第三章 【神の子】1.ノクスの決意 パート3
倒れたフィン・・・どうしてしまったというのか。
フィンが倒れてから、どれほどの時間が経ったのだろうか。
辺りはすっかり暗くなり、街は夜の闇に包まれていた。
三人は人目を避け、路地裏に身を潜めていた。
未だ目を覚まさぬフィンを、必死に介抱しながら――。
『目を覚まさんな……。止血は済んだし、今日の行程も、フィンにとって無理をするほどのものではなかったはずだが……。』
首をわずかに傾げ、エリシアが呟く。
その言葉に、ノクスも静かに頷いた。
『確かに……私の魔術で止血はしてあります。それなのに、ここまで傷が開いているのは、不自然です。』
顎に手を当て、思案するノクスに、エリシアが問いかける。
『魔術の方はどうだ?回復の兆しはあるのか?』
ノクスは、ゆっくりと首を横に振った。
『……分かりません。ただ一つ言えるのは――たとえ私の魔術が万全でも、この傷を完全に癒すことはできない、ということです。』
その言葉に、エリシアは目を見開く。
『そうなのか⁉ 馬車で止血していた時は、治せると言っていただろう。』
ノクスは、わずかに目を伏せた。
『はい。あの時の傷であれば、確かに癒すことはできたでしょう。ですが――。』
言い淀み、フィンの腹部へと視線を落とす。
『今の状態は……明らかに違います。』
その言葉に、エリシアの胸に嫌な予感が広がる。
―あの時の傷なら―
まるで、傷そのものが変質しているかのような言い方だった。
『……はっきり言ってくれ。フィンの傷は、今どうなっているのだ?』
短く、しかし強い声。
ノクスはしばし沈黙したのち、覚悟を決めたように口を開いた。
『すいません。私にも確証はないのですが、これは恐らく……。』
一拍、間を置く。
『【呪い】ではないかと考えています。』
その言葉に、空気が凍りついた。
エリシアは息を呑み、言葉を失う。
『存在は知っていましたが……実際にこの目で見るのは初めてです。
事実、フィンさんの傷は、先ほど魔術で止血したにも関わらず、すでに血が滲み始めています。』
ノクスは静かに指し示す。
そこには、確かに、再び滲み出す赤。
『フィンさんも……最初から気づいていたのかもしれません。勘の良い人ですから……。』
そう言って、フィンの傷に手を当て、祈りを捧げる。
『……今は、止血を維持するのが精一杯です。長くは持ちません。』
その言葉を受け、エリシアは歯を食いしばる。
直後、はっとした表情になりノクスに尋ねる。
『この【真炎の指輪】をフィンの指に付けるのはどうだ?
グレイス姉さまは、この指輪には、魔術を抑え込む効果があると言っていた。』
すがるような問い。
しかし、ノクスはゆっくりと首を振った。
『可能性はあります……ですが、それは同時に、ルシアスに居場所を知られる危険を意味します。』
静かな声が、現実を突きつける。
『この状態で刺客を送られれば、ひとたまりもありません。それに……。』
一瞬、言葉を詰まらせる。
『エリシアさんに何かあれば、グレイス様の命も……』
エリシアは、唇を強く噛みしめた。
―無力―
その言葉が、胸に重くのしかかる。
『他に方法はないのか。このままでは、フィンが――』
焦りを隠せぬ声。
その時、ノクスが静かに人差し指を立てた。
『フィンさんを助ける方法なら、一つだけ心当たりがあります。』
ノクスが提案するフィンを助ける方法とは・・・
パート4へ続く。




