第二章 【神聖帝国】4. 王都脱出 パート9
三人の前に姿を現したルシアス・・・
三人は神殿を無事に出る事はできるのか・・・
暗闇に浮かび上がる祭壇に佇む男は、こちらに向かって拍手を送っている。
まるで、ひとつの劇を見終えた観客のような拍手だ。
『アイツがルシアスか・・・。』
フィンが、先ほどの戦闘で裂かれた腹を押さえながら呟く。
指の隙間から滲む血が、その傷の深さを物語っていた。
それを見たエリシアは、顔を歪めながら叫ぶ。
『これは・・・いったい、どういう事なのですか!』
その声に、ルシアスは楽しげに応じた。
『私からの贈り物はどうだったかな?楽しんでもらえただろうか。・・・私も見ていてハラハラしたよ。やはり、肉眼で直接見るのは迫力が違うな。刺客には私の【目】貸してやったのだが、その臨場感たるや。』
まるで舞台の感想でも語るように、弾んだ声で言う。
その様子に、三人は言葉を失った。
『仲間を傷つけられ、私も命を落としかけました・・・それを楽しむ?ありえない!』
怒りに震える声で、エリシアが睨みつける。
その視線を受け、ルシアスは笑みを消した。
『エリシアよ・・・本当にすまない。』
静かな声だった。
『実は、予定にない事が起こってしまってね。そこの彼には、本当に申し訳ないことをした。』
そう言って、腹を押さえるフィンを指し示す。
『本来なら、彼にはここで退場してもらう予定だった。腹を裂かれ、苦しみながら死んでいく―その姿を見て、怒りに燃える君たちが刺客を打ち破る・・・そんな展開を想定していたのだが。』
一拍、間を置く。
『どうやら、私は彼の一番の見せ場を奪ってしまったらしい。』
真面目な口調で言い終えると、少し考え込む。
『くくっ、思い描いた通りにはいかないものだ。』
少し苦笑すると、次に真顔になりブツブツと呟く。
『しかし・・・いや・・・この私が?・・・ありえない。』
独り言のように呟くその姿に、フィンは眉をひそめた。
―苛立ってやがるのか?―
まるで、思い通りにならず機嫌を損ねた子供のようだ。
『思い通りにいかなくて悪かったな。俺はしぶといんだ。この程度じゃ死なねーよ!残念だったな。』
フィンが吐き捨てる。
ルシアスは顎に手を当て、しばし考え―やがて口を開いた。
『【神の生まれ変わり】に【神の子】・・・そして【ただの人の子】か・・・。』
その視線が、フィンを射抜く。
『やはり不釣り合いだな、君は。この物語には【そぐわない者】だ。』
その目は、氷のように冷たかった。
『まるで神のような振る舞い・・・冒涜の極みです。許しがたい』
ノクスもまた、鋭い眼差しで言い放つ。
ルシアスは微笑んだ。
『神か・・・。』
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『神になるのも面白い。新たな神話を、この手で一から作り上げる・・・。』
そして、三人を見渡す。
『神には魔が必要だ。それも強大な魔が!』
わずかに口元が歪む。
『そうだ!お前たちがなってくれ。今はまだ小さな灯でいい。だがいずれ、大きな炎となって私の前に帰って来い。それを打ち破る事で、この神話は完成し語り継がれることになるのだ。』
そう告げると、マントを翻し、闇へと溶けていく。
気配が消える、その刹那―
『グレイスは、その時まで生かしておこう。期待しているぞ、諸君。』
声だけが、礼拝堂に残った。
―助かった―
三人は、その場に崩れ落ちる。
だが、安堵している暇はない。
立ち上がり、正面扉を押し開けると、階段を駆け下りた。
その先に見えたのは、数台の馬車。
―どれだ?―
迷う間もなく、一台の馬車が動き出す。
―あれだ!―
確信にも似た直感で、三人は駆け出した。
飛び乗り、扉を閉めた瞬間―
前方の小窓が開く。
『ずいぶん遅かったな。一人で逃げちまうところだったぞ。』
軽口を叩く男の顔に、三人は見覚えがあった。
【できる男コムニス】
その何の特徴のない顔に、ようやく安堵が広がる。
『このまま王都を出て南西へ向かう。ある程度離れたところで下ろす。
―心の赴くまま進みなさい―
これが姫様からの伝言だ。』
エリシアは俯き、そしてゆっくりと顔を上げる。
『グレイス姉さま……待っていてください。』
強く、言い切る。
『エリシアは、必ず戻ります』
馬車は走り出す。
夜の闇を切り裂くように。
その先に待ち受ける、まだ見ぬ運命に向かって―
第二章 【神聖帝国】 完
第二章 完 になります。
第三章 では、またもや運命の荒波が三人に襲い掛かる事に・・・




