第三章 【神の子】2.本当の心 パート4
協力者を求めて、エリシアの元部下のいる街に出発した二人。
【バッカライ】とはどんな人物なのか?
二人が出発したのは、翌朝の早朝だった。
世話になった店の店員に礼を言うと、二人がこの街を一度離れることを知っていた店員は、
「戻ってきたら、また必ず寄ってくれよ――」
そう言って、朝食用のサンドウィッチを手渡してくれた。
二人はそれを受け取り、もう一度礼を述べると、目的の街へと歩き出した。
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印の付けられた街までの道のりは険しかったが、フィンの見立てどおり、半日ほどで到着した。
遅い昼食として、出発の際に受け取ったサンドウィッチを食べ終えると、二人は聞き込みを開始する。
難航するかと思われたが――意外にも、居場所はあっさりと判明した。
『意外と簡単に見つかったな……どうやら、この街じゃ有名人らしい。』
とある店の前で腕を組み、建物を見上げながらエリシアが言う。
『ああ……悪い意味でな。』
フィンは眉間に皺を寄せて答えた。
その言葉に、エリシアは一瞬だけ悲しげな表情を浮かべる。
だがすぐに顔を引き締め、前を見据えた。
『ここで、あいつを止めなければ、この街は――……行こう。』
二人は視線を交わし、同時に頷く。
フィンは小さく息を飲み、店の扉に手をかけた。
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その店は、この街の唯一のパン屋だった。
古びた建物は長い年月を感じさせ、この街の食卓を支えてきた歴史を物語っている。
店内は明るく、整然と並べられた棚にはパンがずらりと並んでいた。
『ここが、あいつの実家か……噂ほど酷い状態には見えんな。』
エリシアは棚から一つパンを取り、呟く。
『ああ、匂いもいいし……。』
言いかけて、フィンは違和感に気づいた。
……おかしい――
今は昼過ぎだ。
それなのに、棚にはパンが大量に並んでいる。
その時だった。
『お客さんかい?こんな時間に珍しいね。今行くから、少し待っててくれ。』
店の奥から声が響く。
エリシアの表情が、わずかに変わった。
――【バッカライ】だ。
奥の工房から、バタバタと足音を立てて男が現れる。
粉まみれの服を払いながら、下を向いたまま出てきたその男は――
傷だらけの顔。
太い首に掛けたエプロン。
まくり上げた袖から覗く、無数の傷を刻んだ太い腕。
どう見ても、パン屋のそれではなかった。
パン屋とはかけ離れた風貌だな……――
フィンは心の中で突っ込む。
『バッカ、久しぶりだな。実家に戻ってパン屋を継いだのか?』
エリシアの言葉に、バッカライは眉をひそめた。
『……バッカぁ?俺をそう呼んでいいのは仲間だけだ。あんた、どこでその呼び名を知った?』
ゆっくりと顔を上げる。
『答え次第じゃ――痛い目見るぜ。【あんちゃん】』
その言葉に、フィンは片手で目を覆い、俯いた。
あーあ……――
対するエリシアは、一歩踏み出す。
顔をぐいっと近づけ、光のない目で微笑んだ。
『そうか。私は、お前の仲間ではないのだな?それに――私は【あんちゃん】ではないが?』
バッカライは一瞬、言葉を失う。
そして、その顔をまじまじと見つめ――
みるみるうちに血の気が引いていった。
『……エリシア様!?』
次の瞬間、尻もちをつく。
エリシアは腕を組み、その姿を見下ろした。
『ようやく気付いたか。いかにも――私は神聖帝国第七【王女】、エリシアだ。』
片眉をピクピクさせて言い放つ。
バッカライは、その場で土下座に移行した。
『申し訳ありません!! このバッカライ、一生の不覚!!』
しかし、そのまま声を震わせる。
『ぐすっ……ぐすっ……エリシア様……よくぞご無事で……』
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
エリシアは、そっと肩に手を置いた。
『すまん、心配をかけたな。私はこの通り無事だ。』
フィンは、その光景を鼻の頭を掻きながら眺めていた。
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バッカライは二人を店の奥へ通し、椅子に座らせると、お茶と焼き立てのパンを運んできた。
香ばしい匂いが、ふわりと漂う。
我慢できず、フィンは一つ手に取り、かぶりついた。
『どうだ?俺の新作パン。自信作だぜ』
――
沈黙。
エリシアが不思議そうに覗き込む。
フィンは目を白黒させながら、必死に飲み込んでいた。
ようやく飲み下すと、低い声で言う。
『……おい、おっさん!このパン何入れたんだ?』
バッカライは胸を張った。
『おっと、それは企業秘密ってやつだ。簡単にレシピは教えらんねぇな。盗もうったってそうはいかねぇぜ。』
エリシアはパンを口に運ぼうとしたが、フィンが必死にバツ印を作っているのを見て、そっと皿に戻した。
バッカライはフィンを親指で指しながら言う。
『エリシア様、この口の悪い小僧は何なんです?』
『私の友人だ。一緒に旅をしている』
――友人。
その言葉に、バッカライの目が再び潤む。
『エリシア様に……ご友人が……このバッカライ……。』
『ふふっ、バッカよ。大げさだぞ。私にも友人くらい居るのだ。』
何故か胸を張り自慢げなエリシア。
それを見て涙するゴツイ男・・・。
その光景を見ながら、フィンはぽつりと呟いた。
『……何だこれ?』
激マズパンを売る男【バッカライ】
無事、協力を得る事ができるのか?
パート5に続く。




