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17.二束三文

『次の方どうぞー』


「はーい」


 とうとう、私達の番だ。

 対応はなぜか私に委ねられた。コミュ障の私になんてことをやらせるんだと思ったが、2人に何事も経験だと押し切られた。Noといえる日本人に私はなれそうもないと痛感。


 私は覚悟を決め受付の前に一歩踏み出す。

 綺麗な女性だ。たぶん。

 なぜ、たぶんなのかというと、この方、鼻筋はスッと通っていて髪も透き通るような艶のある深い紺色。凛とした雰囲気も相まって、間違いなく美女のそれなのだ。

 ただ、残念ながらなぜか目の部分を帯状のもので隠しているため、たぶん、とつけざるを得なかった。なにゆえ?

 というか、接客業としてそれはどうなのよ、と思わなくもないが、ここは『自由』な世界だ。何も言うまい。でも気になる。


『本日はどういったご用件でしょうか?』


「モ、モンスター素材の買取をお願いできますか!」


『かしこまりました。それではこちらのウィンドウに対象モンスターをお入れください』


「わっ!」


「うおっ。大丈夫か?」


 受付の女性がそういってなにやら手元を操作すると、目の前にウィンドウが表示された。いきなりの出現に驚いて思わず仰け反ってしまった。

 後ろにいたシズクの胸で受け止められたことで、特になんの問題もなかったんだけど……なんだろう、この心の底から湧き上がる敗北感は。

 こんなところまでリアルなんだね。ちくせう。


「シズクごめん。ありがと」


「おうよ! なんならもっときてもいいんだぜ?」


 シズクが胸をドンッと叩くとそれに合わせて波打つ胸部。ガッデム!


「それは大丈夫。そんなことしたらたぶん、私の精神が持たない」


「なんだそりゃ」


「カノン私もー!」


 隣を見れば、アクアが腕を広げて満面の笑顔で待っていた。いや、意味わかんないし。


『驚かせてしまい申し訳ございません。事前に申し上げるべきでした』


「い、いえいえそんな、全然大丈夫ですから!」


 受付の女性が立ち上がり丁寧にお辞儀をして謝ってくれる。

 思わず両手を振って否定する。だって、私が緊張で距離感を誤り、カウンターに近づき過ぎていたのが原因だったからだ。他の受付に目をやれば私ほど近づいているプレイヤーはいない。落ち着いていればわかったはずなのになぁ。むぅ。

 次からは気をつけないと。


『お気遣いありがとうございます。では、改めまして……こちらのウィンドウに買取品をお入れください』


「あ、はい。わかりました」


 ちょっとしたハプニングもあったが、私は深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、受付の女性が出したウィンドウにインベントリから倒したモンスター達を次々に放り込んでいった。

 といっても、ウィンドウ同士を隣接させておけば、実物を取り出すことなくスワイプでそのまま移動できるんだよね。便利。

 ちなみに、アクアの倒したモンスターも一括で私が持っている。というのも、アクアがリロードしている間に私がモンスターを拾うというルーチンが途中からできあがったためだ。

 インベントリにも余裕があったしね。

 そういえばこれ、どれくらい持てるんだろう。確認していなかった。

 まぁでもインベントリの右下に『○○/100』とあるので、おそらく種類の上限は100なのだろう。

 あと、1つの種類の所持上限は……999個なのかな? 4桁も持っているアイテムがないからわからない。今のところ最大で312個だ。何がとは言わない。言いたくない。


 そんなことを考えながら、アイテム移動を繰り返す。そして、少し考えてから最後にそっとあの悩みの種も移動してみることにした。ダメなら何か言われるだろう。でもちょっとどきどき。


 受付の女性は顔を下に向け、確認を行っている模様。それ、絶対見えてるよね? ますます目隠しの意味がわからない。凄く気になる。でもきっとプライベートなことだろうし。我慢我慢。


『確認が終了いたしました。素材と現金の配分はいかがいたしましょう?』


「全部、現金でお願いします」


『承知いたしました』


 これは事前に2人で話し合って決めていたことだ。

 言い方は悪いが所詮、初期のモンスター。使える素材もそれほどないだろう。仮にあればまた狩ればいいだけの話。ということで、直近の問題である金銭不足をまずは解消することにしたのだった。なんせ私は無一文。ギブミーチョコレート!


