辿り着けずとも、作れるものが
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一度テーゼと別れ、自室に戻った。
椅子に腰掛ける。
四人か。
まず、テーゼは外せない。
ニャキもいなければ意味がない。
あとは――イヴもだろう。
で、ここに俺を入れると四人だが……。
部屋のドアが開き、セラスが戻ってきた。
ピギ丸とスレイも一緒だ。
「お戻りになっていたのですね」
セラスに今回の件――エリカの家を訪問する件を話した。
話を聞いたセラスは、
「であれば、残る一人はトーカ殿が行くべきかと私は思いますが」
「ピギッ」
「パキュ」
ピギ丸とスレイも同意を示した。
自分たちは使い魔を通しリズと間接的に交流している。
だから我慢できる、だそうだ。
「それにです。イヴの話を聞く限り、今の魔群帯であれば転移術がなくとも以前より移動はしやすそうですから。この機会を逃したら二度とエリカ殿と会えない、ということもないかと」
スレイと、そのスレイを変身させられる魔素を持つ者。
センサー役や背後の”目”になれるピギ丸。
起源霊装を持つセラス・アシュレイン。
このメンバーが揃えば、今の魔群帯なら移動もしやすいか。
「セラス」
俺は立ち上がり、
「エリカの家から戻ってきたら、大事な話がある」
一瞬、セラスは表情を硬くした。
けれどすぐに目もとを緩め「はい」とかすかに頷く。
そしてセラスは、
「かしこまりました」
覚悟――その先にある感情を受け入れたような顔で、そう微笑んだ。
▽
転移先のイメージの共有と調整。
城内の中庭には転移する四人以外も何人か来ていた。
セラス、ピギ丸、スレイ、そして高雄姉妹。
皆、エリカの家にいた経験のある者たち。
テーゼが一人一人と互いの額を密着させていく。
「単に経験や記憶の量が多い方がよいのもありますが、人数が多いとイメージに食い違いがあった場合、そのズレを修正し、調整ができるのです。ですので人数は多い方がよいのです」
イヴの持つ地図で位置関係も先ほど把握してもらった。
テーゼの力は万能感がある。
が、制約や手順を要するものも多いのかもしれない。
どれもこれも思い通りにとまではさすがにいかない、か。
イメージの共有を終えたテーゼが転移の準備を始める。
転移組が、指定された位置につく。
と、聖がイヴに話しかけた。
「あなたと会えるのは、もしかしたらこれが最後になるのかしら?」
高雄姉妹は近いうち送還の儀で元の世界に戻る。
だからイヴがエリカの家に残るなら、ここでお別れとなる。
イヴは穏やかな目をして、
「まだわからぬが、そうなるのかもしれぬな。ふふ……あの時、そなたたちを救えたのは我にとっても幸運だったようだ――イツキとの魔群帯での初遭遇は、穏やかなものではなかったが」
ぎこちない笑みで、ぺこっと頭を下げる樹。
「いや~……あの時は、アタシの早とちりから大変な失礼を……」
「ふふ。あの時ヒジリが来ていなければ……我々も、こうはなっていなかったかもしれぬな」
聖が微笑み、
「あなたには感謝しているわ、イヴさん。今こうして私がここに樹といられるのも、あなたのおかげだもの」
「それはお互いさまだ。トーカを見ていても、そなたの存在がこたびの勝利に大きく貢献したのはよくわかる。だからこそ、我からも礼を言わせてくれ」
「エリカさんとリズちゃんにもよろしく伝えてもらえる?」
「うむ、任された」
テーゼが「それでは、始めます」と言った。
桐原の場所へ転移した時のように、青白い光が俺たちを包み始める。
転移が、始まる。
最後に言葉を置いていくみたいに、イヴが言った。
「それではな……強き意志と覚悟を持った、心優しき異界の姉妹よ。これからも末永く二人、仲よくな」
「さようなら、イヴさん」
「アタシはあえて、まださよならは言わないぜ!」
イヴは愉快そうに低く笑いを漏らすと、
「そなたたちと出会う要因となったコバトにも、改めてよろしく伝えておいてくれ」
「おう!」
そう応える樹の隣に立つ俺は、セラスを見る。
「泊まっても一泊だ。すぐに戻る」
「……はい、お待ちしております」
視界が、白一色に染まった。
▽
「ちょっと……何ごとっ!?」
魔女の家から飛び出してきたなんだか懐かしい顔を見て、俺は軽く手を上げた。
「よう」
かつて禁忌と呼ばれた魔女。
彼女は手すりに両手をつき、紫の目を丸くした。
「……ト、トーカ? と……イヴに――あとは……どちらさま?」
今回の転移。
実は、エリカには知らせずに来ている。
