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77話から一気にアップです

 

 

 

もう直ぐ新年を迎えるという頃、僕達はガルドの村に到着した。

母もテイトもマルも、こんなに長い時間掛かるとは思っていなかったのだろう――随分と心配していたらしく、けれど驚きながらも喜び、温かく迎え入れてくれた。

セイも――僕らの到着を知っていたのだろう、テイトの家で一息入れた頃に、その厳つい顔を見せにきた。

そして、少しの時間は皆との再会を喜び、祝い、疲れを癒すため、報告は後日ということになった。

もちろん、セイも話を聞かなくてはならないため、家族総出でセイの屋敷に行くということで――。

 

後日、僕らは約束通りセイの屋敷に顔を出し、母やテイトには今までの旅の話を――セイには竜と対面したときの話を報告した。

全てを話し終えたときには、既に夜にもなろうという頃で――途中、マルは疲れてしまったのだろう、食事をして直ぐにソファの上、というよりガルドにくっ付いて眠ってしまった。

 

「では――まだまだ、旅を続けなくてはならない、ということか」

「はい」

「まずは、どこへ?」

「――色々と考えて、そして竜とも話し合った上で、南の大陸へ……ムールスへ行く予定です」

 

少し躊躇いがちになってしまったのは、ファースが居たから。

何しろ、彼女の母国はムールスタインなのだ。

国外追放とはいえ、彼女はこの大陸にも身を寄せる場所はなく、結局のところはそちらへ戻る事にしているらしい。

だから――。

 

「私も国へ戻る予定ですから――迷惑かも知れませんが、一緒に行く予定でいます」

 

ジロリと睨んだのは、ガルド。

実のところ、この辺の事も色々と問題があった――というか、二人で言い合いを繰り返していたのだ。

 

「そうか――しかし、ファースは思った以上に早く目覚めたように思うが――?」

「その辺のお話は、まだ誰にも言っていませんが……貴方に、まずは癒しの籠を作ってくれた貴方には報告しなくてはならないと、ここまで来ました」

 

え?と、その場に居た皆が彼女へと目を向けた。

一体、何のことなのだろう――と。

 

「実は――あの癒しの籠は、本来なら精霊の力だと聞いていたけど――妖魔も使えるものなのだと知って――」

「ああ――確かに、あまり知られていないからね……だが、あれが太古の我ら祖先が作り出した力の中にある。だから、妖魔も精霊も、あの術だけは使えるのだよ――他の癒し術は、そのほとんどの力を精霊が受け継いでいるけれどね――妖魔もまた、力は小さいが癒しの術を使える」

 

セイが、その厳つい顔に笑みをのせて話せば、ファースは納得したように頷いた。

 

「お力添え――ありがとうございました……私は、そのお陰で太古の祖先という方に――いえ、実際にはその方にあったわけじゃないんですけれど……その方に、心を癒してもらいました……」

「そう、か――」

 

僕らが驚いているのにも関わらず、どうやらセイには判っているらしい。まあ、その術を使えるくらいなのだから、何かしらの事は判っているんだろうけれど……僕らには、まるきり判らなくて……。

 

「歌が――まるで心を清められるような、そんな歌がずっと私を包んでいたのです……」

 

普段は使わない敬語を必死に使っているファースは、時々つっかえたり、舌を噛みそうになりながらも言葉にしていく。

その話は、まるで僕らには理解し難い、そんなもの。

けれど、実際にあったことなのだろう。だって――その話をしてる時のファースは、幸せそうに、まるで子供が親に抱かれて安心しているかのような顔つきをしているのだから。

それに――セイにも理解できているみたいだ。何度も何度も頷きながら、その目は本当に温かくて――まるで父親みたいだった。

 

「では、アンジーとファースはムールスへ行く――ということで――母上はどうするのだ?」

 

セイの言葉に、僕は少し躊躇う。

けれど――。

 

「出来たら、本当ならローデンの村へ帰るのが一番なのでしょうけれど――母を一人で旅をさせるわけにはいきません。だから、出来たら――ここで母を預かって頂けませんでしょうか?」

 

その言葉に、誰一人として反論することも声をあげることもなかった。

夕べのうちに、テイトには伝えてあったし、母にも自分が僕と一緒に旅することは叶わないと気付いていたらしい。

 

「判った――我が集落は構わない――それに、今、その二人を引き離すのは得策じゃないだろうからね」

 

とセイが、人の悪そうな笑みを見せてテイトを見るものだから、僕は何のことだろうとそちらを見やる。

すると――そこには、顔を赤くして押し黙ったテイトと母が居た……。

思わず、目を見開いて、けれど何だか少しだけ嬉しくて、大きな溜め息を吐き出していた僕。

 

