第三章 【神の子】3.決断 パート8
パート7からの続き。
大剣の騎士の合図と共に、四騎が一斉に砦へ駆け出した。
先陣を切るのは、大楯の騎士。
続いて、大剣。
大弓の騎士は、一歩引いた位置から矢を放ちながら前進する。
先ほど門を開いた軽装の剣士も、走り込んできた馬へ軽やかに飛び乗ると、そのまま他の騎士達と共に砦の中へ消えていった。
『ど、どうなってやがる……たった四騎で突撃だと⁉』
茂みに身を潜めながら、バッカライは目の前の光景に動揺を隠せずにいた。
考える暇もない。
直後、砦の中から悲鳴と怒号が轟いた。
『ちくしょう……頭がどうにかなりそうだ。』
呆然と呟きながら、固唾を飲んで戦況を見守る。
いや――違う。
体が恐怖で硬直し、そうする事しかできなかった。
―
四騎が砦へ突入してから、どれほど時間が経ったのか。
感覚は狂っていた。
その時だった。
砦から聞こえていた悲鳴が、不意に止んだ。
『……終わったのか?』
バッカライは、額から流れ落ちる汗を乱暴に拭う。
――その瞬間。
砦の正門から、四騎の騎士が姿を現した。
白銀だった鎧は、返り血によって深紅に染め上げられている。
だが、彼らは振り返る事すらしない。
まるで、ただ道を通り過ぎただけのように、そのまま走り去っていった。
『どうする……? とにかく中を確認して、本隊へ報告か?』
自問自答。
動揺している自分自身に驚きながら、必死に答えを探す。
『俺は……斥候だ。中を確認し、本隊へ報告する。それが役目だ。』
そう言うと、自分の頬を二度強く叩き、砦へ向かって走り出した。
―
砦の門は、未だ開け放たれたままだった。
バッカライは慎重に壁へ身を寄せながら、内部を覗き込む。
『うっ……!』
凄まじい血の臭いだった。
潰された跡。
切り刻まれた跡。
矢で串刺しにされた死体。
中には、真っ二つに両断された者までいる。
『ひでぇ……。』
そして、気付く。
『これは……民間人? 敵兵だけじゃないぞ⁉』
その瞬間、事の重大さを理解した。
『あいつら……やりやがった。』
怒りと恐怖が、同時に込み上げる。
『……死神。』
自然と、その言葉が口から漏れていた。
―
バッカライは急ぎ本隊へ戻ると、見聞きした全てを報告した。
『――以上が、報告となります。』
『そうか。砦は血の海となり、敵兵は全滅していた……という事だな。』
『はっ‼』
『大方、仲間割れでも起こし、民間人を巻き込んで争ったのだろう。』
『い、いや……しかし……。』
『たった四騎で、三百を超える敵兵が籠る砦へ突撃した――などと、誰が信じる?』
ルシアスは、愉快そうに笑った。
『お前も疲れているのだろう。戦場では、幻を見る事もある。』
バッカライは言い返せなかった。
自分が同じ報告を受けても、きっと信じない。
『まぁ、砦攻略の手間が省けた。結果としては悪くない。』
そう言うと、ルシアスは近くの将校へ視線を向ける。
『全軍前進‼ これより砦を制圧する‼』
『はっ‼ 全軍前進‼』
復唱が響く。
その直後だった。
『――御苦労だった。下がってよい。』
ルシアスは、ふと思い出したように言葉を止める。
『……いや、待て。』
バッカライを見る。
まるで値踏みするような目だった。
『お前は、なかなか良い光をしているな。』
顎に手を添え、少し考える素振りを見せる。
『だが――これ以降、お前が輝く瞬間は無いだろう。』
静かな声。
だが、その言葉には妙な重みがあった。
『いずれ、お前には“最も輝く瞬間”を用意してやろう。』
『……?』
意味が分からない。
だが、その口調から、褒められているのだと察した。
『ありがたき幸せ。』
『ここでお前の任を解く。帝国へ帰還し、我が妹――グレイスの配下へ付け。手紙は送っておく。』
『……はっ‼』
その時のバッカライは、まだ知らなかった。
この出会いが、自らの運命を大きく変える事になるなど――。
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バッカライのルシアス、プラニタグマとの因縁・・・
次回、時は戻って現在、プラニタグマの魔術使いに対してフィン、エリシア、ノクスはどう戦うのか?
パート9に続く。




