御前試合④ 面倒だが御前試合対策をしないと
悠里が騒ぎを起こした次の日の放課後。
オレたちはレンの店に集まっていた。
話題は当然、御前試合をどうするか。
もっともオレとしては「妾の子ってどういうこと?」など聞きたくはあるけど。
御前試合の概要は1対1のパーティー戦。
パーティーは王侯貴族一人に転生者が最大四人という構成で組まれる。
そして、王侯貴族がリーダーとなって転生者を率いて戦うことになるわけだ。
全体の流れだが、まず14組のパーティーの中から12組で予選を行う。
残りの二組はシードとして、予選はパスとなる。
そして勝ち残った六組とシード組の計八組でトーナメントによる本戦を行う。
なおシード組は、第一王子パーティーにクソ兄貴のパーティーと決定済み。
ちなみに第一王子のパーティーには勇者がいる。
幸運だ。
もし勇者がリタの兄貴と組んでいたら、戦う前から詰んでいるところだった。
シードの仕組みから考えると、第一と第二王子同士が潰しあうのはありえない。
本戦で真っ先にクソ兄貴パーティーとぶつかるのがオレたちとしては最良。
そして御前試合のルールだが、かなり単純だ。
相手チームのリーダー以外全員を戦闘不能にするか、リーダーに触れれば勝ち。
自分の行為で誰かを死なせたり、相手リーダーにケガさせたりしたら負け。
戦いはコロッセオ内で行われ、場外に出てしまうのも戦闘不能と見なされる。
ちなみに場外判定は地面に足がついた時点。
それまでに他のメンバーが場内に引き戻せばセーフだ。
使用できる武器は与えられた木刀か木杖、防具は革鎧と木盾、と制限がある。
魔法やアイテムは殺傷系や絶対防御など一部の強力なのを除けば大体使用可能。
その他細かいルールはあるが、この辺りを覚えていれば大丈夫だろう。
死人が出ないように、そしてリーダーである王侯貴族がケガをしないように。
要するに、そういう配慮がされたスポーツ的なルールである。
「毒とかは使えなさそうねえ」
さらりと恐い事をいうレン姉さん。
「それにしても……。
兄様のパーティーは予選をパスできるほど強い、ということなのでしょうか?」
「だろうな。勇者パーティーの次くらいには強いと考えたほうがいいだろう。
まあそれでも、シードなら予選では当たらない。
対策を練られる時間が得られたのはいいことだよ」
とはいえ警戒すればいいのは、なにも勇者とバカ兄貴パーティーだけではない。
虎やクマに匹敵するような魔物を一人で軽く一刀両断できる。
戦闘系の転生者というのは、そんな集団なのだ。
彼らに比べればオレたちなんて例外中の例外。
身体を鍛えた一般人レベルでしかない。
「シュウくんには、なにか策はあるのかしら?」
「それをこれから考えるのさ。
で、まず作戦を立てる上で一番のポイントなんだけど……。
こよりさんをパーティーに勧誘するのはどうだった? レン姉さん」
『牧島 こより』はオレたちと同じ転生者だ。
見た目は小学生で、リタ以上に幼く感じられる。
そして『鍛冶士の加護』という、オレたちと同じ非戦闘職の加護を受けている。
もっとも、ゲームだと鍛冶職人は戦士系の役割を担っている場合も少なくなく。
ひょっとしたら戦力として当てにできるかもしれない、とか思っている。
それに、今のところ未知数だけど別の期待もあったりもして……。
「そうね……なかなか了承してもらえなくて……」
「なんか、レンさんが説得していたのをたまたま見てたけど……。
『こんないたいけな子供を戦いにかり出すの』とか、散々言ってたよ。
それにしても、自分でいたいけな子供って」
「あの、もう申し込みはしているんですよね?
後から追加ってできるのですか?」
「それはムリだけど実は前もってパーティーメンバーとして登録してあるのよ。
登録メンバーは必ず試合に参加しないといけない、なんてルールはないのだし。
当日に試合に参加してもらえなくても、問題はないと思うわ」
「そういうことみたい、リタ。
それにしても、さすが姉さんだ」
「きゅぅ……。でも、ごめんね、シュウくん。
入ってもらうのは難しそう」
「やっぱり難しいか……」
まあ、予想通りだ。
レンや悠里から聞いた話を総合すると、おそらく彼女は闘いに興味がない。
というより、そもそも周りに興味がないのだろう。
実際、彼女が教室にいるところをほとんど見たことがない。
元の世界に帰るために魔王を倒そうという気概があるようにも思えなかった。
そういう意味では自分と似たところはある。
でもオレは「魔王をどうやったら倒せるか」と考えるところがあるわけで。
だが、彼女の場合そういうのも感じられない。
ただ全てに無関心というわけでもなく、自分の加護には興味があるらしい。
学園の一角にある工房を借り、そこから出ず日がな一日鉄を打っているという。
なんかオレと同じ目に遭いそうだが、武具提供などでうまくやってるようだ。
かくいう、この店の掘り出し物のほとんどは、彼女が制作したものである。
「でもね、あの子も悪い子じゃないのよ?
わたしのことを『レンおねえちゃん』って。
……また呼んでくれないかしら?」
ブレないなあ、レンは。
こんな感じで基本的なことを確認した後、オレは今後の課題を提案した。
悠里は今まで通り訓練や演習に参加して腕を上げる。
レンはこよりを勧誘しつつ、予選の対戦相手の情報を収集。
リタにはできる限り持久力を中心に身体を鍛えてもらう。
また可能なら第二王子から彼らの情報を引き出してもらえれば都合がいい。
そしてオレは、誰でも使えて戦闘に役立ちそうなマジックアイテムを探す。
「こんな感じだけど、どうだろう?
てか、今さらだけどオレが仕切って良かったかい? リタ」
「え? わたしですか?」
「ああ、あくまでもパーティーリーダーはリタだからな。
リタがリーダーになるのがイヤなら、名目上でもいいけど」
「わたしなんかが……いえ、そうですね。
わたしがみなさんを巻き込んでしまったのですから。
リーダー、やります……みなさんが良ければですが」
「そうだね、わたしはリタにやってもらったほうがいいな。
こいつの下について戦うなんて、ゾッとしないし」
「そう? お姉ちゃんとしてはシュウくんの勇姿が見たかったな」
「無茶言わないでくれよ。
戦いに向いていないっていうのはオレもリタも似たようなもんなんだからさ」
「もう、仕方がないわね……。
リタちゃん、そういうことだから、お願いできるかしら?
作戦とか指揮とかはシュウくんに丸投げしてかまわないから」
「はい! そういうことでしたら、がんばります!」
ふと悠里の方を見ると、なにか少しニヤニヤしていた。
「……なんか、思っていたよりうまくいきそうじゃない?」
視線に気がついた悠里が、そう口にする。
「思っていたよりって……最初どうするつもりだったんだよ」
「聞くまでもないでしょ。あたし一人で全員ぶっ潰す!」
「はい、もう日も大分暮れたし、寮に戻ろうぜ」
「ぐぬぬ」
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




