第三章 【神の子】2.本当の心 パート3
厨房から、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
テーブルには、所狭しと肉料理が並んでいた。
二人はそれをガツガツと平らげながら、ノクスに会うための作戦を練っていた。
『どうやら、明日から五日後のようだな。一日でも猶予があるのは助かる。』
エリシアは分厚いステーキにナイフを入れる。
切り分けるたびに溢れる肉汁が、さらに食欲を刺激した。
『そうだな。でも普通に会いに行っても、会わせてはもらえねぇだろうな……。準備期間中は神殿から出てこねぇはずだ。いっそ忍び込むか?』
フィンは焼き目のついたチキンレッグにかぶりつきながら答える。
エリシアは一口飲み込み、わずかに首を振った。
『……いや、私たちは神殿の構造を知らん。無策で入るのは危険すぎる。』
フィンは肉団子を口に放り込みながら、困ったように天を仰ぐ。
『こういう時に、コムニスのおっさんがいりゃな……。』
あの“デキる男”の姿を思い浮かべるが――なぜか顔だけ思い出せない。
『ああ。コムニスなら内部を探らせることもできたが……今から呼び戻す時間はないな』
エリシアは腕を組み、積み上がった空の皿を見つめる。
『俺は勘はいいけど、そういう探りは向いてねぇしなぁ……。』
フィンは串焼きを両手に持ち、交互にかぶりついた。
その様子に呆れつつ、エリシアはふと呟く。
『探る……探るか……。なら、心当たりがある。』
エリシアは空の皿を端に寄せ、地図を広げた。
『この印の街に、私の元部下がいる。名は【バッカライ】。
前線で斥候と索敵部隊を率いていた男だ。
探りには長けているし……確かダラ信者でもあったはずだ。
何か神殿についても、わかる事もあるかもしれん。』
フィンは手を拭き、身を乗り出して地図を覗き込む。
『街道を行けば歩いて一日半ってとこか……。』
今度は、今いる街から印のある街まで、一直線になぞる。
『山を突っ切れば最短で半日だな。行けるぜ。』
親指を立てて笑う。
『よし、決まりだ。明日すぐに向かう。』
話がまとまるや否や、フィンは手を上げた。
『ステーキ二枚追加で。』
エリシアが目を丸くする中、店員が笑いながら近づいてくる。
『よく食べるねぇ。気に入ったよ。宿は決まってるのかい?
まだなら、うちの二階が空いてる。どうだい?』
『マジか⁉助かる!なぁエリシア』
その名前を聞いた瞬間、店員の表情がわずかに固まる。
そして、気まずそうに口を開いた。
『……あんた、女だったのか。悪いな。髪と口調で、てっきり男だと……。』
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
フィンが腹を抱えて笑い出した。
その姿を見ながら、エリシアは静かに思う。
ノクスの言っていたことは間違いだ……“ガサツ”が足りてない――
夜の静けさの中に、フィンの笑い声だけが響いていた
エリシアの元部下【バッカライ】とはどんな人物なのか?
パート4続く。




