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精霊に願う事

「弟が?!」


 いい具合に酔っぱらっていたヒューだが、突然実家ホルキーから知らせが入り、酔いが一気に覚めた。彼はホルキー家の使用人と共に屋敷へ戻り、打ち上げの宴会もそこで中止になった。

 

「大丈夫かい?」


 劇団員、イオラとホンザを見送り、ラダは母と一緒に店の片付けをしていた。母も父も先に休みなさいと伝えたのだが、彼女は首を横に振った。

 ホリキ―家の使用人は、エイドリアンの負傷と共にアレシュが国防部に拘束されていることも伝えた。そのことでラダは心配で堪らなくなったのだ。

 一人でいると余計なことを考えてしまうと、気晴らしにもなるしと母の手伝いをする。


「じゃあ、ゆっくり休むんだよ。アレシュ様なら大丈夫さ。あのケンネル様がいるんだよ」

「そうだね。ケンネル様ならなんとかしてくれそう」


 片付けを終え、母の言葉に頷きラダは二階に上がった。体はたまらく疲れているのに全く眠くならない。


『ラダ。心配ないぞ。王女様は無事だ。マクシムの奴が家に連れて帰ったぞ』


 膝を抱えてベッドの上で座っていると、闇の精霊の声がして、彼女は影が伸びる。


「本当に?」

『ああ、本当じゃ』

「よかった……。エイドリアン様は大丈夫なの?」

『ああ、あっちも命は助かったようじゃ』

「よかった……」


 アレシュのことばかり考えていたが、重傷なのはヒューの弟エイドリアンであった。アレシュの無事がわかり、やっと余裕ができたラダはその知らせにほっとする。


『心配するのはまだ早いぞ。ラダ。これからアヤツが仕掛けて来るぞ。まったくシツコイ奴じゃ』

「アヤツ?誰なの?」

『アヤツじゃよ。サイハリの最後の王じゃ』

「あいつが!」


 気持ちが一気にあの時に引き戻される。

 サイハリ軍を壊滅させた段階で、ヤルミルはその命を落とした。なので、彼と直接対面したことはなかった。けれども、彼がウルシュアを望み、それを拒否したことで、両国は争いに突入した。

 すでに王妃や側室がいるにもかかわらず、強欲な王はウルシュアを望んだ。

 ヤルミルからしたら、汚らわしい存在だった。


『落ち着け、ヤルミル!』


 闇の精霊が思わず前世まえの名を呼ぶほど、ラダは気持ちをもっていかれていたようだった。


「ごめん。闇の精霊。ありがとう」

『アヤツはすでに王になることは諦めておる。自身がこの国の令嬢じゃしな』

「令嬢?女性に生まれ変わったの?」

『そうじゃ、だから余計に始末が悪いのじゃ。アヤツは王女様にまだ執着している。どんな手を使っても王女様を手に入れようとするじゃろう』

「もしかして、今日のことも?」

『そうじゃ』


 闇の精霊はラダの影をゆらゆらと動かし質問に答える。


(……そんなことさせない。絶対に)


「闇の精霊。僕の精気を対価に願う。あいつの……」


(……私は何を願おうとした?)


 ラダは自身の思考に驚き、口を押える。

 闇の精霊は声を発することはなかった。

 彼女は目を閉じ、息を吐く。

 そうして再び口を開いた。


「闇の精霊。私の精気を対価に願う。アレシュ様を守って」

『ラダ。それは大きすぎる願いじゃ』

「だけど」

『それを願うとワシはお主からすべての精気をもらうことになる。期間を決めるなら少しの精気ですむ』

「期間……」


 自身が命を失えば、再びアレシュに悲しい思いをさせてしまうかもしれない。また両親の顔もちらついた。闇の精霊の助言を受けて、ラダは考える。


「とりあえず一か月間、アレシュ様を守って」

『承知したぞ』


 ラダの影が伸びて、彼女の頬に触れた。

 一気に脱力感が襲ってきて、ベッドに体を預ける。


『休むのじゃ。お主の願いは叶える』

「ありがとう……」


 お礼を言うのが精いっぱいで、そのままラダは眠るというより気絶してしまった。


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