復讐の適性
王城敷地内のとある広場――午前。
白狼王とやり取りする十河を、俺は遠目に見ていた。
広場には氷漬けの桐原拓斗が縦に置かれている。
二人の会話の内容は聞こえない。
また、白狼王には一人お供がいた。
シシリー・アートライトという女騎士。
マグナルの白兎騎士団の団長とのことだ。
初めて広場に姿を見せた時、白狼王は肩を怒らせていた。
かなりガタイがいいのでズカズカ歩く姿は迫力があった。
物言わぬ弟の仇を見つけた白狼王は、
『こいつか』
刺すように言い、氷漬けの桐原を睨みつけた。
まず俺が事情を説明し、次に十河を紹介した。
白狼王はこれまで桐原や十河と直接の面識はない。
今回が初対面である。
ただ、もちろん白狼王はS級勇者の存在は知っていた。
白狼騎士団に桐原がしたことも、ちゃんと伝わっていた。
……皮肉と言えば皮肉かもしれない。
白狼騎士団の件。
ミラの者に頼み、遠因はヴィシスだと伝えてある。
おそらくそれを知った時、白狼王は反ヴィシス側に寝返った。
結果、やや早い段階でマグナルを完全に鞍替えさせられた。
白狼王は十河と問答を繰り返している……ように見える。
『私が一人で話してみたい。私自身の言葉で』
この広場に来た時の、十河の言葉である。
なので俺は介入せず形式的に立ち会っているだけ。
今のところ干渉の必要もなさそうだ。
……桐原拓斗。
”対ヴィシスにおいて障害となるなら排除する”
かつてはこれが絶対条件だった。
が、今は違う。
もう俺にはあまり関係ない存在と言えば、そうかもしれない。
だから今は、ひとまず”関係者”の当人たちに任せてみよう。
やがて――礼儀正しく白狼王に一礼すると、十河はその場を離れた。
十河はそのあと、俺と同じく離れて見ていたシシリーのところへ。
そして白狼王が俺に手招きをした。
近づくと値踏みする目で俺を見て、彼は言った。
「さっきも思ったが、噂の蠅王がこんな若い勇者とはな。未だに信じがたい」
俺は離れた場所でシシリーと話す十河を見やり、
「アヤカ・ソゴウとの話し合いが終わったようですが、いかがでしたか?」
白狼王は、ふん、と大きく息をついた。
「あれは、難儀な娘だな」
「――なるほど」
「邪悪を知りたいだの学びたいだのと言ってはいたが……本音は、せいぜい半分くらいだろう。完全な邪悪と判断できないうちは無闇に死の判決をくだしたくはないし、これ以上の人死にも起きてほしくないのだろうな。まあ――ただの目の曇ったバカでないらしい点は、評価できる」
……過去にヴィシス側についていた人物の割には。
失礼を承知で――まともな感性寄りの人物に見える。
「ですが、よろしいのですか? タクト・キリハラは、その……あなたの弟君の仇なのでは?」
「……正直、拍子抜けなところもあってな」
白狼王が氷漬けの桐原に近づき、雑に手の甲でその表面を叩く。
「こいつがこんな状態でなければ、問答無用でその場で斬首くらいは思ったかもしれん。が、この状態が解除されるのが200日以上も先ではな。それに最初、ミラ帝都の地下で弟の死を聞いた時は狂おしいほどの復讐心に身を焦がしたが……時というのは、恐ろしいものだ」
「時間の経過と共に怨恨も薄れた、と?」
「あんな過酷な戦いを間に挟んでしまったのも、よくなかったのかもしれん。おれはこれまで異界の勇者と直接関わる機会がなかった。しかし、今回のアッジズの戦いでトモヒロ・ヤスと共に戦った。そこで毒気を抜かれた部分もあるのかもしれん。その上級勇者については元々あまりよい評判は聞いていなかったのだ。だがいざ共に戦ってみれば……まったく、あの勇者の覚悟と戦いぶりには心底度肝を抜かれたぞ。あれこそ、今のおれにとっての”勇者”だな」
「…………」
白狼王は再び氷の表面をコツリと叩き、口の端を軽く上げた。
