第二章 【神聖帝国】4. 王都脱出 パート6
神殿脱出をコムニスに任せたグレイス。
三人はどうやって抜け出すのか?その策とは?
『では、これより神殿を出るまでの手順を説明する。』
コムニスは三人に向き直ると、どこからか取り出した見取り図を広げ、説明を始めた。
『エリシア様はフードを深く被り、顔を見せないように。そのローブにはグレイス様の紋章が刺繍されている。顔さえ隠していれば、まず疑われることはない。
あとの二人は、従者として同行してもらう。』
そう言って、フィンとノクスに従者用のマントと帽子を手渡す。
『マントで身を隠し、帽子を深く被っていれば、こちらも問題ない。』
続いて見取り図に指を置く。
『現在地がここ……出口はここだ。行きとは違い、帰りは正面から出てもらう。
外には馬車を用意してある。それに乗り、グレイス様として神殿を出る。以上だ。質問は?』
言い終えると、三人の顔を順に見渡す。
『簡単に聞こえますが、三人で神殿を歩いていたら目立つのでは?』
ノクスが静かに問いかける。
『通常ならな。だが今回は、兵士が神殿へ突入する直後の混乱を利用する。』
その言葉に、フィンが大きく頷く。
『なるほど。相手の動きを逆手に取るわけか。』
コムニスは人差し指を立てた。
『その通り。兵士たちは【エリシア様捕縛】の命は受けているだろうが、【グレイス様捕縛】の命は受けていないはずだ。
それにグレイス様は王位継承権を持つ王族。軽々しく疑いを向けることはできない。』
説明を終えると、見取り図をしまいながらフィンに長細い箱を手渡す。
『預かっていたものだ。……受け取る際に気付いたが、その短剣は【小刀】だな。しかも相当な業物と見える。
君は【東の国】の出身か?』
フィンは首を傾げた。
『さあな。父さんから譲り受けたもので、俺自身は【東の国】には一度しか行ったことがない。
……小刀って言うのか、これ。初めて知ったよ。』
わずかに残念そうな表情を浮かべたコムニスだったが、すぐに気を取り直す。
『そうか……俺のルーツが東の国にあるらしくてな。少し気になっただけだ。
では、俺は先に馬車へ向かう。退路を確保しつつ、いつでも出発できるようにしておこう。』
グレイスに一礼する。
『外が騒がしくなり始めたら、先ほどの手順通りに動いてくれ。何事にも動じず、堂々と。』
そう言い残し、音もなく部屋を出ていった。
コムニスを見送ると、フィンとノクスは従者用のマントと帽子を身に着ける。
エリシアはグレイスへ、不安げな視線を向けた。
『姉上……やはり心配です。もし姉上に何かあれば、私は……これまでの非礼を詫びることすら出来なくなってしまう。』
敵だと思っていた姉に守られていたと知り、エリシアの胸には後悔と自責が渦巻いていた。
―このまま捕らえられ、命を落とすようなことになれば―
その思いを察したのか、グレイスは穏やかに微笑む。
『自分を責める必要はありません。貴方に恨まれるようなやり方しか出来なかったのは、私の方です。
それに……簡単に命を取られるつもりもありませんよ。』
一歩近づき、優しく続ける。
『次に会った時、聞かせてください。旅のこと、そこで出会った人々のことを。
私は、それを楽しみに待っています。』
その言葉が終わるのと同時に、外がざわめき始める。
『・・・来たな。行こう、エリシア。』
フィンが低く告げる。
帽子を深く被り直すフィンとノクス。
エリシアもフードを引き下ろし、グレイスを真っ直ぐ見つめた。
『姉上、待っていてください。エリシアは必ず戻ります。』
三人は、静かに部屋を後にした。
その背を見送り、グレイスは小さく手を振る。
やがて扉が閉まると、ぽつりと呟いた。
『さて……こちらはこちらで、どう動きましょうか。』
軽くドレスの裾を摘み、苦笑する。
『この歳で、この装いは……少々派手すぎますね。』
ローブを羽織り、フードを被ると、三人とは反対の方向へ、迷いなく歩き出した。
部屋を後にした三人・・・
予定通り、混乱に乗じて抜け出す事はできるのか?




