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工作


「この顔……。確かに見たことがあったよ」


 アレシュはラダの店から出て彼は城には戻らなかった。

 似顔絵を持って、街で昨晩の賊の手がかりを探していた。これはバジナにも勧められたことで、まずは酒場から当たってみた。

 酒場に行くとニヤニヤと薄気味悪い表情を浮かべられたり、いい気分でなかった。

 騎士の制服を着ているので喧嘩を吹っ掛けて者はいなかったが、視線は気になる。睨み返すと口笛を吹くものなどもいて、苛立ちを押さえるのが大変だった。

 四件目の酒屋で、彼はやっと手がかりを得た。


「何時だったか?二人だけったのか?」

「一週間前くらいだったかね。この二人と、あと一人、何やら細い人が一緒にいたね。面白い組み合わせだったので、覚えていたよ。ならず者に脅されているかと思ったら、どうやら細いほうがボスみたいでね」

「話している内容はわかるか?」

「いいや、それはわかんないな」


 店主はそう言って、頭を搔いた。

 

(そのボスみたいな細い男の似顔絵を作ってもらうかな)


「その細い男の顔を覚えているか?」

「ああ。ぼんやりだけど。一週間前だし、常連じゃないからね。あれは貴族様だね。白くて……。あ、騎士様も貴族様か」


 店主は失言したとばかり苦い顔をして、アレシュは手を振る。


「気にするな。そう思われても仕方がない」


 平民からして貴族は楽をしていると思われがちだ。

 中に屋敷で娯楽にふけっている者などもいるため、アレシュは男の気持ちがわからないでもなかった。


「明日似顔絵を描ける者を連れてくる。その男の人相を教えてくれ」

「わかりました」


 店主が頷き、アレシュは店を出る。それから周辺の店に聞き込んだが、見たかもしれないという曖昧な証言しか取れず、彼は城に戻った。





「大物を釣るには小物を泳がせるか」

「そうですよ。まあ釣りなんて興味ありませんが」


 アレシュがお昼と聞き込みでいない間に、ケンネルがバジナに接触をしていた。


「ヨゼフは恐らくエリシュカの手下でしょう。彼には自由な時間が多く、不審な点も多い。あなたたちが接触したとなれば、次は」

「消されるか」

「はい」


 中庭で絵を描くヨゼフを物陰からバジナが見ており、ケンネルがその隣で影に溶け込むようにして話しかける。


「本当、お前は不思議な奴だな。文官の癖に気配を消すのが上手い」

「そうですか?でも腕はからっきしなので、当てにしないでくださいね」

「本当かよ」

「本当です」


 バジナは胡散臭いと思いつつも、注意をそらさないようにヨゼフから視線を離さないようにしていた。


「お、誰か来たぞ。出番か!」


 ヨゼフの背後に人が近づいていた。

 よく見るとそれは第三小隊の者で、昨日門番警備を担当していた小隊の一人だ。


「なんで、小物かよ」

「まあ、いきなり大物は釣れないでしょう。餌も餌ですし」

「酷いこと言うな」

「さて、バジナ。出番ですよ。ヨゼフを救い出しにいきましょう」

「はいはい」

 

 やる気がなさそうに返事をしたが、バジナの顔つきは真剣なものに変わる。第三小隊の一騎士とはいえ、油断していると返り討ちにあう。もしかしたら他にも伏兵がいる可能性もあった。


「ヨゼフ。話がある。来るんだ」

「私はどこにもいかない」


 日中の昼間の中庭で殺傷事件を起こす気はないようで、男はヨゼフに話しかけ、どこかへ誘い出そうとしていた。ヨゼフは何が起きるか予想したようで、抵抗を見せた。


「仲間割れか?」

「バジナ小隊長、それにベルカ宰相補佐官」


 男は動揺して掴んでいたヨゼフの腕を離す。


「さて、話を聞かせてもらおうか。なぜヨゼフを連れて行こうとする?」



 ☆


「お父様。明日はこのお茶をお二人に出しましょうね」

「エリシュカ。本当にいいのか?」

「当然ですわ。お父様」


 ツルカ家当主は、少し怯えた様子で娘に確認する。

 小さい時から娘に甘く、そのため我儘で、高慢に育ててしまったことを後悔したこともあった。一年前に田舎の別邸に預け、少しでも変わってくれたらと思っていたら、見事にさなぎから蝶に変わった。変わったのは容姿だけではなかった。

 人を誑すのが上手い人間になってしまい、特に男性は彼女の骨抜きになった。

 街に呼び戻してから外出も多くなり、心配した両親は咎めたことがあったが全く効果がなかった。そうして何度か衝突していると、ある日娘から贈り物をもらう。お詫びの印だと焚かれた香に最初はいい香りだと思っていたが、徐々に中毒性を帯びていき、今ではその香りを得るために、彼女のいう事を聞く人形のようになってしまった。


「明日はお二人にも楽しんでいただきましょう。たっぷりと」


 エリシュカは妖艶に微笑み、父はただ頷いた。



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