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弟たち


「元気ないなあ。アレシュ」

「ラダちゃんの店にいけばよかったのに。何かあったのか?まさか心変わりか?イオラちゃんか。まあ、綺麗になったもんなあ」

「そんなじゃないですから」


 本日の第一小隊は城の外回りの警備だ。城の周りの塀に沿って二人組に分かれて配置につく。アレシュはエイドリアンと共に門の警備に当たっていた。

 午後の休憩で交代のためにやってきた先輩たちに軽口を叩かれ、彼は慌てて返した。すると苦笑したのはエイドリアンでアレシュの肩を叩く。


「冗談だよ。お前が一途な奴だってことはみんな知ってるから。なあ」

「ああ。冗談だ。まあ、行きたいならいけ。そんな変に悩むくらいなら行動あるのみだぞ」


 エイドリアンと同じ年の、大柄な騎士ヴィクターはさらに彼の肩を叩き、よろめきそうになった。


「アレシュ。俺たちは騎士だ。何があるかわからないんだから。後悔しないようにしとけ」


 別の先輩からもそう言われ、叩かれた肩を摩りながらアレシュは頷く。


(そうは言っても、押しが強すぎたら嫌われるかもしれないしなあ。大体、ラダの両親にはすでに予防線を引かれてる気がする)


 イオラのことがありラダをアレシュの家に一度運んだ時から、彼女の両親の態度は硬化してしまった。


前世まえのことを話したみたいだから、それで態度が頑なになったのか。それとも身分か……)


 考えてみたが、答えは出なかった。


「あ、そうだ。アレシュ」


 休憩は宿舎の一画の、第一小隊の部屋になる。

 先輩たちと当番を代わり、そこに向かって歩いているとエイドリアンに話しかけられた。


「ラダちゃん、演劇に出るんだってな」

「先輩。なんで知ってるんですか?」

「俺、実は兄がいるんだけど。役者になるって家を出て行って、それなりに活躍しているんが……。昨日会ったらなにかえらく困っていてな。話を聞いてみると、ラダちゃんの名前が出てくるじゃないか」

「困ってる?どういう事ですか?」


 演劇に出るということすら、アレシュは反対だった。

 けれども昨晩兄からラダが快く承諾したという話を聞いて、複雑な心境に駆られた。ケンネル曰く、進んで話を受けたと聞いたが、兄が腹黒いことは承知で、どうも何かしたのではないかと思っていた。

 それもあって、今日はラダに会うのをためらってしまったこともある。


(我ながらやっぱり意気地がない。ラダに嫌われるのが怖いんだ)


「兄貴は十歳の時から劇団に入って、今二十二歳になるんだけど、それなりにやってきたんだよ。それなのにいきなり素人三人が役者として抜擢されたわけだろう。役者にとって舞台の上は戦場だ。そんなところに素人だろう。だから困るんだとさ。まあ、ラダちゃんがお前の好きな子って話したら、何か楽しそうにしてたけど。俺の兄貴はそれでいいとして、劇団には兄の他にも役者がいる。ちょっと心配だよな」

「えっと先輩の兄上に話してしまったのですか?俺がラダのことを好きって」

「ああ、悪い。思わず。まあ、いいだろう。本当のことだから。それよりもラダちゃんが虐められないか心配だな。素人なのに、いきなり舞台の上だろう。他の役者からやっかみとかあるんじゃないか?」


 エイドリアンの言葉に、アレシュの心にふつふつと怒りが込み上げてきた。


(やっかみとかあり得ない。一体兄上は何を考えているんだ?)


「先輩。ちょっと俺、宰相補佐官のところへ行ってきます」

「え?おい。ちょっと待て!」

「休憩の終わりには戻ってきます」


 先輩の声にそう答え、彼はまっすぐケンネルのいる宰相執務室に向かった。


 



『ラダ~』


 水の精霊が戻ってきたのは夕食の繁盛期に入る前だった。


『面白いことになってるヨ。王女様とマクシムが喧嘩したんだ』

「は?」


(どういうこと?)


 野菜を洗っていたラダはその手を止めて聞き返す。


『王女様はラダが演劇に出るのが反対で、マクシムに文句を言ったんだ。そしたら言い負かされて』


(アレシュ様は反対なんだ。なんでだろう。向いてないからだろうなあ。でもやってみたい)


「それでアレシュ様はどうしたの?」

『怒って部屋から出て行ったら、隊長さんに怒られてイタヨ』


 水の精霊の説明はあまりにも省略しすぎていて、ラダは色々想像してしまった。


(私のせいで怒られたんだ。大丈夫かな)


『ラダは気にしなくてイイヨ。王女様は浮かれすぎていたんだから当然ダヨ』

「浮かれる?」


(どういう意味?)


『そうだぜ。ラダは気にするな!』


 言葉の意味を考えていると、今度は父の悲鳴と火の精霊の声が同時に聞こえた。


「火の精霊!」

『ははは。すまねぇ』

「お父さん、大丈夫?」

「大丈夫だ」

「火の精霊。やめてよね。本当」

『わかったよ。わかった。もうやらねぇよ』

『ラダ。オイラ疲れたよ。王女様の様子は伝えたカラ。お礼はイラナイ』

「うん、ありがとう」


 様子を伝えたというか、何か逆に悩むような情報を貰ってラダは困惑しながらも礼を伝える。


『じゃ、オラッチもいなくなる。邪魔したな。ラダ!』

『バイバイ』


 お騒がせの精霊たちはそう言っていなくなったようだが、残されたラダは眉を潜めて、思い悩む。


「どうしたんだい?」

「うん」


(アレシュ様が私のせいで怒られたなんて、お母さんに行っても困らせるだけだもんね。明日来てくれたら聞いてみよう。明日来てくれるかな)


 二日も来てくれなかったので、ラダは明日彼が来るかどうか不安だった。かといって、彼の屋敷は敷居が高すぎてたずねて行く気にもなれない。またそのように親しい間柄でもないと考えてしまう。

明日からは演劇の練習だというのに、ラダはアレシュのことですっかりそのことを忘れていた。


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