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20.ワシ屋

「和紙……ですか?」


『何を思っとるのかわからんが、たぶんそれではない。あくまで【ワシ屋】じゃ!』


「は、はぁ……」


 ごめんなさい。まったくわかりません。

 和紙じゃないなら一体なんなの?

 鷲? 剥製屋さんなの?

 でも、店内を見てもそれらしい物なんて何も……


『まぁわからんのも無理はない。【ワシ屋】はワシしか言うとらんからの! ガッハッハ!』


「え?」


 ただの自称かよ!


 やばい。リアルで訳の分からない横文字を繋げただけの造語を職業と言い張ってる人と同じ臭いがする!

 あなたは何をハイパーにするの!? どこをアソシエートしちゃうの!? それはクリエイティブなの!? ねぇ! どうなのよ一体!


『【ワシ屋】はな、単純に『ワシ』が作りたいもんを作る。『ワシ』が誰のためでもなく、『ワシ』の望む通りに『ワシ』のタイミングでな。だから【ワシ屋】なんじゃ』


「それってつまり……」


『なんでも屋みたいなもんじゃな! ガッハッハ!』


 なんだ。よかった。

 このゲームに横文字だらけの謎職業は存在しなかったんだね。本当によかった。

 でも、なんでも屋の割りには店内がすっきりしている。というか、何もない。一体なにゆえ?


「ちなみに、これまでに作った物は……」


『ん~この間まではあったんじゃが、残念ながら全部売れてもうたのぅ』


「そ、そうなんですか……」


 う、胡散臭い。

 実はやっぱり何も作ってないんじゃ……?


『なんじゃその目は。疑っとるのか?』


「いや、決してそういう訳では……」


『はぁ~……まぁそうじゃな。言うとるばかりじゃたしかになんの説得力もなかろうて。よしわかった! ちょっとついてこい』


「え?」


『奥で今作っとるもんがあるでの。それを特別に見しちゃる。本来は作りかけのもんは見せない主義なんじゃが。今回だけじゃぞ?』


 おお。なにやら特別な許可がおりたようで。

 これはゲーム的にはクエストやイベントということになるのだろうか? わからない。

 なにせ、そんなものなんて受けたことないからね!

 まぁ胸張って言えることじゃないだろうけど。

 とにかく、私達はサカキさんに言われるがまま奥の部屋へとついていくのであった。




「な、なんじゃこりゃあ」


「おっきー! すっごーい!」


「こんなもん誰が使うんだよ……」


『ガッハッハ! あくまでワシの作りたいもんじゃからな! 使い手のことなど知らん!』


 言い切りやがった!

 ある意味徹底しているなぁ。

 まさに職人って感じだ。

 でもこれ、完成後はどこに置いておくつもりなんだろう。物凄く邪魔だと思うのだけど。


 それはとにかく大きかった。

 このゲームに存在するどんな武器よりも巨大であると言われても、きっと疑う者はいないだろう。それほどの大きさを誇った。

 そしてそれは洗練されていた。

 まるで、元々そういう形であったかのように無駄がなく、自然であり、美しかった。

 刃物独特の鈍色かと思いきや、光が差す角度によっては黒くも見える不思議な色合い。

 それは巨大な鈍器であった。

 いや、正確に言えば刃はついている。よく切れそうな片刃が。

 だが、たとえそれがついていたとしても、誰もこれで斬りつけることなどできないだろう。

 それほどのサイズ。

 まだ、叩きつける方が現実味があった。ゆえに鈍器。

 ただし、それはあくまで斬ることに比べたらの話で。


 ――包丁。


 サイズさえ適正であればそれはそう呼ばれるべき物なのだろう。


 刃渡り約10メートル。全長にすると12~3メートルくらいかな?

 形状は鰻を捌くときの包丁によく似ている。お父さんがたまに使うから覚えていた。

 まぁこれで捌くような鰻なんて見たくもないけど。


 ほぼ部屋の端から端まであるそれは台の上を我が物顔で占拠している。

 ホントどうやって作ったんだろ?

 一応、奥に炉っぽいものは見えるけど……


 見たところ刃自体はすでに研がれていて、たぶんすぐにでも使える状態だ。

 じゃあなんで未完成なのかというと。


「柄がないね」


『柄も作るには作ったがここでくっつけちまうと外に出せんからな。買い手が見つかり次第くっつける予定じゃ。柄をくっつけて初めて完成品じゃろ? だからまだ未完成なんじゃ』


 サカキさんはそう言いながら台の下を指差す。

 見れば、そこには5メートルくらいの木材があった。

 一瞬何かわからなかったが、これがおそらく柄なのだろう。

 刃が刃なら柄も柄だ。大きすぎる。


 ふと、素朴な疑問が口に出た。


「でも、これって邪魔なんじゃ……」


『邪魔に決まっとろうが! 作り終わったとき、めちゃくちゃ後悔したもんじゃ! しかし好奇心には勝てなんだ! ガッハッハ!』


 胸張って言うことでもないと思うんだけどなぁ。

 まぁ本人が納得してるならそれでいっか。なにせこの世界は『自由』なんだ。むしろ、そのくらいはっちゃけてた方が楽しいのかもしれない。


 そういえば、さっきから友人達が大人しい。見るとアクアはスクリーンショットを撮る角度で試行錯誤しているご様子。

 たぶん、包丁がデカすぎて画面に入り切らないのだろう。

 でも、撮れたとしても比較対象がないとこの迫力は伝わらないと思うよ?


 一方のシズクはというと、こちらは真剣な表情でじっと包丁を眺めていた。

 ときおり、空中に視線を外しては何かを考え込んで、再度包丁に視線を戻すという行動を繰り返している。

 どうしたんだろう?


 でも、あの表情は以前に1度見たことがある。

 たしか3人でゲームを物色しに行った時だ。

 限定版のゲームが高く、それを買ってしまえばその月のお小遣いが跡形もなく消し飛ぶという状況で、限定版か否かで迷っていた。その時の表情にそっくりだ。


 ってまさか!


「サカキさん」


『なんじゃ? お化け嫌いの嬢ちゃん』


「こ、怖くないぞ! 俺は決してあんなものには負け……じゃなくて!」


 シズクは姿勢を正し、真剣な表情でサカキさんに頭を下げた。


「こいつを俺に譲ってくれ!」




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