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第三章 【神の子】3.決断 パート9

パート8からの続き


三人の侵入者は、目の前に展開された薄膜のような結界に足止めされていた。

中央に立つ少女が、両脇の騎士へ短く命じる。


『壊して。』


ただ一言。

その命令に反応した二人の騎士が前に出る。

一人は斧。

一人は槍。

それぞれが武器を叩きつけるたび、結界が少しずつ削られていく。


『簡易的に作り出した結界ですが、まだ持ちます!焦らず避難を‼』


ノクスが声を張り上げた。

その声を聞いたエリシアが、結界を破ろうとしている騎士へ向かって駆け出す。


『私たちも時間を稼ぐぞ!フィン、援護を頼む!』


『分かった!任せろ!』


『エリシアさん!結界の内側から攻撃を!』


走りながらエリシアが頷く。


『分かった!』


斧の騎士の前へ踏み込むと、迷いなく剣を振るった。

一方のフィンは距離を取り、槍の騎士へ矢を放つ。

正確無比な矢に、槍の騎士は後退を余儀なくされた。


『結界には近づかせねぇ!』


二人の奮闘により、敵は徐々に押し戻されていく。

これなら――

そう思った瞬間だった。


『時間かかり過ぎ。』


少女が呟いた。

次の瞬間――

結界の外側が爆発するように炎で埋め尽くされた。

床も壁も天井も。

視界に映る全てが灼熱の業火に包まれる。

あまりの熱量に、結界の内側の空気までもが揺らぎ始めた。


『なんて魔術だ……このままでは蒸し焼きにされてしまいます……』


ノクスはそう呟くと、錫杖を打ち鳴らし、その先端を少女へ向ける。


『水の奇跡を‼』


言葉が放たれた瞬間――

薄膜の結界が巨大な水の壁へと姿を変えた。

波のように広がった水が、周囲を覆う炎を次々とかき消していく。

その光景に、エリシアが思わず息を呑む。


『凄まじいな……』


魔術同士が正面から激突する光景など初めてだった。

フィンもまた目を見開く。


『魔術って……こんなことまで出来るのかよ……』


だが、水の壁へ変換されたことで結界そのものは消失した。

それに気付いたエリシアが叫ぶ。


『フィン!油断するな!来るぞ‼』


言葉を待たず、斧の騎士が突進する。

エリシアは迎え撃つ。

だが数度打ち合っただけで分かった。

重い。

圧倒的な膂力。

剣を受けるたび身体が押し込まれていく。

そこへ槍の騎士が加わった。

鋭い突きが次々と放たれる。

エリシアは間一髪で回避すると、後方へ飛び退きフィンの隣へ並んだ。


『さすがはルシアス親衛隊と言ったところか……強い。』


『ああ……ヤバいな。』


フィンはそう言うと、中央の少女へ視線を向ける。

そして額を伝う汗を拭うこともなく続けた。


『……でも、本当にヤバいのはあっちだ。』


弓を背へ回し、腰の小刀を抜き放つ。

________________________________________

バッカライは戦況を横目で確認しながら、信者たちの避難誘導を続けていた。

一人、また一人と地下通路へ送り込む。

早く戻らねば――

焦る気持ちを押し殺しながら、人々を誘導する。

その時だった。


『おい、あんた。』


声に顔を上げる。

そこに立っていたのは――


『あんた、あの店の店員か?』


『そうだ!だが今はそれどころじゃねぇ!何か手伝えることはあるか!?』


真剣な眼差しだった。

バッカライは一瞬だけ目を見開く。

だがすぐに口を開いた。


『ここを頼めるか?この通路に皆を下ろしてくれ。』


『分かった!』


店員は大きく頷くと周囲へ振り返る。


『おい!聞いたか!みんなで手伝うぞ!』


その声に応えるように男たちが集まってくる。

それを確認したバッカライは踵を返した。


『ここは任せてくれ!ダラ神の加護があらんことを‼』


店員の声を背に受けながら走り出す。

振り返らない。

今向かうべき場所は一つだった。

________________________________________

エリシアとフィンは防戦一方だった。

技量。

力。

圧力。

全てが相手の方が上。

ノクスもまた、炎の少女との睨み合いに集中している。

このままでは――

焦りが思考を鈍らせる。

その一瞬の隙を騎士たちは見逃さなかった。

斧が振り下ろされる。

やられる――

エリシアがそう覚悟した瞬間だった。

一つの影が割って入る。

ギイィィィィン‼

激しい金属音が玉座の間に響き渡った。

エリシアの視界を、大きな背中が塞ぐ。

見慣れた背中だった。


『遅いぞバッカ!』


『こりゃ手厳しい……普通の奴なら心が折れてますよ?』


バッカライは斧を双剣で受け止めると、そのまま力任せに弾き返した。

そして顔だけ振り向く。

ニカッと笑った。


『ここからは、オレの時間です。』


その言葉に、エリシアの口元も自然と緩む。


『親父との約束通り、思う存分暴れさせてもらいます。』


そう言って大きく息を吸い込む。

そして――


『おい!フィン!しっかり見とけよ‼』


叫ぶと同時に双剣を構えた。


『双剣のバッカライ――参る‼』


バッカライ参戦‼

ノクスVS炎の魔術を操る少女の行方は・・・

パート10に続く

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