第三章 【神の子】2.本当の心 パート6
パート5からの続き。
『分かっておったか……今日はお前に頼みがあって来た。
これまでの経緯と、今回の依頼について話そう。』
そう言うとエリシアは、これまでの出来事をバッカライに語り始めた。
―
―
―
『そんな事が……。では俺が軍を解雇されたのも、グレイス様の指示だったのですね。』
腕を組んだまま、バッカライは苦い表情を浮かべる。
『何も聞かされていなかったようだな……。知れば、お前の命……いや、家族の命も危険に晒すと、グレイス姉さまは考えたのだろう。』
エリシアは、バッケロが連れて行かれた部屋の方へ視線を向け、小さく呟いた。
『俺は、西方出身だから外されたとばかり思ってました……。とはいえ解雇はやり過ぎだとも感じてましたがね。』
バッカライは自嘲気味に笑う。
『故郷に戻って、ひと月ほど腐ってました。……けど、親父がパンを焼く姿を見て、俺も何かしねぇとなって……店を手伝うようになって。』
言葉が途切れる。
短い沈黙。
『そんな時に、エリシア様の部隊が全滅したって噂が流れてきて……。この目で確かめようと戦場に向かおうとしましたが、親父に止められました。』
俯いたままの声だった。
エリシアは静かに歩み寄り、その肩に手を置く。
『……そうか。親父殿は、お前にとって大切な人なのだな。』
一瞬、言葉を切る。
『私の頼みは……お前を再び戦場へ引き戻す事になる。』
その言葉に、自分自身を重ねるように――
エリシアの脳裏にグレイスの顔が浮かんだ。
バッカライは申し訳なさそうに頭を下げる。
『……すまねぇ、エリシア様。俺は、この店を離れられねぇ。』
エリシアは静かに頷き、フィンへ視線を送りながら首を横に振った。
『……という事だ。他の方法を考えよう。』
フィンはニッと笑い、親指を立てる。
『気にすんな。他に手なんざ、いくらでもあるだろ。』
――その時だった。
『すまんが、話は全部聞かせてもらった。』
扉がゆっくりと開く。
そこには、先ほど部屋に引っ込んだはずのバッケロが立っていた。
『厠に行こうとしてな……声が聞こえてきてのぉ。立ち聞きしてしまった、すまん。』
部屋に入るなり、バッケロはエリシアの前で膝をつき、頭を下げた。
『知らぬ事とはいえ、失礼をいたしました。』
エリシアも同じように膝をつき、視線を合わせる。
『よい。今の私は帝国の姫ではない。……追われる身だ。』
バッケロは顔を上げ、柔らかく微笑む。
『それでも、貴方様は息子にとって大切な方です。』
ゆっくりと振り返り、バッカライを見る。
『戦場での噂が届く度に、こやつは一喜一憂しておりました。
全滅の報せが流れた時など――』
少し苦笑する。
『【俺が居れば】と、何度も繰り返してな。止めるのに骨が折れましたわい。』
そして、静かに言い切る。
『こやつは、今も後悔を引きずっておる。』
――一拍。
『バッカよ。』
低く、しかし力強く。
『エリシア様の依頼を受けよ。今度こそ、悔いの無いよう働いてこい。』
バッカライは目を見開く。
『行って来いって……この店はどうする!親父一人じゃ――』
俯くその肩に、バッケロは手を置いた。
そして――
『……お前、本気で言っとるのか?』
声が震える。
『せっかく、格好よく送り出してやろうと思っとったのに……。』
バッカライが首を傾げた瞬間、
バッケロは怒鳴った。
『さっさと出てけぇ!この店を潰す気か!?
店なんぞ、ワシ一人の方がよっぽど繁盛するわい!』
『そんなぁ……親父ぃ……酷い。』
『酷いのはお前のパンじゃあああ!!』
そのやり取りに、フィンが吹き出す。
『ははっ、面白ぇなオッサン。いい親父じゃねぇか。』
『誰がオッサンだ!……まぁ、いい親父なのは認めるがな。』
バッカライは苦笑し、そして――
エリシアへ向き直る。
その目には、迷いはなかった。
『エリシア様。依頼、お受けします。』
一歩、踏み出す。
『今度こそ――俺が、貴方の道を切り開きます。』
エリシアは力強く頷いた。
『ああ、バッカ。頼りにしているぞ!』
『はっ!!』
バッカライが加入した一行。
残る期限は、あと4日・・・ノクスに会う事はできるのか・・・
パート7へ続く。