「ああ、勘違いしてもらっては困るぞ? 別にトモヒロ・ヤスの活躍でこの阿呆を許す気になったというわけではない。ただ……時間の経過というのは恐ろしいものでな。憎しみに限らず感動もだが……人の感情の最大値とは、普通はなかなか持続せんのだ。いや、時間が癒やす力を持っているからこそ……人は辛い記憶を和らげながら、再び立ち上がれるのかもしれんが」
「要するに……あなたはアヤカ・ソゴウの願いを聞き入れ、タクト・キリハラがそのまま元の世界に戻るのを許す、と?」
「まあ……そうなるか」
「半年以上待てるのでしたら、自動的に死へ追いやる方法もあるかと。たとえば海に沈めたり、火山に放り込んで、ゆったりとワタシのスキルの解除を待つという手段も――」
「ふっ、なかなか趣味の悪い考えをするのだな蠅王。いや……元の世界に送り返してくれるのであれば、おれはそれでいいとも思うのだ。もう関係したくない――この世界にこの阿呆が半年以上も残っているという事実自体、いい気がしなくてな。そう、半年以上先に死ぬとしてもだ。それに……その氷漬けの能力、聞けば高位の神族とやらでも解除できぬのだろう? ならば今後、何か想定外が起こるかもわからん」
「そんな不安要素を残しておきたくはない……ならばさっさと送り返してしまいたい、と」
「うむ。それにな……ソギュードのやつも望むまい。この白狼王が半年以上も頭の隅に復讐心を残して過ごすくらいならば、国の復興だけを考えてくれと――あいつならきっとおれを、そう叱る。復興のためにやることは山積みだ。そして王としては、民の復興への士気を支えながらそれを主導していかねばならん」
それにな、と白狼王は続ける。
「王族などやっていると……誰々があいつを貶めた、暗殺したなんて話は王宮でもざらに起こる。そんなものだ、国などというものは。輝かしい歴史であっても、ひと皮剥けば怨みつらみの世界だ」
だから慣れている、と。
そう言いたいのだろう。
ただ、自分の弟となれば別だろうに。
……が、一方で理解もできる。
復讐するくらいなら先へ進むべきだ、と。
まずは国民を未来へと導くことに、全力を注ぐべきだと。
それが――王としての責務であり思考、か。
復讐とは、過去に引っ張られている行為だ。
未来を見ている者には不要な”毒”とも言える。
復讐に囚われていては――先には進めない。
確かに、そういう考え方もある。
俺もその考え方を否定はしない。
たとえばイヴやリズなんかは、未来へ進むべき側だ。
……ま、俺個人としては復讐の有用性を否定もしねぇが。
それから――
”感情の最大値は、なかなか持続しない”
これもある意味、真理かもしれない。
本来、持続できる方が異常者なのだ。
皆、忘れていく。
忘れ――癒やされてゆく。
あるいは、人間の防衛本能のようなものか。
ビシッ、と。
白狼王が、俺に指先を突きつけた。
「言っておくが……おれがそう納得しても、死んだ弟自身は本当は復讐を望んでいるかもしれない――そんな野暮なことは、言ってくれるなよ? それはな、我が弟に対する侮辱でもある。あいつの妻のディアリスを除けば、あいつのことはおれがこの世界で最もよく知っている。ディアリス以外の他のやつにこの件であれこれ言われるのだけは、我慢ならん。まあ、あいつならば……自分の代わりにディアリスと我が子を守ってやって欲しいとは願うだろう。そしてそれに従うなら――あの阿呆はさっさと元の世界に突き返すのが、やはり正解なのだ」
「あえて聞きますが……彼の妻は承知しているのですか?」
すると白狼王は指と共にトーンを下げ、頭を掻く。
「身重だからディアリスはアッジズに置いてきたが……仇の話はしてある。その上で、復讐は望まないそうだ」
彼女は話を聞き、自分の腹を見てこう言ったという。
『たとえそれが一日であっても……復讐のことを考える母の中で、この子を育みたくはないのです。それに……仇を討ったとて、あの人が生きて戻ってくるわけでもありません。ソギュードも――仇討ちを考えるより、この子を健やかに産み育てるのを優先してくれと……きっと、そう言うでしょうし』
