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77話から一気にアップです

 

 

 

村での生活は、本当に穏やかで和やかで、僕らの旅の疲れを癒してくれるには最上級だった。

誰も僕らを見咎めたりする者はなく、半精霊だと気付いているのだろうファースの存在も、決して邪険にしたりはしない。

テイトは、僕の母と本当に上手くいっているようで、時々、何だか甘い雰囲気すら撒き散らしてくれている。

マルは、漸く戻ってきてくれたガルドにつきっきりだ。

そんな姿を見て、僕はそろそろ出立の時期が来ていると思った。

ガルドには悪いけれど、彼をこれ以上は巻き込めない。確かに、彼が居てくれた事が、どれだけ頼りになったか判らないし、これ以上の友人はこれから先出来ないだろうと思う程、彼のことを信頼している。

だけど――このマルの姿を見てしまったら、僕には二人をこれ以上引き裂くことが出来そうにないのだ。

 

「それでも――彼は一緒に行くと言うだろうな」

「だろうね……だけど、彼も家族が必要だと思うんだ――マルには特に……」

「あの男は、そんなものよりも、今はお前の存在の方が大事だと言うだろうに……それでも置いていくつもりなのか?」

「――本当はね、一緒に旅が続けられたらって思うんだよ、僕だって……」

「なら、いいじゃないか――あの男のことだ。何を言っても付いて来るだろうしな」

 

いつもの言葉遣いで、少しだけ仰け反りながら話をするファースは、常に僕と同じ部屋に居る。

王都を出て以来、僕らはずっとこうしてよく話をするようになった。

 

「でも――」

「セイに話をする予定だったんだろう?先に、それをする方が良いぞ?」

 

そうなんだけど――と、少し膨れて見せれば、ファースは呆れたように僕を睨む。

 

「お前の悪い癖だな――何でも、勝手に決めようとする――それは、ある意味で裏切りにも値するぞ?」

 

そう言われて、ズキリと胸が痛んだ。

嗚呼、そうだよね――確かに、その通り……なんだけどさ。

 

「判った。明日、ガルドと二人でセイのところへ行ってくる」

「そうしろ」

 

ムスリと言ったファースは、それでも優しい目をして僕を見ていた。

その目が言っている――人を信じろ――と。

 

 

 

翌日には、僕とガルドとでセイの館に行き、旅の相談をすることにした――のだけれど……。

 

「何か問題でもあるか?嗚呼、このガルドの食欲か…一応、それなりのお金は渡しているつもりなんだがな」

 

なんて、ノンビリと言われてしまった。

しかも――。

 

「このガルドを置いていかれると、私も困る――貴方に何かあった時には、是非とも手伝いたいのだからね――ガルドが傍に居れば、今はどの辺りで、無事に居るのかどうかくらいは判るのだ。同じ妖魔の血が入っているのでね」

 

と、然も困り顔を見せるセイに、僕は少しだけウンザリしながら溜め息を吐く。

だって――そんな言い方って…ないよ。散々、これでも悩んできたのに……。

 

「な?言っただろ?セイは俺を止めねぇって」

 

隣りに座っているガルドは、やたら自信満々に言い放ち、僕を更に呆れさせてくれた。

 

「とにかく――また、困った時に使えるように、玉を作ってある――それと、今回はファースも一緒だから心配はないと思うが――彼女も、どうやら貴方に付き纏うつもりのようだしね」

 

セイは、大きく笑い声をあげて、そんなことを言い出す。

ああ――うん、そうだね…それも、僕は受け入れたんだもんね……。

 

「ったく――ファースのことは、とっとと受け入れて俺を受け入れないってのは、どうかと思うぜ?!」

「だからっ!その事は何度も説明したじゃないか!」

 

つい、思わず、ガルドに向かって怒鳴ってしまう。

今までにも何度となく、こうして彼には自分の感情を見せられるようになった最近。

特に、ここ数日は、こんな風に会話をすることが多くなりつつあって……。

 

「はいはい――お前達の言い合いは、ここではなく外でおやりなさい。私は、ガルドが一緒に行くのを止めるつもりはないよ?ああ、そうそう――テイト達もまた、ガルドが一緒に行くつもりで考えているからね」

 

そう言われて、僕らはセイの館から追い出されてしまった。

まったく――何で、こんなに簡単なの…と、一人心の中で愚痴りながら、けれど少しだけホッとしてる自分に気付いた。

本当には――そう、一緒に旅を続けたかったのだ……それが本心。

 

 

そうして、僕らはテイトの家に戻り、旅に出ることを話せば――当然だけれど、テイトも母も『気をつけて』と笑いながら背中を押してくれた。

だけど、一番の心配はそこじゃなくて……。

 

「マル?」

「――兄ちゃんも……姉ちゃんも行っちゃうのか……狡いなぁ……」

 

と、やっぱり消沈気味で……。

 

「莫迦だなぁ。その代わり、帰ってくる時には、またお土産一杯だぞ?!」

「そう……だけどさ……」

「何だよ、ハッキリ言ってみろって」

「だけど……僕も……」

「何だ?」

「僕もアンジーと一緒に行きたかったっ!」

 

と、真っ赤な顔をしてマルは叫ぶと、そのまま自分の部屋に飛び込んで行ってしまった。

そして……。

 

「まったく、マルのやつ……まあ、気にするな。あいつ、アンジーのことを随分と気に入ってたんだよ…綺麗な姉ちゃんが増えたってな」

 

そうテイトが言うと、その隣りで母が苦笑していた。

何よりも、ガルドは思い当たるらしく、ふふんと鼻で笑い、ファースは……ただただ、無表情のまま――。

何ていうか、思ってもいなかったことだったもんで、僕一人が驚き、戸惑い、そして慌てていたと思う。

ああ……それでも、何だか凄く嬉しいな…。

僕は、マルにお姉ちゃんと思ってもらえていたんだ……。

そんな感動も、少しあったりして――実のところ、僕は凄く喜んでいたみたいだ。

 

 

 

数日後、僕らはそんな彼らに見送られ、旅へ出ることにした。

行く先は、ファースの母国があるムールス大陸。

そこの、ムールスタインという大国だ。

 

「では、行ってきます」

 

僕がそう元気に言えば、母を初め、見送りに来てくれた人達が笑って手を差し出してくる。

それに答えながら、僕は新しく出来た可愛い小さな友人の頬に祝福のキスを送る事にした。

母もテイトも、そんな僕を温かい目で見ていてくれる。

マルは吃驚した顔をして、だけどその後にはまん丸な目に大きな涙を盛り上げて――だけど、必死に笑顔を作りながら、『行ってらっしゃい』と言ってくれた。

 

セイは、前回にくれたものと同じ、術の掛かった石を渡してくれた。

もしもの時に使いないさい――と。

その言葉だけで、充分心強くて、僕は大きく頷きながらセイにお礼を言った。

 

 

そして―――僕らは、新たな旅へと出たのだった。

 

 

 

――孤独な竜【 第一部 】 ミード大陸の蒼竜 おわり――

これにて、第一部・ミード大陸の蒼竜の本編は完結となります。

このあと、3つほど閑話が入ります。

読んでくださったみなさま、ありがとうございました。

そして、長々お疲れさまでした。

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