驚くのも無理はない。
見た感じ、もう使い魔による過負荷の影響も大丈夫みたいだ。
そして、
「どうされたのですか、エリカ様っ――」
ぱたぱたとエリカを追って姿を現したのは、
「……あっ」
俺たちを認め、リズが動きを止める。
そして――
こちら側でも顔を上げてリズを認め、強く反応した者が一人。
「――ニャっ?」
杖を手すりに立てかけるエリカ。
小走りに、リズが階段を駆け降りてくる。
エリカはその後ろから、ゆっくりと降りてきていた。
リズは――息を弾ませていた。
やがて、直接会うのが初めてだった二人が対面する。
「リズちゃん……なのですか、ニャ?」
リズは使い魔の目を通してニャキの顔を知っている。
が、ニャキがリズの姿を目にするのはこれが初めて。
リズが駆け寄り、ニャキの両手を取った。
「ようやく会えたね……ニャキちゃん! いらっしゃい! 来てくれて、嬉しい!」
「はにゃニャ……っ! ほ、本物のリズちゃんなのですニャ!? はにゃニャぁあ~っ!」
照れているのか、ニャキは真っ赤になっている。
あわわと戸惑いながらも――ニャキが、リズの両手を握り返す。
「ニャ、ニャキもっ……こうしてリズちゃんとお会いできて、と、とっても嬉しいのですニャ!」
リズは俺を見て、
「ありがとうございますっ……ニャキちゃんを連れてきてくださったんですね?」
「俺としてはむしろ、これが最優先事項だったからな」
「トーカ様……、――おねえちゃんも、お帰り!」
「ふふ……今回のヴィシス討伐、リズは功労者でもある。本当に、がんばったな。そう――皆、がんばったのだ」
俺も自分の表情が自然と緩むのを感じ、
「俺たちの方は、あとでいいぞ」
イヴが、うむ、と続く。
リズは一拍あってから、はいっ、と感謝を込めて頷いた。
そして再びニャキに向き合い、頬を緩ませ、親愛に溢れた目で言った。
「あのね、ニャキちゃん……わたしもね、すごく会いたかった。えへへ……夢が、こんなに早く叶っちゃったな」
「リ、リズちゃん……あのあの、その……使い魔のリズちゃんと前に会った時のお話、ニャのですが……」
「うん」
おずおずと、ニャキは申し出た。
「改めて……ニャキと、あの……お友だちになってもらえたら……嬉しいの、ですニャぁ。じ、実はリズちゃんとお友だちになってあげてほしいと、前にトーカさんに頼まれていたのですが……ニャ、ニャキは……そのお約束とは別に、ニャキ個人の気持ちとして……リズちゃんと、お友だちになりたいのですニャぁ!」
靄でも払うみたいに、はっきりとニャキはそう伝えた。
するとリズは口もとに優しい笑みを湛え、ゆるゆると首を振る。
「ニャキちゃんは、変なことを言うんだね」
「は、はニャぁ?」
「改めてなんてしなくても……わたしは――――ニャキちゃんとはもう、お友だちだと思ってるよ?」
「――――ッ」
ニャキはゆっくりと、皿のように目を見開く。
そして……
「ふ、ふニャ……ふニャぁぁ……リズちゃん……! 嬉しい……そ、そんニャ風に言ってくれてニャキは……ニャキは、とっても嬉しいのですニャぁぁっ……ありがとニャぁぁああああ~」
歓喜と驚きに目を潤ませ、ニャキはさらに強くリズの両手を握り込んだ。
本当に嬉しいらしく、ふニャぁぁ、と激しく泣いている。
嬉しさが次々とこみ上げてきて抑えきれないのだろう。
そんなニャキを、柔らかく抱き締めるリズ。
そのリズの目も、潤んでいた。
「わたしとお友だちになってくれて、そして、こんな風に喜んでくれる人がいるなんて……わたしも、すごく嬉しい……わたしこそ――ありがとね、ニャキちゃん」
俺は、イヴと並んでそんな二人を眺めていた。
この時のことを考え、リズには使い魔との接続を切らせておいた。
せっかくニャキが来ても負荷でリズが体調不良じゃ、かわいそうだからな。
なので、適当に理由をつけて当面は休むよう言ってあったのだ。
もう一つの意図は――あえてのサプライズ演出、ってとこか。
イヴは腕組みをしているが、目尻には光るものが浮かんでいる。
「……なんだイヴ、もらい泣きか?」
「う、うむ……しかし……さすがにこれは、仕方あるまい……」
視線を戻し――眩しいものでも見るみたいに、俺は目を細める。
……きっと、俺には辿り着けない場所。
だが、あの場所までの道のりを誰かに作ってやることはできる。
リズとニャキのあの姿を見て、やはり心から思う。
よかった、と。
そして二人を見つめながら、まあ、と俺は口もとを緩めた。
「おまえの気持ちは、わかるがな」




