第三章 【神の子】1.ノクスの決意 パート1
第三章 【神の子】
1.ノクスの決意
2.本当の心
3.決断
馬車は夜通し走り続け、朝を超え気が付けば日は高くなっていた。
車内では、疲れ果てた三人が、未だに静かな寝息を立てている。
やがて、小窓が開き、外から声がかかった。
『そろそろ起きて準備をしてくれ。この馬車はこれから国境を越える。』
その一言で、三人ははっと目を覚ました。
馬車が向かっていたのは、王都から最も近い国境の関所だった。
『おはようございます、コムニスさん。国境を越えるのですか……関所はどうするのですか?』
まだ寝起きのまま、ぼんやりとした口調でノクスが尋ねる。
『そこは問題ない。この馬車には姫様の紋章が彫られている。王族の馬車なら素通りできる―便利なもんだ。』
相変わらず軽い調子で答えるコムニス。
『ただし、国を出れば話は別だ。ある程度進んだところで、君たちには降りてもらう。地図は用意してある。あとは自分たちの足で進んでくれ。』
そう言って、小窓から地図を差し入れた。
そのまま視線をフィンへと向ける。
『傷は大丈夫か?』
その視線に、自分の腹を見て、軽く叩きながら答えるフィン。
『ああ、大丈夫だ。ノクスに止血してもらったからな。』
しかし、ノクスはすぐに口を挟んだ。
『止血しただけです。傷そのものは治っていません。それに……私も魔術を使いすぎました。反動で、しばらくはまともに治癒術が使えません。無理は禁物ですよ。』
フィンは肩をすくめると、地図を広げた。
『分かってるって。無茶はしねえよ。それより、これからどうする?』
腕を組み、地図を見つめる。
その横からエリシアが覗き込み、ふと眉をひそめた。
『・・・この赤い印は、何だ?』
地図のあちこちに、赤い丸印が打たれている。
その下には、小さく人名が記されていた。
エリシアの表情が、わずかに揺れる。
『これは・・・私の部下だった将校たちの名だ。』
小さく呟く。
その言葉に、コムニスが背を向けたまま答えた。
『その通りです。姫様はこうなることを見越して、この地図を残しておかれたのでしょうな。』
―姉さま・・・―
胸の奥に、様々な感情が押し寄せる。
後悔。焦り。希望。信頼。尊敬。そして―怒り。
グレイスに対しても。
そして、ルシアスに対しても。
エリシアは、そっと地図を抱きしめた。
『・・・これは、グレイス姉さまが私に託してくれた希望の地図だ。どんな宝よりも価値がある。』
その瞳から、静かに涙がこぼれ落ちる。
『お前の姉貴・・・すげえ人なんだな。』
フィンがぽつりと呟く。
エリシアは何度も頷いた。
『ああ。姉さまこそが、この国を導くべき御方だ。私は・・・その手助けがしたい。』
涙を拭い、まっすぐ前を見据える。
『私が生きている限り、姉上の命は守られる。どんな困難も乗り越え、必ず生きて帰る―そして姉上を救い出す。だから、私は死ねない。』
その決意に、フィンとノクスは力強く頷いた。
『いいじゃねえか。その意気だ。生きて戻って、ルシアスの野郎に一泡吹かせてやろうぜ。』
『ええ。必ず生きて戻り、グレイス様を救い出しましょう。微力ながらお手伝いします。』
三人の決意を乗せた馬車は、いつの間にか国境を越えていた。
止まることなく、ただ前へ―走り続けていた。
更なる決意を胸に進む三人に何が待っているのか・・・。
パート2へ続く。




