↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/100

色仕掛けと罠

「行かないでください。どうか」


 本日の業務を終え、アレシュがエイドリアン共に厩舎に行く途中、城内であり得ないことなのだが、ある令嬢が乱暴されそうになっている現場に遭遇した。令嬢を助け男も確保しようとしたのだが取り逃がし、エイドリアンが追い、アレシュも追おうとしたところで、涙交じりの声で令嬢に懇願された。

 振りむいた彼が見たのは哀れな恰好した令嬢で、慌てて羽織っていたマントを取ると女性に被せる。

 一瞬、引き裂かれたドレスからこぼれんばかりの大きな胸と裂かれたドレスの裾からその白い太ももが見え、目が釘付けになった自身を悔いた。

 前世まえは女性、しかも好きな女性もいる。それでも今の彼には刺激的すぎた。


「あの、父の元へ送っていただけないでしょうか?」


 アレシュのマントを手繰り寄せ、体を覆い、令嬢は上目遣いで彼に問う。

 ラダの顔がちらついたが、騎士としてこのような状態の女性を一人でするわけにはいかず、アレシュは了承するしかなかった。


「ありがとうございました」


 令嬢は彼に体を寄せる様にして隣を歩いている。

 乱暴を受けそうになった女性の行為ではないのだが、アレシュは気が付かなかった。


「もう少しゆっくり」


 早くエイドリアンの加勢に行かなければと思って、早足になっていたようで、腕を引かれ囁かれる。

 その行為に寒気しか覚えず彼は思わず女性から距離を置いた。すると責めるように上目遣いで睨まれる。


「アレシュ?どうしてこんなところに?この令嬢は?」


 偶然なのか、どうなのか前方からケンネルが歩いてきて、少し咎めるように聞いてくる。

 アレシュが答えるより先に、令嬢が口を開いた。


「ケンネル様。あの、私はエリシュカ・ツルカと申します。乱暴されそうなところをアレシュ様に助けていただき、こうして父上の元へ送っていただいているところなのです」

「乱暴?」


 ケンネルは大げさに驚いて見せて、アレシュを見る。


「エイドリアンと俺が帰宅中に現場に遭遇して令嬢……エリシュカ嬢を救出。エイドリアンはそのまま男たちを追って、俺は令嬢を送り届けるところです」

「なるほどね。それじゃあ私がその役目を引き継ごう。君は賊を追いなさい」

「兄上。ありがとうございます」


 兄からの申し出にアレシュは心の底から安堵したが、エリシュカは不満そうな声を上げる。


「アレシュ様!」

「エリシュカ嬢。このアレシュと違って騎士ではない私に不安を覚えるかもしれないが、賊はこのアレシュに任せて、私にあなたを送り届けるという名誉を与えていただけませんか?」

「……お願いします。ケンネル様。アレシュ様もお気をつけて」


 少しの沈黙の後、エリシュカはケンネルに微笑み、それからアレシュに目を向ける。

 どこか色気とともなう視線を避けつつ、彼は騎士として笑みを返した。


「ありがとう、エリシュカ嬢。兄上、よろしくお願いします」


 兄にエリシュカを託してから、エイドリアンを追うために踵を返す。


「ああ。安心しなさい。賊を捕まえたら、後はバジナに引き渡して君はそのまま用事にいっていいから」

「すみません!ありがとうございます」


 ケンネルがその背中に声をかけると、アレシュは一度振り返った後、走り出した。

 けれどもその日、彼がラダの店に行くことはできなかった。

 逃げ出した男たちは姿を消し、追っていたエイドリアンは瀕死の怪我を負い、アレシュが事情を知っているということで国防部の役人によって拘束されることになったからだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。