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微笑ましい二人


『よかったね。今日は王女様来れそうだよ』


 開店してからすぐに、風の精霊がそう知らせに来て、それからまたいなくなったようだ。

 またアレシュの様子を見に行ったのだろうと、ラダは後でお礼に精気をできるだけたくさんあげようと思った。

 前世まえの時も思ったのだが、精霊たちは過保護的なところもあるのだが、彼女の絶対的味方であり、願いを叶えてくれる。

 その対価が精気であり、彼女の命を脅かすものであるが、疲れるくらいであれば少しくらい分けても問題ないと考える様になっていた。


「ラダ、嬉しそうだね」

「あ、うん」


 アレシュがお昼に来るかもしれないという知らせは、本人が思うより嬉しかったようで、母に指摘されて少し照れてしまう。


「なんだい。今日はアレシュ様が来れそうなんだね。まあ、よかったね。昨日は大変みたいだったし。その、ヒューさんの弟さんは大丈夫なのかね」

「命には別条ないみたいだよ」


 そう母に答えながら、ラダは自分が浮かれすぎたことに気が付いた。

 アレシュに会えるのは嬉しいが、ヒューの弟で、アレシュの先輩が重傷なのだ。少し浮かれすぎだったと反省する。


「まあ、久々なんだ。今日はゆっくり話すんだよ。その間の接客は私がなんとかしておくよ」


 アレシュが来ると以前のように両親が用事を言いつけることなどなくなっていた。それでもお昼などで接客の合間に彼を話すことになる。それを考えての母の言葉で、ラダは感謝しながら頷いた。


『ラダ、来るぞ』

『来るヨ』


 正午よりも少し前に、火の精霊と水の精霊の声がしたので、ラダは店の入口まで走ってしまう。

 すると馬をすでに預けて、徒歩で歩いてくるアレシュの姿が目に入る。

 まるで待っていたかのように思われるのがちょっと恥ずかしくて、ラダは思わず店に引っ込んでしまった。すると彼は駆け足でやってきて、彼女の腕を掴んだ。


「ラダ。昨日はごめん。聞いてると思ってるけど、昨晩賊が出て」

「知ってます。エイドリアン様は大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫。だから俺はここに来てる。ヒューさんが傍にいるし、大丈夫だ」

「ヒューさんが?」


 そう聞き返すとアレシュの表情が微妙に悔しそうな顔になって、ラダは少し驚く。


「ごめん。ちょっと嫉妬したんだ。ヒューさんはラダが好きだっただろう?」

「えっと」

「ほらほら。そこに立っていたら邪魔だから、中にはいって。ラダ~~。アレシュ様を席に案内して注文とっておいで」

「はい。お母さん!」


 気が付くと、周りに人が集まっていて、ラダは慌ててアレシュを彼の定番の席――厨房近くの席に案内する。


「あの、アレシュ様。まずは注文を」

「ああ。じゃあ、今日は軽めで、香草入りのソーセージとパンで」

「かしこまりました。じゃあ、頼んできます」

「ありがとう」


 彼の笑顔に見惚れそうになりながら、彼女はどうにか父の元に注文を知らせに走った。




 いつも通り勝手に部屋を訪れたケンネルを、スラヴィナは出迎える。

 扉の前に立つ騎士ランディは、最近大人しくしており、ケンネルが来ても噛みつくような対応を見せることはなくなっていた。


「ケンネル。あなた忙しいのではないの?」


 侍女が入れたお茶を勧めながら、彼女は尋ねる。


「忙しいと言えば、忙しいのですけど。ご心配しているかと思いまして」

「ああ、アレシュのことね。昨日は大変だったわね。エイドリアンも意識を取り戻したようでよかったわ」

「既にご存じなのですね」

「ええ。イオラに教えてもらったわ」

「イオラ……。そう言えばイオラは今日から出勤でしたね。姿が見えないようなのですが」

「エリシュカ・ツルカだったかしら。彼女の屋敷へ私の名代で見舞いに行っているの。昨日は本当に災難だったわね。本当。まさか城内でそんなことが起きるなんて」

「エリシュカ嬢の元へ?」

「何かあるの?」


 顔色を変えたケンネルへスラヴィナは問い返す。


「いいえ、何も。そのうち会うはずなので。予定が早まったというところですか」

「ケンネル?何かが起きてるの?イオラも関係しているの?」

「まだはっきりしていないのです。何かが起これば、殿下にも報告いたします。ご心配ないように。イオラが殿下に危害を加えることなど絶対にありえませんから」

「勿論よ」


 スラヴィナは自信たっぷりに答えた。

 イオラとの付き合いは長い。

 姉のような彼女のことを、前世がサイハリの王太子ゾルターンだとわかった時も、スラヴィナは信用していた。



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