第三章 【神の子】3.決断 パート7
プラニタグマとは何なのか・・・
過去にバッカライがみたものとは・・・
バッカライは思い出していた――
五年前、あの戦場を――
――
――
――
“獅子王子”と呼ばれたルミオン王子が討たれて間もなく。
弔い合戦の名のもと、ルシアス王子は自ら軍を率いて南の大国へ侵攻した。
快進撃は続いた。
しかし相手もまた大国。
守りは固く、とある砦を前に戦線は膠着状態に陥っていた。
当時のバッカライは、斥候部隊の一員として従軍していた。
敵情を探り、報告する。
それが彼の役目だった。
その日もまた、敵情視察から戻ったバッカライは、本陣で報告を行っていた。
『報告いたします。砦は崖沿いに築かれており、さらに前方は高い壁、門を閉ざして籠城戦の構えです。』
報告を受けたルシアスは、小さく呟く。
『……籠城か。本隊が合流するまでの時間稼ぎ、といったところだな。』
口元を手で隠しながら、静かに思案する。
『中の兵力は?』
『はっ。およそ三百五十。壁上に弓兵五十、内部に歩兵二百五十、騎兵五十と推測されます。民間人はおよそ八百、敵の数は少ないですが、地形の利がかなりあるかと。』
『侵入経路は?』
『壁を登るか、正門を破る他ありません。』
そこでバッカライは一歩前に出た。
『中には民間人も多数避難している模様。
我ら斥候部隊が夜陰に紛れて侵入し、住民を逃がしつつ門を開けば、被害を抑えたまま制圧できるかと。』
その提案に、ルシアスはにこりと微笑んだ。
『なるほど。悪くない案だ。』
だが次の瞬間、その瞳から笑みが消える。
『……しかし、夜を待てば敵本隊と合流される恐れがある。時間が惜しいな。』
そう呟くと、彼はわずかに肩をすくめた。
『少々つまらんが……プラニタグマを動かすか。』
ルシアスは立ち上がり、マントを翻す。
『これより命令を下す。全軍、一時後退。森手前の平原で陣を整え、総攻撃に備えよ。』
――後退?
バッカライは疑問を抱いた。
だが、それを口にすることはなかった。
『一刻後、全軍前進。砦正門を打ち破り、そのまま内部を制圧する。』
正面突破――?
無謀だ。
そう考えたバッカライは、本陣を下がるや否や、一人砦へと駆け出していた。
せめて自分だけでも先行し、内側から門を開ける。
そうすれば犠牲を減らせるかもしれない。
砦近くの茂みに身を潜め、息を殺しながら侵入の機を窺う。
――その時だった。
自軍側から騎兵が近づいてくるのが見えた。
数は四騎。
――和平交渉か?
そう思ったバッカライは、目を細める。
全員が同じマントを羽織っていた。
白地に金糸の刺繍。
そして裏地は、燃える炎のような深紅。
見たことのない紋章だった。
やがて四騎は砦手前で停止する。
一人目は、全身を鎧で覆い大盾を携えた重騎士。
二人目は、巨大な弓を背負った弓兵。
三人目は、細身の剣を背負う軽装の剣士。
そして最後――
大剣を腰に携えた騎士。
馬上の姿を見るだけで、他の三人とは別格だと分かる威圧感を放っていた。
そして、四人全員が白銀の鎧を身に纏っていた。
――なんだ、あいつらは……。
息を呑むバッカライ。
すると、白銀の剣士が馬を降りた。
次の瞬間。
砦へ向かって駆け出す。
――速い‼
常人離れした速度だった。
剣士は一瞬で壁際へ到達すると、剣を抜き放ちながら、そのまま垂直の壁を駆け上がった。
あり得ない。
敵兵たちは理解が追いつかず、完全に動きを止めていた。
そこへ――
風を裂く音。
次々と兵士が倒れていく。
バッカライは目を見開いた。
白銀の弓兵が、馬上から壁上の兵を射抜いていたのだ。
あの距離を――
あの体勢で――?
しかも、一射たりとも外さない。
化け物だ。
そうこうしているうちに、砦の大扉がゆっくりと動き始めた。
目を凝らす。
そこに立っていたのは――
返り血を浴びた、あの白銀の剣士だった。
その姿を確認すると、大剣の騎士が静かに剣を抜く。
そして、低く響く声で告げた。
『全軍突撃。』
その声だけで、空気が震えた。
『――正義の名のもとに、敵を殲滅せよ。』
パート8へ続く。




