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執拗な取り調べ

 令嬢を襲った男たちの行方は依然と不明。

 エイドリアンの意識が戻らないということで状況がわからず、唯一何かを知っているはずのアレシュが拘束された。

 国防部の上部としては、身元不明のものを城に招き入れた失態をアレシュたち第一小隊に被せたいこともあったに違いない。取り調べはかなり陰湿で、水も与えらず、同じ質問をされた。

 ――あの者たちを知っているのか?

 ――どこで会った?

 令嬢の名前を覚えていて、アレシュはエリシュカが乱暴されそうになっているところに遭遇して、助けたと伝えた。男たちとは面識がない。

 何度も聞いてくるので、終いには怒鳴り返すこともあった。

  

 アレシュは名家の出身、第一小隊に所属するほどの腕に、その容姿。

 すべてに恵まれているため、妬む者も多い。

 取り調べを担当した役人もその手の者で、執拗に何度も聞いてきた。怒鳴り返すとわざと怯えた振りを見せて、神経を逆なでする言葉を吐く。

 神経がおかしくなりそうな状態で、彼を支えたのはラダの笑顔だ。

 唇が渇いて、声がかすれ始めた頃、ケンネルがバジナと共に現れ、アレシュは解放される。水を差しだされて勢いよく飲んでいると、二人はアレシュに申し訳ないと謝った。


「謝られる必要などありません。来てくださってありがとうございます」


 アレシュは二人に深々と礼を述べる。

 あのままずっと取り調べが続いていたら、彼は役人たちを殴りつけていたに違いにない。手を出せば、アレシュが不利になる。もしかしてそれが狙いだったかもしれないとも考えられるほど執拗な取り調べだった。


「バジナ小隊長。先輩の容態はどうなのですか?」

「命には別条はない。容態が落ち着いたら、屋敷へ戻る手配になっている」

「意識はあるのですか?」

「まだ、ないな。だがエイドリアンの実家にも連絡をいれて、俺も今日は奴の傍にいるつもりだ」

「ありがとうございます。他の先輩たちも動いているのですねよね?あいつらの顔を知っているのを俺だけですから、俺が捜索に付き合います」

「お前の助けはいらない。大体、そんな体で何ができるんだ?お前はしっかり休んで明日から働け。門を一度閉じた後、出入りする者に関しては厳しく顔と名前を確認させている。今のところ何もないってことは、城にまだいるか、もしくは身元がしっかりしている奴らが賊だってことだ」


 バジナは口元に歪んだ笑みを浮かべ、アレシュの肩を軽く叩く。


「アレシュ。お前の兄が賊に当てがあるんだ。その可能性を俺も探る。だから、お前とケンネルは大人しく家に帰れ。わかったな?」

「はい」

「素直な弟で助かるな」

「それは私に対して嫌味ですかね」


 二人のやり取りを傍観していたケンネルが肩を竦め、アレシュは兄と共に馬車が用意されている厩舎へ歩く。

 心も体も疲れていたが、アレシュは伏せているエイドリアンのことを思い、自身を鼓舞した。そうして歩いていると、今日のラダたちの打ち上げの事を思い出して、立ち止まった。


「アレシュ?ラダちゃんにも伝わってるはずだ。大丈夫だ」

「伝わってる?俺が拘束されたことと、その令嬢を助けたこととか」

「君が拘束されたことだけだよ。エイドリアンの実家の使者が伝えているだろう」


(そういうことか……)


 あまり働かない頭でアレシュは悟る。

 ヒューはエイドリアンの兄であり、実家からヒューに連絡が行くのは当然のことだ。その際にアレシュのことも伝える様に含んでいたのだろう。


「アレシュ。今は何も考えるな。家に帰ったら明日に備えてゆっくり休め。バジナもそう言っていただろう?」

「はい」


 厩舎まで来て馬車に乗り込む。

 アレシュは自身の状態に歯がゆく思いながらも、どんよりと押し寄せてくる疲れに身を任せ、眠りに落ちて行った。



 馬車で屋敷へ到着し、アレシュを部屋に送った後、ケンネルは父の部屋を訪れていた。


「父上。どうしても断れないのですか?」


 事情をすでに知っている父に、彼は単刀直入に聞く。


「ああ。断ると逆におかしいのだ。まあ、一度くらいいいじゃないか。出方を見るにも」

「エリシュカ・ツルカとは、あの令嬢ですよね?」

「ああ、あのアレシュにべたぼれだった、あの令嬢だ。一年前とはまったく別人のようになっていたな」

「はい」

  

 アレシュは知らないが、彼らはエリシュカがアレシュに興味を持っており、王女スラヴィナという存在がありながらも、招待状などを送ってきたことを知っている。ツルカ家の当主はそこまで愚かではないので、招待状は彼が送ったものではない。エリシュカが自身で招待状を作成して送ってきたのだ。

 何度も続くようなので、ツルカ家当主に伝えたところ、エリシュカは静養と称して田舎に引っ込まされたはずだった。

 それが戻ってきている。

 恐らくケンネルがスラヴィナの意中の相手であると劇場で明らかにしたことで、今やアレシュに特定の相手がいないと社交界で思われているせいだろう。



「城で騒動を起こした上、王直属の騎士が一人重傷だ。事が大きすぎる。あのエリシュカが動いているとは思えないのだが……」


 父は顎を触りながらぼやく。

 それを聞きながらケンネルは今日のエリシュカの様子を思い出していた。

 男に媚を売る態度、いけ好かない女性だった。

 しかも、媚びの裏にケンネルへの嫌悪がちらりと見える。他の者なら気が付かないだろうが、彼はそれに気が付いた。


「なかなか、侮れない相手だと思いますよ。もしかしたら……」


 ケンネルはある予測も立てていた。


「まあ、私の助けが必要ならいつでも言いなさい」

「そうします。父上」

「今回はすまんな。断るという選択はない」


 ケンネルがエリシュカを彼女の父の元へ送り、事情を話すと是非礼をさせてくれと言われ、家に招待された。

彼は曖昧に返事をしたのだが、エリシュカは懇願しており、その後にあの騒動だ。

 アレシュの国防部の取り調べからしておかしかった。そして今夜中に解放されたのは、エリシュカの嘆願もあったそうだ。それを踏まえて、彼女の屋敷からの招待を断るのは難しい。   


「アレシュをよろしく頼むな」

「わかってますよ」


 アレシュには甘い父に苦笑しつつ、ケンネルは答えた。


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