『君も小説家だろう!?』に投稿すべき時がやってきた……のか!?
「おなかがすいてしにそうです、そのサンドイッチください」
そうか! あの時のサンドイッチはこの為の仕込み……。
桃太郎じゃあるまいし、旅のお供なのか?
うぅむ。今度の奴は少しは強そうな……と言いたい所だが、ドットの粗い二頭身というビジュアルからは何の情報も得られなかった。
ただ、読点があるという事はきっと高等な教育を受けて来たに違いない。この村以外の都会から来た可能性が高い。期待大だ!
……ったのだが。結局のところ何を聞いても同じ事しか言わないのは変わらず、期待は直ぐに失望へと変わった。
この“男アーニャ”の加入により、東へ五歩の旅は果てしないものとなった。
エンカウントと言う表現もむしろ虚しい程、この五歩地帯は凶悪なモンスターが溢れかえる地獄であり、僅かでも動けば途端にバトルに陥る。
“男アーニャ”は回復呪文を持っていたが御多分に漏れず戦闘不能の常習犯。
しかも戦闘不能になるとゾンビ化して攻撃力アップ。俺を襲ってくるというおまけ付き。
結果、この“だるまさんが転んだ”でも、お荷物を背負っている俺は『回復呪文』も『薬草』も無いまま、約二十日間を費やした。
もう……帰りたい……。
BGMと効果音以外の、他人の声が聴きたい……。
そして二十一日目、棺桶を引き摺りつつも命からがらの俺は、とうとう城へとたどり着いた。
「待っておったぞ! 勇者高田よ!」
「王様は普通に喋れるんですか!?」
城下町でも城内でも話す奴なんていなかった!
ただ、お城っぽい音楽が流れるだけの世界だった!
誰かと話すのがこんなにも嬉しい事だなんて初めて感じた。
今なら営業に行っても話せる気さえする……。
「随分と時間がかかった様だが、どないしたのじゃ」
「王様! 俺にはとてもじゃないけど、この世界を救うのは無理です! てか、救える奴なんているんでしょうか! 〈最強〉のチート付けとけばよかったんでしょうか!? ラスボスまでたどり着くには後どれくらいの道のりなんでしょうか!?」
「うーむ。オープニングからここまでの約三百二十五倍程度であるぞ」
「……。マジすか」
「無論マジだ!!
あれ? 泣いてます?……無理そうですか?」
「無理そうじゃないよ! 無理! 絶対に無理! こんな環境にあと三百二十五倍なんて無理っ! 百倍までだって無理! 精神を病まない事も無理! 勇者じゃなくて患者になるよ!
だいたい、おまえホントに王様なのか!? 何かキャラ定まってないし俺の事“高田”って呼ぶやつ、ここにはいない」
「わしは通いの管理人でアール。この世界の理なのだ」
「嘘くさい。お前、誰だ?」
「高田様。意外と鋭いんですねぇ」
「お前……。小野妹子か?」
「流石高田様! 洞察力が神レベルですっ! お察しの通りワタクシ、高田様の担当を務めさせて頂いて居ります小野妹子でございます。高田様がどうされていらっしゃるのか! ワタクシもう心配で心配で!」
「嘘言え。俺はもうひと月近く命のやり取りをしてるんだ! 前みたいに簡単に騙されたりしないんだよ!」
「……それは頼もしい。よろしいでしょう、今回はモニター調査の意味合いもありましたので特別にリタイアを認めさせて頂きます。ですが……」
「何かあんのか!?」
「高田様のご契約は〈完結保証〉割引が適用されておりますので、エタられますと違約金が発生致します」
「聞いてない! そんな事っ!」
「契約の際、注意事項等と一緒に裏面に書いて御座いましたのに……。お読み下さらなかったのですか?」
「読んでねーよっ! ああ! あんな小さい字で書いてあるもんなんか、電車ん中で読めるかっ!」
「それは残念です。電車の中では高田様のようなきちんとした方でもうっかり見落とされてしまわれるのも無理はありません。ですが、契約書にサインを頂いて居りますので……申し訳ありませんが」
「…………」
「どうなさいました高田様。お顔が真っ赤ですよ」
どうせ、何を言っても無駄なんだ!
逆らっても帰れない!
そしてっ! もうこんな世界になんか一秒も居たくない!!!!!
