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19.防具屋

「ここがそうなの?」


「そだよー!」


「いや、絶対違うだろ」


「私の情報網を少しは信頼してよねー!」


「ちなみにソースは?」


「もち掲示版!」


「ダメじゃん!」


「大丈夫大丈夫! ちゃんと信頼できる掲示版を選んでるから!」


「掲示版自体が信用できないって話なんだけど……」


「とにかく入ろー!」


 アクアに促され、目の前の店へと入っていった。

 というか、ホントに店なのだろうか?

 扉は開いているみたいだけど、店内は薄暗くてここからだとほとんど見えない。外壁はボロボロ。店頭にショーケースもない。そもそも看板すらなかった。

 とても防具屋とは思えない。

 よく言って民家。普通に考えると廃屋であった。


「おじゃましまーす!」


 アクアの物怖じしない性格は本当に凄い。私と同じ初見のはずなのに。

 シズクなんて大きな体をあんなに小さくして震えて……


「ちょ、ちょっとシズク大丈夫!? 物凄い震えてるけど!」


「だだだだだ、だいだいだい、ぶぶぶ……」


「シズクが壊れた!」


 一旦、店の外に戻りシズクを落ち着かせることにした。

 ダメだ! ぷるぷるしている! 冷たい雨に打たれた子犬のようにぷるぷるぷるぷるしているよ! おーよしよし!


 どうやら、普段ワイルドなシズクではあるが、こういうなんというか薄暗くてどこから何が出てきてもおかしくないような雰囲気の場所……つまりは、お化けが大変苦手のようであった。意外だ。

 お化けも素手で殴り倒しそうなイメージなのに。


「素手で殴り倒せねぇからこえーんだよ!」


「なるほど」


 正論だ。ぐうの音も出ない。ぐう。


 でも、大丈夫かなぁ?

 言っちゃなんだけどこのゲーム、たぶんいると思うよ? あえて言わないけどさ。無駄に怖がらせても仕方がないし。


「大丈夫だよ! いたとしてもきっと別の場所だよー!」


「こ、ここここ以外なら、いいいいるのか!?」


「アクアァ!」


 フォローになってないよ!

 それむしろ失言だよ!

 しかも更迭級の!

 ああ、またシズクが震えだしてしまった。連動してその豊満な胸もまたぷるぷると……あれ? 私、最近胸のことしか言ってなくない? これじゃあただのエロ親父じゃないか! まさか、これが……お父さんの血!?


『店の前でガタガタガタガタうるせぇぞごらぁあああ!』


「ぎゃぁあああ! でたぁあああ! お化けぇえええ!」


「きゃあああ!」


「うわぁああ!」


『誰が化物じゃいごらぁあああ!』


 シズクが発端の連鎖した混乱は、私達をしばらくの間、翻弄し続けるのだった。




「ごめんなさい……」


『もういいもういい。反省したのならワシはなんにも言わん。だからそう凹むな。こっちまで滅入るわい』


「はい……」


 現在は店の中に招かれて、2人で謝まり倒していた。

 ちなみにシズクは気絶中。このゲーム気絶してもログアウトしないのね。怖。私も気をつけないと。

 中は薄暗くはあるが、目が慣れればそれほどでもなく、むしろよく見るとシックな内装がオシャレでさえあった。

 外観とは大違いだ。


 そして、目の前の白髪髭モジャ豪腕天辺つるっぱげ鼻デカ爺さんはここの店主で、名をサカキというらしい。名字みたいな名前だ。ある意味覚えやすい。


『嬢ちゃん今なにか失礼なことを考えとらんかったか?』


「イイエナニモ」


『まぁそれならいいんじゃが……』


 セ、セーフ!

 でもサカキさんの視線が私から外れてくれない!

 やめて! これ以上その疑いの目で私を見ないで! 良心の呵責に耐えられなくなるから!


『しかしワシが言うのもなんじゃが、よくここが店だとわかったな? 一見の客なんて今まで来たことがなかったんじゃが』


「ははは……まぁそれは話せば長くなるので割愛させていただくということで……」


『なんじゃそりゃ』


 まさか、掲示版を見て来ました、なんて言えるはずもなく……って、え?


「今まで来たことがない?」


『ああ、そうじゃが。この店はこんな外見じゃからな。誰も店だと思っとらん。近所の者でも廃墟か何かだと思っとるんじゃないかの! ガッハッハ!』


 なんちゅう自虐を言うんだこの人は。とてもそこの住人が言うセリフではない。

 私もアクアも苦笑いでごまかすことしかできて――


「アハハッ! おじーちゃんおもしろーい!」


「笑うんだ!?」


『だろ? ガッハッハ!』


「いいんだ!?」


 サカキさんは気難しそうな見かけに反して、意外とフランクな人のようで。

 もう、判断に困る冗談はやめてよホント。心臓に悪い。

 依然、2人は薄暗い部屋で笑いあっている。意外と気が合うのかな?


 それよりもなによりもさっきの話だ。

 サカキさんは今まで一度も一見のお客さんは来ていないと言っていた。

 それは、サービス開始2日目の『Free』においては、イコールプレイヤーも来たことがないと同義なわけで……つまり、掲示版に書いてあった内容は……やっぱり、ガセだったんじゃないか!

 あ、でも実際に店はあったんだからガセではない? でも、情報自体が全くのデマカセだという可能性も……ってややこしい!

 とにかく!


「アクア、今後、掲示版の情報をソースにするのはやめようね」


「えーでも、実際に……」


「やめようね」


「でも……」


「やめようね」


「だって……」


「もう作らないよ」


「やめます!」


 よろしい。


『なんなんじゃお前達は……』


「ちょっと色々ありまして……ええ」


 ほら、サカキさんに呆れられたじゃないか。


「うぅ……やめろぉ……私を食べても美味しくないぞぉ……ハッ! ここは!?」


『お、嬢ちゃんやっと起きたか』


「え? 嬢ちゃ……ぎゃあああ! お化……」


『それはもうええわい!』


「痛ぇ!」


 あ、シズクの頭に拳骨が。

 超痛そう。

 あ、そういえば痛覚設定いじってなかった! 忘れないようにメモメモ。

 よしオッケー。


 そういえば、気づけばいつの間にか和やかな雰囲気に。これもひとえにアクアとシズクのお陰だね。


 ……これなら大丈夫かな?

 実は、この店に入ってからずっと気になっていたことがあったのだ。

 サカキさんの顔面は依然強面のままだけど、幸い機嫌は悪くなさそうに思える。頑張れ私! きっと今なら聞いても大丈夫だよ! たぶん! メイビー! ポッシブリー!


 私は内なる勇気を振り絞り、おもむろに口を開いた。


「ところで……」


『ん?』


「ここは一体何屋さんなのですか?」


 そう、サカキさんの言動から、何かの店であることは理解できたのだけど、その肝心要の何屋なのかというのが、いまいちよくわからなかったのだ。

 店内を見回してみても、棚などはあれどそこに商品らしき物は陳列されておらず、現状どういった物を取り扱っている店なのか、皆目見当がつかない。

 こういう場合は、本人に直接聞くしかない。だって、どれだけ考えてもわからないものはわからないのだから。


『なんじゃ。知らんで入ろうとしとったのか』


「ええと、その……色々と事情がございまして……」


『さっきから事情ばっかりじゃの。まぁええわい。ここはな……』


「ここは?」


 ごくり。


『【ワシ屋】じゃ!』


「……へ?」




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