第二章 【神聖帝国】4. 王都脱出 パート8
刺客に襲われた三人、切り抜ける事はできるのか。
膝をつき、一心不乱に祈るノクス。
その両脇で、エリシアとフィンが暗闇からの襲撃に備える。
フィンは弓を背に回し、腰の小刀を抜き放った。
片刃で、わずかに反りのある独特な刃――それを逆手に構える。
刹那。
暗闇の上方から、正確無比な刃がエリシアへ振り下ろされた。
ギインッ!
火花が散る。
間一髪、フィンが割り込み、その一撃を受け止めていた。
―⁉―
至近距離で影を見たフィンの表情が歪む。
『こいつ仮面をつけてやがる・・・それでこの動きかよ・・・ありえない。』
低く吐き捨てる。
―視えている―
この暗闇の中、礼拝堂に並ぶ長椅子の上を足場にし、高所から正確に斬りかかってくる。
常識では考えられない動き。
だがフィンには覚えがあった。
―試練の崖の、大山羊と同じだ―
あのバケモノは、魔術に反応して襲いかかってきた。
ならば、今回も―
思考がまとまる前に、次の刃が振り下ろされる。
ガッ!
今度は結界がそれを受け止めた。
空中で一瞬止まった影へ、エリシアが踏み込む。
剣を突き立てる―が、手応えはない。
『このままではマズいな・・・策はあるか? すまんが、私には奴を捉えられん。』
焦りを滲ませ、背後のフィンに問いかける。
その時だった。
『準備ができました。床全面に術を展開しています。いつでもどーぞ。』
ノクスの静かな声。
―なんとか奴を床に引きずり下ろさなくては―
フィンは一瞬、目を閉じる。
―
―
―視えている―
―大山羊と同じ―
―何に反応している?―
―目印になる物・・・―
―まさか⁉―
ハッと目を見開く。
『エリシア! 腕輪を壊せ! それを奴は視ている!』
一瞬の逡巡。
その隙を、影は逃さない。
バリッ!
結界が砕け、刃が迫る。
ギャリッ!
フィンが一撃を弾く。
だが、続く斬撃を完全には避けきれず、浅く血が走り、床に膝を付きながら小刀を振るう。
それを避け、また暗闇に消えて行く影。
その光景を見た瞬間―エリシアの迷いが消えた。
腕輪を床へ放り投げ、躊躇なく剣を突き立てる。
バキンッ!
砕けた腕輪から、黒い霧が噴き上がる。
その瞬間―影の動きが、止まった。
ほんの一瞬、だが確かに。
―今だ!―
すでに弓を構えていたフィンが、迷いなく矢を放つ。
矢は一直線に闇を裂き、影の足を射抜いた。
『グッ・・・』
低い呻き。
『そこか!』
エリシアが駆ける。
声を頼りに間合いへ入り、剣を振り抜く。
バリッ!
ドサッ!
硬質な破砕音と、何かが崩れ落ちる音。
『ノクス! 今だ!』
『はい!』
床から黒い触手が伸び、影へと絡みつく。
完全に拘束されたその頭部へエリシアの一撃が叩き込まれた。
ガツッ!
仮面が砕ける。
影は、そのまま力なく崩れ落ちた。
―終わった・・・―
三人の緊張が、わずかに緩む。
その時だった。
パチ・・・
パチ・・・
パチ・・・
乾いた拍手が、静寂を裂く。
三人が振り返る。
薄明るい祭壇の前・・・
闇の中から、一人の男が姿を現していた。
『⁉ルシアス兄さま・・・。』
そこには、微笑みながら拍手を送る、ルシアスの姿があった。
突如、姿を見せたルシアス・・・何を語るのか?
パート9へ続く。




