初日2
「二人ともやめろ!」
クリスを庇うように抱きしめるアレクセイ、デニサの剣と取り上げたのは死んだはずのルイベルトだった。
「騎士様、どうしてここに?」
「ああ、クリス。いや、クリスチナ。遅くなってすまない。私はやっと気が付いた。あの女の子が君だと」
「騎士様……」
「クリスチナ。私の名前を呼んでくれないか」
「アレクセイ……様」
「ああ、クリスチナ。愛している」
アレクセイはクリスーークリスチナを抱きしめ、舞台が暗転して、次の場面に変わる。
舞台の袖に控えていた音楽隊により演奏が始まり、真っ白な建物の中で、黒髪の騎士は銀色の髪の娘に愛を誓う。
二人は王の下で婚姻を結び、人々に祝福される。
――こうして、精霊に愛された娘は初恋を実らせ、騎士と共に末永く幸せに暮らしたという。
語り部が朗々と語り、そこで舞台は終演となった。
☆
「随分疲れているみたいだね。ヒューベルトは本当にいい役者だったよ」
「そうですね」
鑑賞を終え、興奮を抑えきれない観客は再び談話室へ戻り、それぞれ感想を述べたり世間話を繰り広げたりと話が咲いている。
ケンネルはスラヴィナの元から、アレシュの傍へやってきていた。
からかうつもりだろうとわかっていた彼はそんな兄の態度にげんなりする。
舞台上、アレクセイを演じたヒューはまるでそこにアレシュがいるような、そんな錯覚を覚えさせるほど彼に似せた演技をしていた。
クリスを、ラダを抱きしめているのが自分自身のようなそんな気持ちになりそうなくらいだった。ラダは舞台上でヤルミルに似たクリスを演じ、アレシュはとことん複雑な気持ちになってしまった。
(ラダは頑張っていた。多分ヤルミルを知らない者がみたら、別人のように見えるだろう)
アレシュはヤルミルを知っており、ラダがヤルミルの記憶を思い出して演じているのに気が付いていた。素人であるラダがあれほど感情的に別人を演じることなど、ヤルミル似の役柄だったから可能だったに違いない。
兄の思い付きには感嘆するが、複雑な気持ちはなくならなかった。
「とりあえず大成功でよかったよ。ラダちゃんたちにはあと一か月頑張ってもらわないおいけないからね。君もラダちゃんを褒めておくんだよ」
笑いながらケンネルはアレシュの背中を軽く叩くと、再びスラヴィナの元へ戻っていった。
「本当に、ケンネルも困ったものだな」
「そうですわね」
長男の自由気ままな背中を見ながら、夫婦は溜息まじりに言葉を交わす。
「でも本当にいい劇だったな。あのアレクセイも……」
「父上。何も言わないでください。本当、あの人は」
ヒューに文句の一言二言言いたいところだが、彼はわざとアレシュに似せる演技をしたのを知っている。ラダがやりやすいように。
だからどうにかその感情を飲み込んだ。
☆
「さあ、今日の最後は挨拶だぞ。初日だしスラヴィナ殿下がいらっしゃるかな。さあ、着替えなくていいから、そのまま行くぞ」
見苦しくないように髪や化粧を整え、ラダたちはバラリーに連れられ、スラヴィナを含めた観客のいる談話室へ向かう。
(観客席を見る暇なんてなかったけど、アレシュ様も来てたんだよね。会えるかな)
「ラダちゃん。アレシュさん、来てたわね。面白い顔してたわよ」
「え?」
隣を歩くヒューに言われ、ラダは困惑してしまう。
「大丈夫。私の演技のせいだから」
「本当、アレシュ様そっくりだったっすから」
「気持ち悪いくらい似てましたね。本当」
背後を歩くホンザとイオラがその会話に加わってきた。
ホンザはルイベルトの恰好のままだが、話し方や表情はすでにホンザに戻っており、先ほどまでのきりりとしたルイベルトの面影はなくなっていた。
(とりあえず初日は無事に終わってよかった。アレシュ様に感想聞けたら聞こう)
「さあ、着いたよ。皆、私に付いてきて」
バラリーが一度だけ足を止め、振り返る。
扉の中から賑やかに話す人々の声が漏れていて、ラダはきゅっと服の裾を掴んだ。
彼女を含め劇団員が部屋に入ると、談笑する声が途絶える。
スラヴィナが劇団員に慰労の言葉をかけた後、主要登場人物を演じたヒューから次々に挨拶をする。ラダは緊張しながらもどうにかこなした。
アレシュの温かい微笑みに勇気づけられ、笑みを返すと何やら尖ったような視線を四方から感じる。
「それでは明日からもよろしく頼みますね」
紹介と挨拶が終わり、スラヴィナが労ってラダたちの本日最後の仕事は終わった。けれども部屋を出て行きながらも、ラダは自分に向けられた視線について考えずにいられなかった。
ここまでの読了ありがとうございます。
次から新章『第四章 「隣国の王」の執着は変わらない』の予定です。
もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。




