お茶会前日1
「どうして兄上がここにいるんですか?」
バジナの元を訪れるとケンネルが当然のごとく、椅子に座って出迎えてアレシュは眉をひそめてしまった。
「酷いなあ。我が弟よ。君の帰りを待ってたいんだよ。早めに話した方がいいと思って」
「なんなんですか?」
傷ついた演技をする兄を胡散臭いと思いながら、彼は聞き返す。
そんな二人の様子をバジナは面白そうに見ていた。
「明日、エリシュカ・ツルカ嬢の屋敷へ招待されている。君と私、二人だ」
「え?なぜですか?」
「お礼ということだ」
「そんなの必要ないですよ。大体先輩がまだ治っていないときに。こういうのは先輩が回復してから、の話じゃないですか」
「確かにアレシュ、正論だな」
「珍しく我が弟が正しいことをいう」
「兄上、失礼だと思いませんか?」
「全然。まあ、おかしいながらも、私たちは招待を受けた。明日、敵地に乗り込む」
「敵、地?」
「気が付いてなかったのか?」
「おいおい。アレシュ。お前鈍感すぎだぞ。明らかにおかしいだろう。この件」
二人に畳みかけられて、アレシュは恥ずかしく思う。
けれども、本当に彼はエリシュカを疑ったことがなかった。
「まあ、それが我が弟のいいところだ」
「そうだな。兄にない純粋さを持っている」
いい年しているのに、純粋などと例えられてアレシュは落ち込んでしまいそうだった。
「アレシュ。俺は褒めてるんだぞ。そういうところも大事だからな。騎士として。腹黒いのはこういう文官に任せておけ」
「こういうとは失礼ですね」
「本当だろう」
「まあ、いいです。そういうことで、アレシュ、明日は休みなさい。私と共にツルカ家に向かう」
「ですが。明日は約束が」
「ラダちゃん?」
「違います!手がかりをつかんできたんです。デール酒場で店主があの二人と話をしている者を見たということで、明日ヨゼフさんを連れて似顔絵を描いてもらうことに」
「ヨゼフか……。それは俺がやっておく。それか他の者に任せるさ。お前は安心してツルカ家に行ってこい」
バジナに気合を入れられるが、アレシュはまったく気が進まない。
その上、あのエリシュカの妖婦のような姿を思い出して、吐き気を催して口を押えた。
「アレシュ?どうしたんだ?」
「いいえ、何も」
バジナに問われるが、さすがに令嬢の姿を思い出して気分が悪くなったなど言えるわけがもなく、アレシュは首を横に振った。
☆
「ホンザさん。このことをケンネル様へ。恐らくすでに存じているとは思いますが……」
「イオラ様」
イオラは密かにホンザと街で会い、人目を気にしながら得た情報を伝えていた。
「まさか……陛下が」
「怖いですか?」
「いえ。あなたがあなたでいてくれて本当によかった」
「……ゾルターンと今の私は違います。ゾルターンもあの時目を覚ましていれば……」
「イオラ様。前世は昔です」
「そうですね。父は相変わらずでしたけど」
父を裏切ることで青ざめていた顔をしていたイオラだが、そういう冗談を口にできるほど余裕ができていた。それもホンザのおかげと目の前のくすんだ金髪の優しい男の顔を眺める。
「イオラ様?」
「なんでもありません」
少し見惚れそうになっていた自分が恥ずかしくて、イオラは顔を背けたが、そんな彼女の額に唇を押し付けられた。
「ほ、ホンザさん!」
「す、すみません!」
反射的な行動だったのだろう、ホンザの方も頬を赤らめている。
「いいですよ。ホンザさんなら」
「イオラ様……。それ殺し文句です」
顔を押さえ今度は明後日の方向を見ながらホンザが唸った。