「……ご立派な、かたですね」
白狼王は十河と話すシシリーを親指で示し、
「ディアリスの妹のアレは『そうですかねぇ? 多少時間がかかろうが復讐はきっちりした方が、わたしはスッキリすると思いますけどねぇ~』などと言ってたがな」
ちなみにヨナトの聖女は、シシリーの昔からの友人だったそうだ。
そして間接的に、ヴィシスは聖眼防衛戦でヨナトの聖女を殺している。
シシリーはここに到着してヴィシスの末路を知ると、
『しっかり絶望した上で今後も過酷すぎる罰を受けると知って、ちょっとだけスッキリしました。なんと言いますか――心から、ざまぁみろって感じですね。一生死ぬほど苦しんだ末に、ブザマ極まりない死を迎えて欲しいところです』
そう語ったらしい。
とびきりの、笑顔で。
「…………」
なんとなくの印象なので、失礼かもしれないが。
あのシシリー・アートライトという女。
物腰も柔らかく品のある印象。
容姿についてもかなりの美人と言っていい部類だろう。
笑みも人を惹きつける、どこか浮世離れした魅力がある。
が……その本性は、相当な腹黒な気がする。
いや――もちろん俺の直感的な印象でしかないのだが。
なんだろうな。
若干、シンパシーみたいなものを感じる……気がする。
白狼王が、話を続ける。
「さっき感情の持続性の話をしたが……それこそ王ともなると、感情に振り回されてばかりもいられん。特に、悪感情となるとな。中でも復讐心なんてものは、その最たる例かもしれん。復讐心とは毒に似ている。扱い方を一つ間違えると……最悪、自らもその毒に侵されかねん。そういう意味で言うと、復讐とは……扱う資格と才覚のある者にしか適さぬ感情であり、行為なのだろう」
「…………」
これが――普通だ。
過去はあくまで過ぎ去ったものとして次第に距離を取る。
自分の感情を納得させて忘れる方が、よほど賢くて。
時間が癒やしてくれるだろうと――期待する。
復讐に身を焦がすくらいならば。
本来は自分が幸せになるのを、優先すべきで。
むしろ。
忘れて幸せになることが――最大の復讐、とも言える。
……てのが、よく耳にする定型句だ。
が、これが”表の正解”なのは今後も揺らぐまい。
しかし、なるほど――
白狼王の考え方には、一定の説得力がある気がする。
”復讐は人を選ぶ”
つまり、復讐には向いている者と向いていない者がいる。
たとえばイヴ・スピードで考えるなら。
確かにあいつは――復讐には、向いてない。
が、
「……ワタシは」
俺は、言った。
「ワタシの心を痛める形で善者の尊厳を踏み躙った者が、なんの罰も受けずのうのうと暮らしているのがとても不快です。せめて踏み躙られた者と同じくらいには、苦しんで欲しい。身勝手な私刑でもいいから、同じ目か、それ以上の目に遭わせてやりたい。そう……我慢が、ならないのです。法や世間の観点から見て、正しいか間違っているかではなく……俺が、納得いかないのです。別にこの世のすべてがそうあるべきとは思いません。しかし俺は、俺の手の届く範囲くらいはこの”ざわめき”を鎮めて生きたい……溜飲くらいは下げたいと、そう思ってしまうのです。自己満足では、ありますが」
「それは――そうだろう」
「?」
その時だった。
白狼王が突然、氷漬けの桐原を激しく蹴った。
そして、
「だから――本当ならおれだって、こんな阿呆の首は即刻たたっ斬ってやりたいのだ! ふざけやがって……このクソガキが! ヴィシスのせいにもさせんぞ!? そんな逃げ道を残してやるか、このボケめ! 貴様が自分の判断でおれの弟を殺したのは事実だろうが! 白狼騎士団の者たちのこともだ! 同情の余地とかいう避難場所に逃げ込むのも、絶対に認めん! おまえがしたことは、確かなおまえの罪だ! このクソゴミ勇者! 死ね! くたばれ! 一生、死ね! 死に続けろ! 一生貴様がつまらん人生を送ることを心の底から願ってやまんぞ、おれは! 一生、苦しんで生きろ! そうだ! 一生、おれは貴様を許すつもりなどない! 元の世界に戻って記憶を失ってもしっかり覚えとけ、このクソ外道のカス勇者がぁぁああああぁぁぁああああああっ!」
