第三章 【神の子】2.本当の心 パート2
腹ごしらえの為に食堂を訪れた二人。
これからどうするのか。
街の中心部にある大きな食堂を避け、街外れにひっそりと建つ小さな食堂を見つけ、二人はそこへ入ることにした。
エリシアは、先ほど切ったばかりの髪を何度も指で触って確かめている。
短くなりすぎた髪は風通しが良すぎるのか、どうにも落ち着かない様子だった。
その様子を、フィンは呆れた顔で眺めている。
『どうせまた伸びるんだろ。気にすることねぇじゃねえか……。』
ぼそりと呟いた言葉を、エリシアは聞き逃さなかった。
『誰があそこまで切れと言った!お前に任せたのが間違いだった!』
むっとした顔で睨みつける。
ふと、エリシアの脳裏にノクスの言葉がよぎる。
――大雑把でいい加減。
思わず苦笑が漏れた。
『……やはり、ノクスの言った通りだな。』
『あ?何か言ったか?』
『ノクスに会ったら聞いてみろ。』
つっけんどんに返すと、フィンは不満げに口を尖らせた。
『なんだよそれ。面白くねぇな……。』
そんなやり取りをしていると、店員が注文を取りにやってくる。
『注文は決まってるかい?この店はこの街じゃ珍しく肉も扱ってるんだ。肉料理、どうだい?』
にこやかにメニューを指差す店員に、エリシアが応じる。
『肉が珍しいのか?この辺りにはあまり詳しくなくてな。』
店員は少しだけ苦笑した。
『あんたたち、旅人だな。この街は初めてかい?』
『ああ。よければ、この街のことを少し教えてくれないか?』
その言葉に、店員は店内を見渡す。
客は二人だけだ。
『まぁ……時間はあるな。』
肩をすくめると、語り始めた。
『この街は、ダラの神殿がある――ダラ教の中心地だ。
教えがな、質素・節約・無駄な殺生の禁止……そういうもんだから、肉を出す店は少ない。』
フィンが眉をひそめる。
『無駄な殺生って……食うために獲るのは無駄じゃねぇだろ。』
店員は深く頷いた。
『俺もそう思うさ。だがな……ここ数年で、教えをやたら厳しく、いや――狂信的に解釈する連中が増えてな。』
少し言葉を選ぶようにしてから、続ける。
『俺もダラの信徒だが……正直、ついていけないところはある。』
その表情には、かすかな疲れと諦めが滲んでいた。
エリシアは、その変化の原因に心当たりがあった。
――ルシアス。
おそらくルシアスの来訪が、ダラの神殿にもたらした影響は凄まじかったのだろう。
その恐怖がトラウマとなり、信仰をより内向きに向かわせている・・・。
そして、それがこの街にも影を落としている。
そう考えると、妙に腑に落ちた。
『助かった。最後に一つ聞きたい。』
エリシアは静かに切り出す。
『五日後、ダラの神殿で祭典があると聞いた。どんなものだ?』
店員は、ぱっと表情を明るくした。
『お、耳が早いな。詳しくはねぇが……神殿に“神の子”が修行から戻ってきてな。』
少し身を乗り出して声を潜める。
『五日かけて“神になる支度”をするらしい。で、その瞬間を皆で祝う……って話だ。』
――神になる瞬間。
その言葉に、フィンとエリシアは視線を交わした。
――ノクスはまだ、神ではない。
互いに同じ結論へと辿り着く。
ゆっくりと店員に向き直ると、フィンがメニューの肉料理の欄を指で叩いた。
『よし、決めた。ここからここまで、全部持ってきてくれ!』
僅かにノクスへの糸口を見つけた二人。
次回、作戦会議が始る。
パート3に続く。




