第二章 【神聖帝国】4. 王都脱出 パート2
突然、部屋に入ってきた人物とは?敵か?味方か?
扉から入ってきた人物は、声からして女性のようだ。
エリシアだけが、どうやらその正体に気が付いているようだった。
『姉上⁉どうしてあなたがここに・・・。』
そう言うと、後ずさりしながら壁に立てかけた剣を片手で探す。
その姿を見たグレイスは扉を閉めてから口を開く。
『心配には及びませんエリシア。とりあえず明かりを。』
グレイスがそう告げると、不思議な事に部屋中の蝋燭に火が灯り、辺りが一気に明るくなる。
その光景に圧倒される三人。
ふと、蝋燭の灯った燭台の前に目を向けると、そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。
『コムニスさん⁉』
ノクスが驚きの声を上げると、それに答えるかのように男は片手をあげる。
『やあ、君たちならたどり着けるって信じていたよ。サポートはさせてもらったけどね。途中でルシアスに出会ったのは、さすがに肝が冷えた・・・。』
コムニスは、息を吐きながら汗を拭う真似をする。
その姿を見たフィンが口を開く。
『あれは全部あんたの仕業だったのか。』
コムニスは、頭を掻きながら答える。
『まあね、そこの雇い主から命令されてさ。準備期間が長かったから、危うく掃除が本職になってしまうところだったよ。あぶないあぶない』
そう言いながら、自分の雇い主を親指で指す。
『そう言うなコムニス、これもこの国の為、よく働いてくれた。礼を言う。』
グレイスが頭を下げ終わり、顔を上げるとフィンとノクスはさらに驚く。
『『レイラさん⁉』』
声がキレイにハモった。
エリシアは、その光景に付いていけず、ただただ戸惑っていた。
『どういう事だ?なぜお前たちが姉上を知っているのだ?私は・・・私は・・・。』
戸惑い、混乱するエリシア。
それは無理もない事だった。
今まで信じていたものが崩れ、自分の命を狙っていると思っていた者が、自分の信頼する仲間と知り合いだったのだ。
うろたえるエリシアをグレイスが一喝する。
『しっかりしなさいエリシア!あなたはやらねばならぬ事があります。その為に、あなたは生き延びねばなりません。こんな事でうろたえてどうするのです。』
グレイスに一喝され、雷が落ちたかのような錯覚を覚え、前を見るエリシア。
『そうです。貴方は前を向いているのがよく似合います。』
そう言ったグレイスの顔は少し嬉しそうに見えた。
そんなグレイスの表情に戸惑いながらも、エリシアはグレイスに問いかける。
『姉上、どういうことですか?【生き延びなければならない】とは?姉上は私の命を狙っていたのではないのですか?エリシアは分らない事だらけです。』
その口調は、妹が姉に質問するときのそれだった。
グレイスは静かに目を伏せ、一拍おくと語りだす。
『私は今まで、貴方を王宮からなるべく遠ざけようとしてきました。時には厳しく、時には冷たく突き放し・・・軍への入隊を進めたのも私です。軍に入れば、ルシアスの手から貴方を守れると思っていました。貴方に恨まれている事も感じていましたが後悔はありません。』
―ルシアスから守る?―
この言葉に反応するフィン。
『やっぱ、あいつは何かあるんだな?悪い奴って事か?』
しかし、静かに首を振るグレイス。
その仕草に、首を傾げるノクス。
『悪い人ではない・・・そういう事ですか?ならば、なぜエリシアさんを遠ざける必要があったのですか?』
当然の疑問だった。
困惑の表情を浮かべる三人に、グレイスは答える。
『困惑するのも当然です。私とて未だに信じられないところもありますから・・・』
そう言って静かに口を開く。
『善か悪、そんな単純ではないのです。いや、もしかすると、もっと単純なのかもしれませんが・・・
ルシアスには【善悪の境】がないのです。
ですから、あの人は悪意を持って人を貶めたり、逆に善意を持って人を助けたりする事はありません。
全ては好奇心からくる興味・・・
―この後どうなるのか、続きを見てみたい―
この衝動を抑えれないのです。
民に優しくするのも、貴方に優しく接するのも、動悸は全て【その方が面白いから】なのです。
あの人にとって、我々は物語の登場人物なのでしょう・・・物語に飽きれば次を探し、主人公に仕立て上げ物語を楽しむ。
これを繰り返しているのです。
・・・ルミオン兄さまの様に貴方をするわけにはいかなかったのですが、止めれなかった。』
―ルミオン―
獅子王子と呼ばれた神聖帝国第二王子・・・
その姿はまるで、暴れる獅子のようだと戦場で噂が立つほどだった。
王位継承に興味はなく、ルシアスの右腕を自認し生涯武人としてルシアスを支えると言っていた男だった。
しかし、今から五年前・・・二十歳の若さで、その命を戦場で散らしている。
『まさか、ルミオン兄さまの死に、ルシアス兄さまが関わっていると?』
驚くエリシアを見ながら、グレイスは続ける。
『はい、あとから調べると不審な点がいくつもありました。
調べて分かった事ですが、激戦地に送り込み徐々に補給を断ち、孤立させるよう仕向けたようです。
それでもあの時、ルシアスは言っていました。
―あいつなら帰ってくる。私は信じている―
・・・と。
ですが、ルミオン兄さまは帰ってこなかった。
そして葬儀の後、私は聞いてしまったのです。』
グレイスは、そこで一度言葉を切った。
そして、感情の見えない声で続ける。
―さて・・・次の物語は、いったいどんな事が起こるのだろうか―
その言葉を聞いた瞬間、部屋の空気が凍り付いたような感覚に襲われ、三人は肌に絡みつくような、得体の知れない恐怖を感じていた。
グレイスの口から語られたルシアスの本当の姿・・・
この後、エリシアはどうするのか?
パート3へ続く