何度も――何度も。
げしげしっ、と。
どすどすっ、と。
白狼王は氷漬けの桐原を、蹴りに、蹴りまくった。
氷は先ほどぐらりと揺らぎ、すでに地面に倒れている。
ごろりと地面に転がっている氷漬けの桐原。
白狼王は罵声を伴いそこへ追撃をかけ、足蹴にし続けた。
十河もシシリーも、何ごとかと呆気に取られている。
罵倒に次ぐ罵倒をしばらく浴びせたあと――
白狼王は、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。
最後に彼は氷の表面に「ぺっ」と唾を吐きかけた。
そして、ふん、とちょっとだけ溜飲を下げた様子で息をつく。
「おれも別に、納得などしておらん……最適解とおれの感情は、別だからな。氷漬けになっていようが――こうして溜まった感情くらいは吐き出させてもらわんと、割に合わん」
「あなたは……正しく、大人ですね」
折り合いのつけ方を、よく知っている。
「ふん……おれにも、ヴィシスの肩を持つ側だった失点がある。ただ少し弁解をさせてもらうなら……根源なる邪悪が降臨すると、地理的にほぼ毎回マグナルは最前線となる。そうである以上、異界の勇者を召喚できるアライオンに楯突くわけにはいかないのだ。が、どう言い訳をしようとヴィシス側に与していたのも事実。現実と感情とは……なかなか折り合いをつけるのが、難しい」
それにな、と十河の方を振り向く白狼王。
先ほどの激昂の直後だからでもあるのか。
自分の方へ視線が向けられた時、びくっ、と十河が震える。
「直接会ったのは今日が初めてだが……魔防の白城戦の話は、生き残ったマグナルの者からおれも聞いている。おまえたち蠅王ノ戦団が駆けつける前、アヤカ・ソゴウは必死に戦っていたと……勇者アヤカが人面種を倒し、側近級の相手を引き受けてくれていなかったら、自分たちは今ここにいなかったかもしれない、とな」
俺も、十河を見る。
……だから、言っただろ。
おまえは救ってもいる。
感謝してるヤツも、いるんだよ。
「桐原の件の判断については、そこも加味されたということですか」
「多少はな」
ちなみに、と俺は切り出した。
桐原が俺との戦いにおいて完全敗北したこと。
そして――桐原は屈辱の中で氷漬けになった、と。
「……そうだったか。であれば、おれの溜飲もより下がるというものだ……ふむ、そうか。礼を言うぞ、蠅王。それを聞けてよかった」
「いえ……ワタシはただ、桐原に容赦なく事実を叩きつけただけです」
「ふはは、だからこそ痛快なのだろうが」
すると白狼王が、そこで不意に表情を変えた。
「ところで蠅王……折り入って、おまえに相談があるのだが」
「ワタシに?」
「この女神戦役とも呼ぶべき戦いで、おまえは最上位とも呼べる功労者らしいな?」
「第三者的には、そのような評価もあるようです」
「あのアヤカ・ソゴウの要求は呑んでやる……その上で、だ。我がマグナルは女神ヴィシスを擁したアライオンに対し、賠償を請求する」
「……ワタシに、その口利きをして欲しいと?」
「話が早くていいな。そうだ。我がマグナルの復興予算を、賠償という形で太っ腹なほどに組み、数年に渡る継続的な復興支援を約束させてくれないか? 別に、国庫を空にしろとまで要求しているわけではない。根源なる邪悪に対し地理的にほぼ最前線となる国に対し、今後も便宜を図ってしかるべきではないか――と、そう提案しているのだ。今の蠅王ならそのくらいの要求、通せる立場にあろう?」
「まあ……ヴィシスのあれこれを考えれば、アライオンはある程度の責任は追求されるでしょう。そこにかこつけての”提案”くらいは、ワタシの立場でも通せるかと」
