第二章 【神聖帝国】3. 王都脱出 パート3
ルシアスの異常さを語るグレイス・・・
さらにまだ伝えなくてはならない事があるようだが・・・
理解しようとしても、理解できないもの。
解り合おうとしても、決して解り合えないもの。
―バケモノ―
人は、己が理解できぬものを、いつの時代もそう呼んできた。
―
―
―
『もう一つ、ルシアスについて伝えておかねばならぬことがあります』
そう言ってグレイスは懐から指輪を取り出し、静かにエリシアへ差し出した。
『この指輪が、ルシアスの【目】から貴方を守ってくれます』
それは旅の途中で手放した、かつてグレイスから贈られた指輪だった。
エリシアはそれを受け取り、わずかに眉をひそめる。
『どういうことなのですか、姉上。【目】とは、いったい……』
グレイスは一度目を閉じ、ゆっくりと言葉を選ぶ。
『ルシアスは、特別な【目】を持っています。それは人知を超えた力。貴方たちにも、覚えがあるのではありませんか?』
その言葉に、三人の表情が変わった。
『まさか……俺たちを【視ていた】のか?だから、俺たちしか知らないことを・・・。』
フィンの言葉を引き継ぐように、ノクスが低く呟く。
『・・・確かに、それならば、すべて説明がつきます』
そんな二人を見ながらエリシアが疑問を口にする。
『そんなことが可能なのか?ノクスは不可能だと言っていたが・・・。』
エリシアの問いに、グレイスは静かに首を振る。
『本来ならば、不可能です。遠くを視るなど・・・魔術であろうとも、人の身では耐えきれない。普通なら、術の反動で命を落とすでしょう。』
一拍の沈黙。
そして、続ける。
『ですが、あの人には、それができるのです。さらに、これは私の推測になりますが・・・。』
グレイスの声音が、わずかに低くなる。
『あの人には、人が【光】に見えているのです。輝きの強い者ほど、より鮮やかに。光に惹かれるように、それを覗く・・・そして、【より強く輝く瞬間】を求めている・・・。』
ふう・・・と息を吐き、呼吸を整えてから続ける。
『以前、ルシアスにこう言われたことがあります』
グレイスは、遠い記憶をなぞるように呟く。
―戦場は美しいと思わないか?
儚い光同士がぶつかり合い、散っていく姿・・・
そして散り際にこそ、その輝きは最も強くなるのだ―
『あの時は理解できませんでした。ですが、ルミオン兄さまが亡くなってから数年・・・あの人を観察し続けて、ようやく辿り着いた結論です。』
そう言って、グレイスは指輪を指し示す。
『その指輪を身に着けていれば、ルシアスの【目】は届きにくくなるでしょう。
それは王家に代々伝わる宝具【真炎の指輪】と言い、魔を退ける力があると言われています。
ですが、ただの伝承ではありません。私が試した結果、この指輪には魔術を抑え込む力があります。
【あの人】に対抗できる、数少ない手段なのです。』
パート4に続く。