「その違約金て、いくらなんだよ!」
「今日までの未払い分と合わせて、三千八百二十二万とんで二円で御座います」
「はあっ!?」
「ご用意いただけますか?」
無理だ……。俺の全財産は十万円程度、給料日にはあと半月ある。尤も、給料入っても焼け石に水だけど。
「ローンって訳には……」
「参りませんね」
「じゃあ! この経験を執筆して作家デビュー。書籍化した印税で支払うのはどうでしょう!」
王様は冷たい目で俺を見た。多分。細かい表情は解かんないけど。
「可能性あると思うんですよ!『君も小説家だろう!?』からプロになった人もいるし、時代は今ブラックを求めてますから! 最近は企業だけじゃなくバイトだってブラック流行りなんですから!『だろう』でもさすがにエッセイジャンルにはこういうブラック召喚物は無いですからね! 絶対に流行りますよ!」
「解かりました」
「ホントですか!?」
「では、作家デビューは現世へ戻られてからなさるという事で、今後のお支払方法についてこちらから提案させて頂きます」
王様がそう言うと同時に、ドラマで見た取調室みたいな空間でスチール製の机を挟んだ向かい側に、八頭身の小野妹子が座っていた。
俺も懐かしい六頭身の姿に戻っていた。
向かい側の奴さえいなければスタイルが良くなった気がするのに……。
「ここは?」
「勇者召喚プロジェクト事務所です」
「ここが!?」
「我が社は本来、死後転生者用の保険を扱う会社ですので召喚業務は試験的な物です。
ですので、この部署はまだワタクシ一人なんですよ。
今回、格安の異世界が売りに出されていたもんですから経営陣が事業拡大のチャンス到来とばかりに買取りまして、ワタクシがプロジェクトリーダーに抜擢されたのですが……やはり、設定が少々厳しすぎましたか。
今後は高田さんのデータを分析して最適な“生かさず殺さず”を目指しますね。
ご協力のお礼に、お支払いの方は赤字覚悟の大特価! 三千五百万に勉強させて頂きます!」
「三千五百万なんてありませんっ! 無理ですっ! 俺、自己破産しますっ!」
「現世の自己破産は適用されません」
「じゃぁ、いったい……」
「方法はただ一つ。『チート保険』の外交員として俺の下で働くんですよ。
大丈夫。俺も高校生の時、猫を助けようとしてトラックに轢かれちゃってね、転生先は現世。内戦の激しい地域だったもんだから直ぐ死んじゃって……その後も色々あって残った保険の支払いのために外交員始めたんですけど、もう六年これやってます。結構楽しいですよ! 容姿端麗保障付ですしね」
「容姿なんて、同性ならむしろ良くない方が……」
「それがそうでもないんですよ。お客様に夢見せてあげるのは大事です。
とんでもなくセンスのない格好をした人に服選んで貰う人いないのと一緒。
これで契約者の八割が〈容姿端麗〉オプション付けますから。
我が社の商品は夢ですからね! でしょ?
まぁ、高田さんは俺と違って帰る所あるんだから頑張って契約取って来て下さいよ! はい、これ高田さんの名刺ね!」
彼はそう言って『小野妹子』と書かれた名刺を差し出した。
「これは?」
「ここの外交員は全員が小野妹子なんですよ。出入りも激しいし名刺作るの面倒だから。みんな前世の名前覚えてないんで男女共通の名前って事らしいんだけど、紛らわしいから普段は適当。これからはリーダーって読んで貰うって事で……おっと! カモ登場だ。高田さん! 契約取って来て!」
「いきなり? 無理ですよ!」
「大丈夫、大丈夫。ほら、何だかすごく現状に不満そうな顔してる人いるでしょ?」
見るとスチールデスクの上に一人の男の顔が写っている。
「こういう人は大概話聞いてくれますから。くれぐれも利口そうにしない事ですよ!」
リーダーが“頑張れ”と両手を握ったポーズで俺を送り出す。
気付くとカモと二人、夜の電車に揺られていた。
窓に映る俺は別人。そうそうこれだよ、容姿端麗ってのは!
なんか、俄然やる気が湧いてきた。
長いこと誰とも話して無かったからか、とてつもなく誰かと喋りたい。
今日の俺は未だかつてない程、営業マンとして燃えている。
そうそう、帰ったらリーダーに“アーニャ”はもうちょっと防御力を上げるべきだと進言せねばなるまい!
その前にまずは契約だ!
「お客様。このたびは当選おめでとうございます!
ワタクシ、チート保険の小野妹子と申します!」
借金返済のためリーダーに内緒で投稿しました。書籍化狙ってますが……
何だかあまり評判良くないような……。
ここって、『君も小説家だろう!?』ですよね? あれ? あれれ?