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第三章 【神の子】3.決断 パート3

時は遡り、神殿でフィンが助かった後。

ノクスは何を想うのか・・・

玉座の間は、静寂に包まれていた。

ノクスは手にしていた錫杖を、玉座の前にある台へ静かに置くと、小さく息を吐いた。


『……フィンさんを助けられて、本当によかった。

私の力は、このために授かったのかもしれませんね。』


天を仰ぎ、安堵したように目を細める。

だが次の瞬間、視線を落とした。


『覚悟していた事ではありませんか……しっかりしなさい。』


自分に言い聞かせるように呟く。

しばしの沈黙。

やがてノクスは、ぽつりと言葉を漏らした。


『もう、私は私ではいられないのです。

神となり、信仰の象徴となり、人々を導く――。』


そこで言葉が止まる。


『……夢にまで見た瞬間が、五日後に迫っているというのに。』


目を閉じる。

脳裏に浮かんだのは、フィンとエリシアの姿だった。

ノクスは、自分がここまで変わってしまうとは思っていなかった。


――今から三年ほど前。

ノクスが旅に出る決意をしたのは、一冊の本がきっかけだった。

その本は、神殿の書庫に保管されていた。

普段、書庫の扉には固く鍵が掛けられており、中へ入る事など許されない。

だが、その日に限って、何故か扉は開いていた。

――

――

『あれ……? 書庫の扉が開いていますね。』


通りかかったのは、まったくの偶然だった。

ノクスは周囲をきょろきょろと見回すと、そっと書庫へ滑り込み、静かに扉を閉めた。


『前から興味があったのですよね。

きっと、ダラ教の古い伝承や、貴重な書物が保管されているに違いありません。』


胸の高鳴りを抑えながら、本棚へ歩み寄る。

整然と並ぶ書物を前に、ノクスは指先で背表紙をなぞるように動かした。

すると、不思議な事に――その指が、一冊の本の前でぴたりと止まった。


『……?』


ノクスは、その本を凝視する。

しかし、書庫の中は暗く、題名がよく見えない。

そっと本を取り出し、表紙を確認する。


『三……神……?うーん、かすれていて読めませんね。』


首を傾げながら本を開く。

中の文字は比較的はっきりしていたが、やはり暗さのせいで読みづらい。

ノクスは少し悩むように唸ると、小さく呟いた。


『……少しくらいなら、バレないでしょう。』


そう言って目を閉じ、静かに祈る。

その瞬間――。

ぽうっ、と青白い光が空中に浮かび上がった。

ノクスはそれを灯り代わりにしながら、本を読み始める。

――

――

どれほどの時間が経ったのかは分からない。

夢中で読み続けていたせいで、昼なのか夜なのかさえ曖昧だった。

やがて最後の頁を閉じると、ノクスは深く息を吐き、天を仰いだ。


『……不思議な本です。人々を癒やす女神……これは間違いなくダラ神でしょう。』


そして、考え込むように続ける。


『もう一人は、光り輝く剣を持つ女神。

そしてもう一人は、風を纏った精霊の王……。』


『三人は共に世界を旅し、秩序と規律、そして安定をもたらした――か。』


ノクスは顎に手を当てた。


『光の剣を持つ女神は、リン神……。

では、この風を纏う精霊王とは……自然信仰に伝わるジャンなのでしょうか。』


その瞬間。

ノクスは勢いよく机へ突っ伏した。


『ありえません……。

世界を創造したのは、唯一神ダラであると教えられてきたのですから。』


苦しげに言葉を吐き出す。


『あの野蛮な帝国が信仰するリン神と、神を持たぬ森の民の王が、共に旅をしていたなど……。』


静寂が落ちる。

長い沈黙の末、ノクスはゆっくりと顔を上げた。


『……ですが。』


その瞳には、確かな意思が宿っていた。


『私は、いずれ神となる者。

ならば、この真実を――【二十歳の試練】で確かめなければなりません。』


そう決意した、その時だった。

外から、切羽詰まった叫び声が響く。


『あぁ!! 大変だ!!

女神の守護剣が消えてしまった!!』


神官たちの悲鳴にも似た声が、神殿中へ響き渡る。

ノクスは慌てて本を棚へ戻すと、人の気配が無い事を確認してから、静かに書庫を後にした。

――

――

『……ふふっ。』


ノクスは自嘲するように笑った。

『私は、証明できたのかもしれませんね。

あの本に書かれていた事こそ、本当だったのだと。』


そして、どこか優しげに微笑む。


『信仰や考え方が違っていても……人は、信頼し合える。

友になる事ができる。』


ゆっくりと目を閉じる。

そして、自分に言い聞かせるように一言。


『……まだ、神になるまで充分時間はあります。』



神に成る決意を固めつつ揺らぐノクス。

再会した三人はどうなるのか・・・。

パート4へ続く。

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