幕間② 『読書会』のメガネ
『読書会』
その呼び名は俗称で、正式には「リテラル」という名称を持つ王国機関である。
主な役割は、遺跡などに眠る遺物を冒険者に先んじて発掘・保護すること。
強大な力を持つ武装・アイテムなどをそこらの一般人に使わせないためだ。
彼らがなぜ、読書会と呼ばれているのか。
それは、活動の大部分が探索より古い文献の解析に当てられているから。
所属員は一つの部屋で皆一様に古文書を凝視しているそうな。
そのさまを見て、からかい半分でそう呼ばれるようになったようだ。
雑貨屋のオープン準備も進んだある日。
そこからの使者が店にやってくるという話をレンから聞かされた。
どうやら以前からオレを訪ねて学園にきてたようだが行き違いでいまだ会えず。
それにしびれを切らしたわけではないだろうが、店に乗り込んで来るようだ。
王国機関の偉い奴がオレになんの用なのか、なんて愚問だろう。
どうあれ、鑑定絡み以外まずない。
レンには用件を言わなかったようだが、彼女も鑑定依頼だろうと言っていた。
それにしても、もし王国の機関からの依頼ならいい客になりそうだ。
……と言ったら、レンに複雑な表情をされた。
どうもそういう単純な話でもないらしい。
彼らは教会がオレを見限ったのを察知してアクセスしてきたかも、というのだ。
下手をすると王国の権威争いに巻き込まれる可能性があると。
だとしても、オレにとって今はこの店の経営を軌道に乗せることの方が重要だ。
取引先が増えることは収入安定につながる
それに政府御用達になれればそれだけで宣伝になる。
信用を得られるよう、がんばるしかない。
昼すぎにくるという話だったので早めに店に行ってだらだらしている。
すると、タキシード風の服を着た長身の男が来店してきた。
『メガネ』
初めて見た者が、一様にそうあだ名をつけそうな風貌だ。
といっても、つけているのは元の世界にあった普通のメガネではなく片眼鏡。
しかもそれは視力補正のためではなく、遺物の特性をはかるためのモノ。
鑑定眼のアイテム版と言えなくもない。
だが、その片眼鏡は魔力の度合いや属性が色でなんとなく分かる程度のもの。
オレの鑑定眼には遠くおよばない。
「あなたが、リテラルからの使者ですか?」
「お、お前は!」
問いかけたオレをみ、まるで幽霊にでも会ったかのような表情で声を挙げる男。
「どこかで会いましたっけ? たぶん初対面だと思うのですが……」
「あ、いや、なんでもない。ただ、昔の知人にあまりにも似ていたものでな。
……教会も趣味の悪いことをする」
「教会?」
「こちらの話だ。私はリテラルの『ウィーラー』という者。
今日は君に鑑定してもらいたいものがあって来た。
これを見てもらえないだろうか」
と早口ぎみで一方的に語ると、オレに指輪を差し出す。
少しムッとしないでもないが、気を取り直して鑑定眼で見る。
レアリティはランク4。国宝級と言ってもいい高レアアイテムである。
そこいらの鑑定士ではどうにもならないだろう。
なるほど、オレを訪ねてくるわけだ。
といっても、自分も大したことはわからないかもしれないが。どれどれ……。
「……変化の……指輪?
どうやら、他人に化けるアイテムのようですね」
だが高レアアイテムらしく、鑑定内容は名前とレアリティと簡単な説明くらい。
使い方すらわからない。
それにしても、アイテム名を口にしたが反応が薄いな。
てか、どういう鑑定結果が出るか、ある程度予想がついていたようにみえる。
「その指輪、制作者は分かるか?
それは『メリオール』となっていないか?」
鑑定物に関しての知識を得ると、鑑定眼で見えることが増える場合がある。
さっそく説明欄に制作者名が追加された。
「そう、制作者はメリオールですね」
「やはりそうか! それで、他に分かったことはないか?」
「……ないですね。
分かったのは『変化の指輪』という名前。
他の人物に変化できる指輪であること。
あと、制作者はメリオール。
それくらいです」
男はオレの答えを聞くやいなや指輪を懐に戻して、
「助かった、礼をいう!
料金はあとで機関に直接請求するといい」
と、足早に部屋を出ていこうとする。
仕事としては十分だが、後学のためにもう少し見てみたい。
「ちょっと待ってください!
もう少し状況を説明してもらえませんか?
自分がアイテムの情報を知ればより精度の高い鑑定ができる可能性があります」
オレの言葉にウィーラーは振り返り、失礼、と短く詫びて説明を始める。
話を聞くに。
古の時代、メリオールという男がほぼ完全に他者に変われる装備を作り上げた。
変化の指輪はそのうちの一つらしい。
他にも剣、盾、鎧、兜の四つが存在するが、見た者はいないそうだ。
「声や感触、対象者の簡単な知識まで、見分けの付かない模倣のできる魔法装備。
それがメリオール装備と伝えられている。
……残念だが我々が知っていることも、この程度だ」
「なるほど。随分と珍しいアイテムですね」
「そうだな。
今でも見かけを変えるだけのアイテムならあるが、見破るのは難しくない。
なのに、こんなものが世間に多く出回ったら、社会の根幹が崩壊してしまう。
……それで、なにかほかに分かったことはあるか?」
もう一度渡された指輪を鑑定眼で見てみるが、特に鑑定結果は変わらなかった。
それを聞くとウィーラーはふと思考にふけたあと、オレに話しかけてくる。
「それは君に預けておく。
もし他にも新しい情報が得られたら教えて欲しい」
仕事の範囲を超えているとは思うが、やぶさかではない。
だけど、
「いいんですか? 勝手に売っぱらってしまうかもしれませんよ?」
ちょっといたずら心が湧いて軽口を叩くと
「そうだな……確かにそうかもしれない。だが……」
ウィーラーはなにを言おうか考えあぐねるそぶりを見せ、
「やれるものなら、やってみるがいい」
一言だけ残し店を出ていった。
終始仏頂面だったが、去り際だけは挑発的な笑みを浮かべたような気がする。
大した鑑定もできなかったと思うが、どうやら信用してくれたようだ。
あるいは、オレに似ているという昔の知人と無意識に混同してるのかもな。
なんとなく渡された指輪をもう一度鑑定眼で見てみる。
情報に追加はなかった。
ちぇっ、使い方が分かれば試しに使ってみたのに。
残念に思いながら指輪を懐にしまった。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




