城内の動き
「アレシュが拘束されたですって?!」
スラヴィナがその知らせをイオラから聞いたのは翌日だった。
城に賊が入ったことは知っていた。それで昨日から警備が増やされたことも。けれどもアレシュが一時的だが拘束されたことは知らなかったのだ。
イオラ自身も、ラダの店でヒューの屋敷の者から聞いただけだったが、城に来て他の侍女などから情報を得て、自分なりにまとめてスラヴィナに伝えたのだ。
「第一小隊のエイドリアン様が恐らく賊との交戦の上重傷、アレシュ様は無傷で、取り調べを受けることになったそうです。どうも賊というよりも、暴漢なのですが、そのような身元不明の者が城に入り込んだこと自体が異常ですね」
「暴漢?!」
「信じられないことなのですが、令嬢が襲われたそうです。エイドリアン様とアレシュ様はそれを救い交戦状態に入ったらしいです」
「な、なんてことなの?!その令嬢は大丈夫なの?」
「ええ、ドレスは酷いことになったようですが、なんとか……」
「何か見舞いをしたいわ。だって、この城でそんなことが起きるなんて、私たちの落ち度じゃないの」
「それでは見舞いの品をお送りしましょう」
「よろしくね。そうだわ。エイドリアンは重傷ってことは城にいるの?大丈夫なのかしら?」
「今朝意識は取り戻したと聞いております。私が見てきましょう」
「ありがとう。助かるわ」
「侍女として当然のことです。スラヴィナ殿下」
スラヴィナは安堵したように微笑み、イオラは頭を下げた。
☆
ラダが目を覚ますとすでに日が昇っており、身支度を整えると慌てて下に降りた。
「ラダ?今日は休んでもいいんだよ」
「ううん。手伝うから」
「そう?無理をするんじゃないよ。まず朝食を食べてから手伝って」
「ありがとう」
母はテーブルにスープと昨日の残りのパンを並べる。
ラダは少し硬くなったパンをスープに付けながら食べ始めた。
(アレシュ様、大丈夫かな。ちょっと精霊に聞いてみよう。精気を対価に……)
闇の精霊を呼び出すことも可能だが、呼び出した際に何かがあれば対応が遅れる。そう思って、ラダは風の精霊にお願いしようと思った。
『風の精霊~』
肉の仕込み、野菜の下準備を終えてから、ラダは中庭に出てきていた。中庭に行くならと香草摘みも一緒に頼まれている。
今となっては両親に精霊と話せることを隠す必要なないのだが、アレシュが関わることなので心配してほしくないと外で話ことにしたのだ。
『何?王女様関係?』
反応した風の精霊の声は機嫌が悪そうだった。
最近の彼女は機嫌が悪い。
別の精霊に頼んだ方がよかったかなと思ったが、ラダの表情でそれに気が付いたらしく、嫌がらせのように風がラダの髪を靡いた。
『ボクに用事だろ。ラダの願いなら、何でも聞くよ』
「じゃあ、お願いするね。あの、アレシュ様のことを見てきてほしいの。闇の精霊には守るように伝えているのだけど、様子が気になるから」
「ふーん。そうなんだ。闇の精霊にね」
風の精霊は他の精霊と距離を置いており、仲が特別に悪い精霊はいなかったはず。恐らく闇の精霊に頼んだということで、彼女は機嫌を悪くしているようだった。
「ほら影なら動きやすいでしょ?』
言い訳ではないけど、言い訳がましくラダは言ってしまう。
『いいよ。わかってるから。ちょっと面白くなかっただけ。王女様のお守りなんて御免だし。様子見てくるだけだね。いいよ。じゃあ』
ラダの返事を待たず、風が再び吹いて、庭の香草を揺らした。
「いっちゃった。大丈夫かな」
少しだけ心配だったが、闇の精霊は好戦的ではない。もめることはないだろうと、父に頼まれた香草を摘み始めた。
☆
「先輩……」
「心配しないでもいいわ」
出勤してすぐにアレシュはエイドリアンの休んでいる医務室へ向かった。そこにいたのはヒューで、安心させるように微笑む。
「さっきまで意識があったのよ。疲れてるみたいですぐに寝ちゃったけど。医者も命には別条ないって言っていたから」
「ありがとうございます」
「なに、お礼言ってるのよ。わけわかんないわね。それよりもラダちゃんに顔を見せてあげてね。彼女も不安がってたわよ」
「そうですか?」
(そうか、昨日は最終公演だったのに、最後の劇すら見れなかったし。悪いことしたな)
「アレシュさん。私は仕方なく譲ってあげたのよ?油断してたら掻っ攫るからね。覚悟しなさい」
「そんなことさせません」
「だったら頑張って。エイドリアンのことは私に任せて。こう見えても私は兄なんだから!」
こう見えてというところは自覚しているようで、ヒューは胸を張って言う。
「よろしくお願いします」
「言われなくても。君は第一にラダちゃんのことを考えて」
ヒューは表情をふと改めてアレシュを見る。
空色の瞳に真剣な色を見て取り、彼は頷く。
「じゃあ、ほら。仕事に戻んなさい」
追い出すようにそう言われ、彼は部屋を出る。
「アレシュ様。ごきげんよう」
すると前から歩いてくるイオラの姿が視界に入った。
彼女は少し嫌そうな顔をして挨拶をして、アレシュも取り敢えず返した。
「エイドリアン様のご容態を見に来たのですか?」
「ああ。君もか?」
「ええ。スラヴィナ様が気になさっております。あなたのことも」
「そうか。心配させてしまったな。先輩は大丈夫そうだ。ヒューさんが傍にいた」
「ヒューさんが?!」
イオラは彼が苦手らしく、ますます嫌そうな顔をした。それがちょっと面白くてアレシュは笑ってしまう。
「失礼な。私は公私混同しませんから。それでは失礼いたします」
彼女は綺麗に礼を取ると、アレシュの横を通り医務室へ向かう。
そのような態度は慣れており、彼は気にするまでもなく、第一小隊の宿舎へ急いだ。