『あ、ただ申し訳ございませんが……』


 ん?


『お受け取りした中に1点……』


 んん?

 

『冒険者様にご確認していただかなければいけない物がございまして……』


 んんん!?


『【何かの残骸】に関してなのですが……』


 うぁあああ! やっぱり無理だった!


『こちらで廃棄することは可能ですが、それには別途費用が発生いたします。【何かの残骸】の詳細な状態を確認しておりませんので具体的な額などは申し上げることはできませんが、今までの傾向から概算で申し上げますと……なにぶん個数が個数ですので、只今からお渡しする報酬のほとんどが廃棄費用に消えてしまう可能性が……いえむしろ、追加で費用をいただく必要も。しばらくお時間をいただければ詳細な費用を算出させていただきますが、いかがいたしましょうか?』


 廃棄するのに費用がいるんだ。

 っていうか、廃棄って。ギルド的には完全にゴミ扱いなんだね。しかも粗大ゴミクラス。

 まったくとんだ不良債権だよ!


「あ、大丈夫です……返却でお願いします……」


『承知いたしました』


 現状無一文だからね。私に選択権はないのだ。追加費用なんて払えないし。

 そもそも、アクアと折半する前の額で廃棄できるかどうかギリギリだー、なんて言われているのだから、絶対に足りるはずがない。そうなると、たとえ無理矢理廃棄したとしても数が減るだけで、インベントリ内で依然存在を主張してくる事実に変わりはないわけで。

 今後のことを考えるとある程度の軍資金は必要なのだから……ここは、誠に遺憾だけれども【何かの残骸】に関してはもうしばらくインベントリに眠っていてもらおうと思う。

 幸い、今はまだインベントリには余裕がある。しばらくの辛抱だと割り切ろう。

 ただ、今の戦い方だと今後も確実にアイツは増え続けるだろう。そして、最終的にはインベントリから溢れ出……ヒィ! それだけは……それだけは絶対に避けねばばば……!

 などと、スプラッター全開の想像をして動揺しまくりの私とは対照的に、受付の女性は淀みなく事務作業を終えたようだった。


『それでは、こちらが報酬の5238Sになります。ご確認ください。こちらがその明細です』


「はい……確かに。ありがとうございました……」


 目の前のカウンターに布袋に入った現金と、その横に1枚の小さな紙を置かれる。

 その紙には各種モンスターの名前、受付数、報酬額、諸経費等が記載されていた。お金を入れる布袋って有料なんだね。2Sだから別に構わないけど。

 私はそれらを受けとり、インベントリに収納。すると、ウィンドウの下部に【5238S】と表示された。

 どうやら、お金はアイテムとは別枠扱いになるらしい。ただ、布袋はアイテム扱いらしく、インベントリに【布袋☆3:1】と記載されていた。

 ちなみに『S』はこのゲームのお金の単位で『シルバー』と呼ぶらしい。

 でも、ぶっちゃけ今はそんなことはどうでもよくて。


 インベントリ内でひときわ異彩を放ち続ける【何かの残骸】。今更だけど残骸て。

 こちらのインベントリに受付の女性がこれを移動させている時に、心なしか眉間にシワが寄っていたように見えたのは気のせいだろか?

 気のせいだろうな。あの人、目隠しで眉間隠れてるし。はぁ……。

 結局、戻ってきちゃった。


 ホント、どうしよこれ。




ストックがそろそろ無くなってきました……。

ですので、申し訳ありませんが、ここからは1日~3日おきになると思います。

ご了承くださいm(_ _)m

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