらへ傾いている。
このまま押し切れる――
そうエリシアが確信しかけた瞬間だった。
『役立たず……。』
静かな声。
だが、その声には怒りが込められていた。
その声を聞いた直後――
ゾクリ……
背筋を冷たいものが駆け抜ける。
エリシア、フィン、バッカライ。
三人はほぼ同時に距離を取り、ノクスのもとへ後退した。
『……あの時の感覚だ。アイツはやべぇぞ。』
額に汗を滲ませながらバッカライが呟く。
『ああ。オレの勘も今すぐ逃げろって言ってる。』
フィンも同意した。
『だが、退く訳にはいかない。』
エリシアは一瞬だけ玉座の裏へ視線を向ける。
『あの炎を通路へ放たれれば、多くの人々が巻き込まれる。――』
ノクスは炎の魔術を操る少女を見つめていた。
『あの少女に、これ以上魔術を使わせる訳にはいきません。』
ボソリと呟く。
?―
三人の頭に疑問符が浮かぶ。
『どういう意味だ?』
エリシアが問い返す。
ノクスは額の汗を拭うことなく続けた。
『たとえ、あのレイピアに錫杖のような力があるとしても……何の代償もなしに、あの規模の魔術は使えません。』
そして自らの錫杖を見る。
『錫杖はあくまで増幅装置です。現に私の魔力も尽きかけていますし、後で反動も来るでしょう。』
沈黙。
そしてノクスは重々しく口を開いた。
『おそらくですが――』
息を呑む三人。
『あの少女は、命を削っています。』
⁉―
全員の表情が凍り付いた。
『……仕向けてんのはルシアスのクソ野郎か‼』
フィンが怒声を上げる。
その言葉を聞き取った少女が顔を上げた。
『今……何と言った?』
先ほどまでの無機質な表情は消えていた。
燃え盛る炎のような怒りがその瞳に宿る。
『正義の神の化身にして、正義の執行者――ルシアス様を侮辱したな。』
レイピアを構える。
『許さん‼』
玉座の間に怒号が響いた。
『お前たち‼ 役に立たないなら命を燃やせ‼』
そう叫ぶと、騎士たちの背へ手を置く。
次の瞬間――
二人の騎士が炎に包まれた。
その身体が白く輝き始める。
『……我が名、セラフィナの名のもとに命ずる。』
レイピアを天へ掲げる。
『聖炎をもって――敵を殲滅せよ‼』
ついに真の実力を見せるプラニタグマ【聖炎のセラフィナ】
その圧倒的な殺傷能力に対抗できるのか・・・
パート11へ続く