「それって――テイト、お前――アンジーの母親に、手を出したってことかっ!?」

 

ガルドの叫び声は、僕らを呆れさせただけでなく、眠っていたマルを起こし尚且つ、莫迦にされて――何だか、すっかり和んでしまった。

って言うか――手を出したとか、そんな言葉で表現しないでよ…とは、僕の心の叫びだ。

まったく、この男には、本当にデリカシーというものがないんだからね…。

 

「とにかく、数日はこの村で静養し、それからゆっくり旅立つと良いでしょうね」

 

と苦笑しながら言ったセイに、それでもガルドは唸り続けていた。

 

 

 

その後、僕らはテイトの家で寛がせてもらいつつ、家の手伝いをし、母の世話をしていた。

母は、随分と体調も良くなっているようで、今ではテイトと二人、家の中の仕事をするまでには回復しているようだ。そして、マルはそんな二人にくっ付いて邪魔しているのか手伝っているのか――それがまるで、親子みたいで……ほんの少しだけれどヤキモチを妬いてしまうほどだった。

けれど、僕もその中へと構わず巻き込んでしまうのはガルドで、ファースはそんな僕らを見ながら幸せそうに笑っている。

だから――僕は、既に決心していた。

そろそろ、母を解放して、僕の使命には付き合わせない……と。

いや、旅には元々一緒に出られないことは判っている。

けれど、彼女もまた、僕を育てるという使命があったから――。

 

「母さん――僕の本当の姿、見たい?」

 

王都を出る時、大神官さまに掛けてもらった術で、今も尚、体には火傷の跡を見せている僕。

それは、これから新しい場所へ移動するのだから、仕方ないことで――けれど、大神官さまの力は、やはり偉大だったみたいだ。

他の神官さまでは、数日、長くて数週間が限度だったまやかしの術は、けれど大神官さまの力でなら数ヶ月も保つらしい。

お陰で、ムールス大陸へ渡る間の不安も、渡ってからの不安も、かなり楽になっている。

また、一緒に居てくれるファースの力も借りれるということから、僕は今後の心配をほとんどしていない。

 

「見せてもらえるの?」

 

少し、戸惑いながらも問い直してくる母に、僕はニコリと笑って頷いた。

すると、小さく頷き返してくれる母。

だから――ファースに頼んで、母に術を掛けてもらった。

 

 

「嗚呼っ……これが――私の娘の――アンジーっ……」

 

そう言ったきり、母は息を止めてしまうのじゃないか?というくらいに、固まってしまっていた。

そして、どうにか動き出したと思った途端、僕は彼女の腕の中に――ううん、胸の中に収まっていた。

 

「アンジー……本当の貴方に会えるなんて……夢見たいよ……」

「うん……」

「伝説とか……そんなもの、私には判らないし――だけど、貴方が私達の娘であったことは事実――嗚呼…本当に……こんな可愛らしい子だっただなんて……もっと、顔を見せて?」

 

そう言って、母は僕の両頬に手を添える。

その手は温かくて、優しくて――少しだけささくれ立っていて……母の、僕が大好きな……こっちの世界で一番大好きな母の手。

そして、母は目に涙を一杯に溜め込んで、けれど流してしまわないように必死になりながらも、僕の事を見つめていた。

その目が、僕には何だか擽ったくて……だけど、それでも嬉しくて――僕の方こそ泣き出しそうになってしまった。

 

「アンジー……貴方が私達の娘で良かった――こんなに可愛くて…強くて……なんて意志の強そうな目なのかしら――なんて素敵な髪の色なのかしら……こんなに素敵な子が……」

 

何度も何度も、そう言いながら、僕の頬や髪を撫でている母は、やがて泣きながら僕の事を抱きしめて言った。

 

「貴方には貴方の使命があるのでしょう。だけど、忘れないで――私は、今もこれからも、貴方のこちらでの母です――母でいさせて頂戴」

 

そう言われて、僕は本当の意味で泣き出していた。

嗚呼、僕もそう言ってもらえて嬉しい――だけど、だけど……だけどね――。

 

「母さん――」

「駄目よ――貴方は、私の子です……ううん、私の可愛い娘よ」

 

僕の言いたかった事に気付いてしまっていたのだろう母は、まるで言い含めるかのように、宥めるかのようにそう言って僕を抱き締めていた。

そんな僕らをファースが…複雑そうな顔をして、だけどどこか嬉しそうな目をして見つめている。

 

「母さん……僕は――」

「行ってらっしゃい…どこに居ても、貴方が私の子であることは間違えないこと……決して、無理だけはしないで頂戴ね」

 

それを最後に、母は僕の事を突き放した。

そして――そのまま部屋から出て行き、その夜は戻ってくることはなかったのだった。

 

 

 


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