第二章 【神聖帝国】4. 王都脱出 パート7
神殿の出口に向かって歩く三人・・・すんなり出られるのか・・・
神殿の中は徐々に騒がしさを増し、使用人たちが、何事かと各部屋から顔をのぞかせている。
三人は無言のまま、その喧騒の中を進んだ。
途中、すれ違う兵士が礼をするため立ち止まるたび、心臓が激しく打つのを感じる。
―生きた心地がしない―
先ほど走り去った兵士も、エリシアを捕らえるために派遣されたに違いない。
これほどの兵を動かすとは、一体どんな容疑がかけられているというのか・・・。
兵の切れ間を狙い、フィンが小さく呟いた。
『おいおい、エリシア・・・お前、何やったんだよ。』
エリシアは前を歩くフィンのかかとを軽く蹴り上げ、小声で返す。
『何もしていない。何をしたのか聞きたいのは、私の方だ。』
そのやり取りを聞いていた最後尾のノクスが、静かに口を開いた。
『お二人とも、落ち着いてください。今はとにかく、出口にたどり着くことだけを考えましょう。』
ノクスに促され、二人は再び前を向く。
残る道のりは、礼拝堂を抜け、外へ通じる階段を下るのみだった。
礼拝堂には兵士の立ち入りは禁じられている。
―ここまで来れば―
そう思いながら、フィンが扉の取っ手に手をかけた、その瞬間だった。
―ゾワッー
全身の毛が逆立つ。
『・・・何かいる。この感覚・・・覚えがある。』
呟くや否や、フィンはマントを脱ぎ捨て、弓を取り出し、素早く矢をつがえた。
それを見たエリシアとノクスが、小声で問いかける。
『どうした、フィン!敵か?』
『気配に覚えが?』
フィンは声を出さず、ゆっくりと頷いた。
目を閉じ、気配を探る。
エリシアは剣を抜き放ち、ノクスは三人を囲うように結界を展開する。
それぞれが、扉の向こうに潜む【何か】に備えた。
『一つ・・・気配は一つだ。この気配・・・あの時の【影】で間違いない。』
その気配の主は紛れもなく、あの宿屋で襲ってきた【影】の気配だった。
ノクスがわずかに驚きを滲ませながら言う。
『出口に着くまで、私のそばを離れないでください。結界で守ります。背中合わせになり、それぞれ前方を警戒して進みましょう。』
エリシアは頷き、短く応じた。
『よし、背中は任せた。頼むぞ、二人とも。』
その言葉を合図に、三人は礼拝堂の扉を開けた。
◇
礼拝堂の中は薄暗く、祭壇に灯された蝋燭の明かりが、ぼんやりと空間を照らしている。
三人は背中合わせのまま、闇の中を慎重に進んだ。
やがて、中央付近に差しかかった、その時――
フィンの肌に、ピリピリとした不快な感触が走る。
額の汗を拭おうと、片手を上げた瞬間――
ヒュッ!
銀色の閃光が闇を裂いた。
―しまった!―
思考よりも速く、刃は黒い膜に弾かれる。
弾かれた直後、影は再び刃を振り下ろした。
『このままでは結界が削られ、消滅します!』
ノクスの叫びに、エリシアが即座に反応する。
剣閃一閃――
しかし、その刃は空を切った。
避けた影へ、すかさずフィンが矢を放つ。
だが、手応えはない。
三人は再び背中を合わせ、次の攻撃に備えた。
『なんて速さだ・・・。普通の攻撃では当たらんぞ。どうする?』
『このままでは、結界が持ちません・・・。』
『一瞬でも、動きを止められれば――!』
フィンの目が鋭く細まる。
何かを思いついたように、ノクスへ視線を向けた。
『ノクス、聞きたい。こんなことはできるか?』
フィンは素早く耳打ちする。
それを聞いたノクスは静かに頷き、膝をついた。
両手を床に当て、祈りを捧げる。
『発動は一度きりです。準備が整い次第、合図します。』
フィンはエリシアに向き直る。
『合図があるまで、ノクスを守るぞ!』
その言葉にエリシアが答える。
『⁉なんだかわからんが了解だ!』
フィンの策とは?パート8に続く。




