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精霊に愛される少女が恋を認めた時

「……なんだか色々気を使わせてしまったみたいなだな」

「はい」


 ヒューなのか、バラリーなのか、はたまたホンザなのか。

 アレシュと共に劇場を出ると、こちらでお話してくださいとばかり、椅子とテーブルが用意されていて、二人は顔を見合わせて苦笑してしまう。


「まあ、座って。俺もちょっと走ってきて疲れてるし」

「そうなんですか?」

「ああ。酒場で先輩のお兄さんに絡まれた」

「先輩のお兄さん?」

「えっとヒューだっけ」

「ヒューさん?」


(そういえばバラリーさんが何かそんなこと言っていたような)


 ラダがぼんやり会話を思い出していると、アレシュの紫色の瞳にじっと見られていることに気が付く。


「ヒューは、ラダが好きだって言っていた」

「ヒューさんが?」


(なんでそんなこと、アレシュ様に……。私には一言も言わなかったのに……)


 好かれていることは正直嬉しい。けれどもアレシュには伝えてほしくなかったと恨めしい気持ちが出てくる。


「ラダ。俺はずっと考えていた。君と、あなたと会えない時間に自分の気持ちを。ウルシュアと自分の気持ちの区別がつかなかったんだ。でも、俺はもう気にしないことにした。あなたは嫌がるかもしれないけど、俺はあなたが好きだ。この気持ちはきっとウルシュアの想いも入っている。だけどそれだけじゃない。ラダのはにかんだ笑顔や、すぐ感情が表に出るところ、その茶色の瞳も全部好きなんだ」

「アレシュ様……」


 紫色の瞳は瞬きもせず、彼女に向けられていた。

 ウルシュアの紫色の瞳を思い出し、ヤルミルの恋心でラダの心がいっぱいになる。


(王女様……。僕は王女様が好きだ。彼は王女様だけど王女様ではない。僕も……私もヤルミルじゃない。でもこの想いは私のものでもある)


「ヤルミルとして、ウルシュアのことを好いてくれているのを俺は知っている。ラダ。あなたはどうなんだ?俺に向ける気持ちは、ウルシュアに向ける気持ちだけ?」


 ウルシュアではなく、目の前のアレシュが真摯にラダを見つめていて、彼女の気持ちを捉えようとしていた。


(……アレシュ様。うん、もう認めてしまおう。私は、アレシュ様が好きなんだ。ラダとして)


「アレシュ様……。好きです。ヤルミルとして王女様あなたのことを恋しく思ってます。けれども同時に、ラダとして、アレシュ(あなた)様のことも好きなんです」

「ラダ!」


 アレシュが立ち上がった勢いで椅子が倒れそうになる。けれども、椅子は倒れることなく元の位置にもどった。

 気が付けば、ラダはアレシュの腕の中にいた。椅子に座るラダを包むように彼が抱きしめている。

 早鐘を打つ鼓動。暖かな彼の体温がラダを包んだ。


『ちぇ、やっぱり王女様か』


 そんな声がラダの耳に届き、少し苦笑してしまう。


「嫌だった?」

「そ、そんなことないです。アレシュ様」

「よかった」


 彼女がそう答えると、アレシュはさらに力を込めて抱きしめ、結局精霊に邪魔にされることになった。

 邪魔した精霊はもちろん、風の精霊である。




「ラダ!おか……」


 戻ってきたラダを迎えた母ガリナは、その隣にアレシュの姿を発見して目を見開く。


「ご無沙汰しています」

「これは、いったいどういうことなんだい?」

「あのお母さん、」

「今日はスラヴィナ殿下の劇場見学があって、俺はその警護だったのですが、殿下から現地解散といいと言われ、ラダをお店までお送りしました」


 アレシュはすらすらと答え、その隣でラダは少しびっくりする。


「まあ、そういうことにしておこうかね。今日は。うちの娘はまだ十五歳なんだよ。アレシュ様」

「お、お母さん!」

「わかっています。気長に待ちます」

「アレシュ様?!」

「まあ、わかればいいよ。前はちょっと急いでいたみたいに思えて怖かったんだよ。ねぇ。父さん」

「あ?母さん。おや、アレシュ様じゃないか!」


 厨房にガリナが呼びかけ、父イルジーが出て来る。

 店は閉店間近で客は二人だけだ。その二人も昔からの馴染の客で、アレシュたちのやり取りを微笑ましく見守っている。


「どうかね。アレシュ様。何か食べていったら?随分お店にきてないだろう」

「いいですか?」

「もちろんだ。ラダ、何を食べたいか聞いておくれ」

「はい」

「じゃあ、私は飲み物を用意しようかね。ラダ、あんたもまだ食べてないんだろう。一緒に食べるといいよ」

「あ、うん。ありがとう」


 考えてみれば、アレシュと一緒に食事などしたことがなく、ラダは少し照れながら返事をした。


「今日は初めてのデートかな」

「アレシュ様?」


『うわ、浮かれすぎだよ。王女様。ラダ。やっぱり吹き飛ばしていい?』


「駄目だから、風の精霊」

「精霊がいるんだな」

「はい」

「それだけラダが心配なんだろうな。仕方ない。のんびり認められるように頑張るよ」

「……ありがとうございます」


 なんと答えていいか迷いながら、ラダはそう答える。


「ラダ~。注文は決まったのかい?」

「あ、まだ。アレシュ様、何か食べたいものは?」


 店の扉に閉店の看板を掛けてから、ラダとアレシュのテーブルに、イルジーもガリナも加わり賑やかな夕食会が催される。ラダは久々に心の底から満たされた気持ちになっていた。


 


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