にやり、と笑む白狼王。
「我が国の目覚ましい復興こそ、今は亡き弟の望みだろうからな。そしてそれはディアリスとの子を豊かに育み、守ることにもなる。ならばおれはキリハラの件で妥協の姿勢を見せ……その見返りとして、亡き者との約束を果たす」
さらに白狼騎士団員の遺族にも手厚い賠償を要求するとのこと。
復興支援の中に組み込んでもらいたいそうだ。
白狼王は靴のつま先で、ゴッ、と氷漬けの桐原を蹴った。
「遺族たちはおそらく、いかにして白狼騎士団が全滅したのか正確な経緯を知らん。だから”白狼騎士団は今回の一連の女神戦役において、この世界を守るべく戦い、貢献し散った”――そういう、名誉の死だったことにする。無意味な死として残るより、いくらかマシだろう」
▽
白狼王たちはこのまま数日間、エノーに残る。
各国の代表者らによる会議が行われるためだ。
会議では大陸全土の今後のことや、後始末について話し合われる。
したたかなのは、バクオス帝国だ。
バクオスの皇帝は会議への不参加を表明。
理由は”今回の件で何も貢献できていないから”。
実際、バクオスは国として最後まで態度を曖昧にしていた。
が、皇帝の代わりとしてバクオスの黒竜騎士が会議に参加するという。
ガス・ドルンフェッドという男である。
五竜士亡きあと急ごしらえで結成された三竜士。
しかし発足して間もなく、魔防の白城戦でうち二名が死亡。
そのため、ガス・ドルンフェッドだけが生き残っていた。
以降、黒竜騎士団を一人で率いてきた男だとか。
聞けば性格面も、あの国の竜騎士にしては誠実な方だそうで。
バクオスに対しては思うところがあるだろうカトレア。
だが、その竜騎士に限っては彼女も信頼を寄せているようだ。
魔防の白城戦でもネーア軍と共に決死の突撃を敢行している。
女神討伐軍にもずっと黒竜騎士団を率いて参加していた。
その竜騎士は、今回の神創迷宮突入にも参加している。
そんなわけで。
いい意味でも悪い意味でも、バクオスの皇帝は小賢しい。
バクオスの皇帝では会議での発言力はおそらく皆無に等しい。
一方、ガスという男のこれまでの行動を鑑みるならば――
これは、他国も耳を貸さないわけにはいくまい。
で、俺はといえば――
別に会議に参加する必要はない。
となると……一つ、テーゼが帰る前にしておきたいことがある。
このタイミングが、ベストだろう。
俺は手土産を持ってヴィシスの研究所に赴き、テーゼに会った。
「この前の転移なのですが……転移先の場所のイメージができれば、もっと簡単だとおっしゃっていましたよね?」
「その前に一つよいですか? もぐもぐ……この美味しーは、なんという名の食べ物なのでしょう?」
「抹茶のシュークリームです」
「まっちゃ……マッチャとは、なんですか?」
「茶の一種です」
「シュクリムは?」
「正確には、シュークリームです」
「しゅー……くりーむ」
れろり、と。
親指についた緑のクリームを、丹念に舐め取るテーゼ。
「……困りましたね。美味しすぎます。ええっと、それで――転移……転移ですね? ええ、場所のイメージの共有と調整ができるなら精度は上がりますよ。うーん、吸い上げた転移陣の存在耐久的に……あと三、四回くらいであればいけるかと」
「転移したい場所が、この前のように移動していない……その条件であれば、何人くらいまで転移が可能でしょうか?」
「わたくしが足を運んだ経験のある場所ではないので、そうですね……人数が増えるとブレも出ますし、わたくしを含めて五人――いえ、万全を期して四人としておきましょうか」
「なるほど」
「わたくしの力を借りて、転移したい場所があるのですね?」
ええ、と俺は頷く。
「直接会わせてあげたい者が、二人ほど。それと……報告がてら――そろそろ笑顔を作れるようになったかどうか、確認してみたい者がいまして」




