第三章 【神の子】1.ノクスの決意 パート5
ダラの神殿からの迎えを呼び、神殿に向かう事になった一行。
道中でノクスが語った事とは・・・。
ダラの神殿からの使者は、ノクスが教会を訪れた翌日に迎えに来た。
事情を説明すると、使者はフィンとエリシアにも馬車に乗るよう促したが、その表情に歓迎の色はない。
馬車が動き出してしばらくした後、ノクスが申し訳なさそうに口を開いた。
『……なんだか、すみません。彼らに悪気はないのです。』
その言葉に、エリシアは小さく首を振る。
『ノクスが謝ることではない。それに、ダラ教が排他的なのは有名な話だ。』
ノクスは視線を落とし、静かに頷いた。
『その通りです……。エリシアさんには申し訳ありませんが、特に帝国人――リン教徒には、厳しい目が向けられがちです。』
エリシアは腕を組み、わずかに首を傾げる。
『理由はあるのか?確かに、光と闇――相反する教えだというのは分かるが……。』
ノクスは少し考えるように目を伏せてから答えた。
『ええ……。というより、ほとんどすべてが真逆なのです。
光に対して闇――
火に対して水――
戦いに対して安らぎ――
豊かさを求めるのに対し、節制を美徳とする――。』
言葉を重ねるごとに、その違いが際立っていく。
『思いつくだけでも、これほどに……。』
エリシアは納得したように頷きながらも、どこか腑に落ちない様子で言った。
『……なるほどな。だが、ノクスは違ったじゃないか。』
その言葉に、ノクスはわずかに笑みを浮かべる。
『私も最初は、同じ考えでした。』
一拍の間を置き、続けた。
『だからこそ、帝国王都――リン信仰の中心がどのような場所なのか、自分の目で確かめたくて旅に出たのです。』
視線を窓の外へと向ける。
『そこで、お二人に出会い、言葉を交わしていくうちに……気づいたのです。自分の中にあった“檻”が、外れていくことに。』
その言葉に、エリシアは苦笑を浮かべる。
『では、最初はどう思っていたのだ?』
ノクスも苦笑しながら答えた。
『正直に言えば……怖かったです。』
少しだけ言葉を選ぶように間を置く。
『エリシアさんが、豹変して襲いかかってくるのではないかと、気が気ではなかった……。ですから、信仰の話をして気を紛らわせていました。』
エリシアは目を丸くする。
――あの時の力説は、そういうことだったのか。
ノクスは続ける。
『実は、フィンさんに対しても同じです。』
そう言って、眠ったままのフィンへと視線を向けた。
『信仰心もなく、大雑把でいい加減で……それでいてお金が好き。ダラ信徒にとっては、まさに対極のような存在でした。』
ふっと、柔らかく笑う。
『ですが、ある時、気づいたのです。そんなことは――どうでもいいことなのだと。』
静かな声だったが、その言葉には確かな重みがあった。
『それは、この旅に出なければ得られなかった……私の宝物です。』
その響きに、エリシアは一瞬言葉を失う。
――まるで、この旅が終わるかのような言い方だ。
胸に小さな違和感が残る。
『……フィンが目を覚ましたら、今の話をしてやろう。きっと面白い顔をするぞ。』
少し無理に明るく言う。
ノクスは静かに頷き、どこか寂しげに微笑んだ。
『それは……楽しみですね。』
その笑顔は、どこか儚く見えた。
真実を語ったノクス、その真意とは何だったのか。
パート6に続く。




